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最後の英雄譚  作者: 陽無陰
第二楽章 眩しさから直視できぬ存在は見えぬ故に理解することは能わず 
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2-1 初陣

 今、魔導車の中は沈黙に包まれていた。

 いや、沈黙とは言い難い。ひそひそと親しき者と話す声は、かろうじて他者の耳にも届く。アタルもアーブもレイアもマーテルも誰もかれも、ある一角を意識しすぎて自然と話声が小さくなってしまっていたのだ。



 魔導車の中は通常ならば走行からくる振動により、三半規管の揺れから体のバランスが崩れてしまい、酔ってしまう症状が出る者が出てしまってもおかしくない。ましてや、シヴァ達が走っている場所は、人為的に整えられている路面ばかりではなく、荒れ果てた素地も走らねばならない。

 しかし、魔導車の中にいる誰もが快適に過ごしていた。

 魔導車の中にいる誰もかれもが乗り物酔いに強いわけではない。

 では、なぜ誰も乗り物酔いを起こさないのか。

 その答えは魔導車に敷かれている魔導器にある。

 各街には穢魔が出てくる魔水晶とは別に、源魔晶(アルケロス)と呼ばれるヒュレーの塊のような水晶が出現する魔水晶が傍にある。

 いや――源魔晶が出てくる魔水晶を恩寵の結晶(グラティア)と呼ぶ――恩寵の結晶があるところに人々は街を建設したといってもいい。

 源魔晶は人々の中にあるヒュレーを補充・励起させ、人々の暮らしを豊かにしていた。

 魔導器は、人々がデュナミスをエネルゲイアのように戦闘用に加工したものであるならば、暮らしを豊かにする為に開発されたものである。

 魔導器は感覚的なものであるデュナミスを魔導学という学問により図式化・数式化し、人々の理解を得られるように定着化することで得られた魔導刻印を刻み、スイッチを入れることにより望んだ効果を発揮させる代物である。

 魔導器はスイッチを入れると、源魔晶に含まれるヒュレーを消耗するので、ヒュレーがなくなってしまえば、源魔晶は消え失せてしまうので消耗品の類いの品物だ。

 故に定期的に特定の源魔晶を追加・補充しなくてはならない。

 魔導車に敷かれている魔導器は、振動を緩衝することを目的とした代物で、魔導車には必ずといっていいほど設置される。魔導車を動かしている燃料も、無論のこと源魔晶が使われている。



 さて、話を戻そう。人や荷物を大量に輸送する事を目的とした大型の魔導車の荷物台の一角では、何者にも犯し難い雰囲気を発するカップルがいた。

 そのカップル二人の名は、シヴァとフラウ。

 シヴァはフラウの太腿に頭をのせ、周囲に気配を探りながらも身体を休めていた。

 フラウは膝枕しているシヴァの髪を掬っては零したり、撫でたりしながら、実に嬉しそうに顔を綻ばせていた。

 そんな二人を見て、いつものことと無視する者、嫉妬に駆られながらも羨ましそうに見る者、そんな友人を見てにやにやする者、顔を赤らめる者、きらきらと目を輝かせる者、運転席から過去に思いを馳せ、やはり親子かと懐かしむ者がいた。

 


 身体を休めながらも、策敵を無意識に行っていたシヴァは、策敵範囲に親しき気配を察知し、フラウの膝からすぐさま跳ね起きる。

 シヴァが傍らに置いていた剣を手にしたところで、フラウは穢魔の接近を悟り、セレナはほぼ同じタイミングでシヴァと同様いつでも魔導車から降りようとする。


「な、なんだ?」


 二人の突然の動きに驚いてしまい、レイアは驚愕の表情を顔に張り付かせた。

 それは、他の三人も同様で誰一人穢魔の接近を察知できなかった。

 二人にやや遅れて察したのがエリオスで、すぐさま魔導車を停止させる。

 シヴァは魔導車が止まるのを待たないまま飛び出し、穢魔が接近してくる方向に駆ける。

 セレナはフラウを抱きかかえ魔導車から飛び出すも、シヴァの後を追わずそのまま待機した。


「穢魔だ!」


 エリオスが知らせることでようやく四人は何が起こったのかを察し、慌てて己が武器を手に取った。


 

 シヴァはある程度接近すると、穢魔を待ち構える態勢に入る。

 確認できる穢魔は五匹、いずれも穢魔の中で数が多い駆竜種だ。

 駆竜種は二足歩行で、鱗に覆われ、大きな鉤爪と鋭い牙を持つ全長約一・五メートル程の穢魔である。

 攻撃手段は鉤爪によるひっかきと鋭い牙での噛みつき。すばしっこい面があるが、一対一で、なおかつ一般的な武力を持つならば、さして苦労はしない相手とされている。

 駆竜種の厄介なところは、大抵が徒党を組んでいることで、こちらも複数いれば特に問題はない相手であるが、単独で相手にするには厄介なところがある。

 駆竜種が穢魔の中で数が多く、相手もすることが多いこともあって、駆竜種を単独で複数を相手にし、勝利することが一人前とされている面もあるのだ。

 シヴァは左腕を突き出し、一匹の穢魔に向ける。

 シヴァの体内にあるヒュレーが活性化し、シヴァの望む形を取る。

 風の刃が空気を切り裂きながら、穢魔の身体をすり抜ける。

 シヴァはそのまま、次の穢魔に左手を向け、同じように風の刃を繰り出し、穢魔を切り裂く。

 二匹、三匹と穢魔の身体が二つに切り離される中、二匹の穢魔がシヴァをその爪で、その牙で切り裂き、鮮血で染めようと肉迫する。

 シヴァはエイドスで迎撃することをやめ、ノエシスをその身に纏い、穢魔がその身に迫る以上の速度で接近し、擦れ違いざま穢魔を一匹切り捨てると反転し、突きを繰り出す。

 通常ならば、剣の間合いの外にいる穢魔に届くことはありえない。だが、突きと同じような効果を発揮する切断のエイドスを飛ばすことにより、剣の間合いを伸ばしたのである。

 穢魔の身体は人とは違う墨のような血液だけを残し、風が吹けば消えてしまう塵のようにその姿を消していった。

 地面に残る黒染めの液体だけが、穢魔がいたという証拠だった。

 

 

 シヴァは他にはもう穢魔が居ないことを確認すると、魔導車の方へと足を向けた。

 何事もなかったように魔導車に戻る途中、ばつが悪そうな五人がシヴァの道を塞いでいた。

 彼らは何か言いたそうに口をもごもごしていたが、彼らの心情を理解していないシヴァは、彼らを無視して魔導車へ戻る事にした。


「兄様、怪我はありませんか?」


「ない」


 恒例ともいえる遣り取りを済ませ、魔導車の中に戻ると、穢魔の襲撃前と同じようにフラウに膝枕をさせ、身体を横たえるのであった。



 魔導車をエリオスが走らせ、暫くすると、アタルがばつが悪そうに謝罪してきた。


「すまない。君だけを戦わせてしまって……」


 それは他の四人も同じなのだろう。エリオスは運転席にいる為表情が見えないが、四人はアタルと同じような表情をしている。

 シヴァにはアタルが何を言っているのか分からなかったが、先の事だとなんとか理解できた。


「別に……」


 シヴァにとってはいつもの事(・・・・・)にすぎない。だからこそ、彼らが何故申し訳なさそうにしているのか微塵も理解していなかった。

 シヴァにとってはいつもと同じ声音だったが、負い目もあったのだろうか、アタルは彼が怒ってしまっているのだと勘違いしてしまった。


「え、えっと……あの……」


 どう言えばいいのか、とっさに言葉にならずしどろもどろしているアタルに救いの手が差し伸べられた。


「シヴァ、次からはこの人達に戦わせてはもらえないかしら? どの程度のものか把握したいから」


 セレナにはアタル達をフォローする気など全くなかった。彼女にとってもシヴァが一人で戦う事はいつもの事だったので、微塵も気にしていなかった。なのに、彼女がこう言いだしたのは、人間関係を円滑にするためではなく、ただ単純に以前シヴァ達と話し合っていた通り、彼女の護衛という役割を果たす為の戦力の確認の為に他ならなかった。

 だが、そんなセレナの思惑など微塵も気づいていないアタル。彼は救いの手を差し伸べられたと勘違いながらも感謝し、名誉挽回の為に意気揚々と張り切ったのであった。


「ああ!! 次は僕達に任せてくれ!」


 それは他の三人も同じ気持ちだったのだろう。何度も頷き、次の戦いに思いを馳せている。


「私は次の戦いは遠慮させてもらいます。あなた達の実力を確かめたいので……」


「ああ! 任された!」


 グッと親指を天に向け、レイアは任しとけと言わんばかりに自信に満ちた顔をセレナに見せつけた。

 荷物台の中のそんな遣り取りを見て、エリオスはクスリと笑ったが、彼はシヴァとほとんど同じタイミングで馬車を飛び出したにも拘わらず、シヴァと共に戦うのではなく、フラウの傍で待機していたセレナが気になっていた。

 ――そして、彼らがそれを当然のように受け入れていることも。


  ** *


「来ます」


 穢魔の襲来を告げる声を発するのはセレナ。

 エリオスは魔導車を止め、四人は各々の武器を取り、魔導車の中から飛び出す。彼らを観戦する予定のセレナはゆっくりと魔導車から出る。

 今回事前の打ち合わせで、エリオスを除く四人で戦うことになっている。エリオスは四人の監督役で、危険だと判断した際に、手助けをする事が決まっている。

 途中までとはいえ、エリオスはかつての『勇者』達と共に世界を旅したことから、実戦経験は豊富だ。

 しかし、弟子であるアタルとアーブも、今回共にするレイアもマーテルも、多少は実戦を経験しているとはいえ、未熟なところがまだまだ目立っていたので、少しでも経験を積ませてやりたいという先達者としての判断だ。特に、レイアとマーテルが不安要素だとエリオスは睨んでいる。二人は戦は経験しているのだが、大人達の監督の元、多少手伝っただけとのことなので、戦いが楽な今の内に慣れさせたいと思っていたのだ。

 故に、セレナの提案は有難かった。セレナが言い出さなければ、エリオスが言い出していたであろう。



「駆竜種が三、豪獣種が一か……」


 こちらに駆けてくる穢魔を見据えて、アーブはそう呟く。

 戦闘を行う際、誰が指揮を取るかという議題が出たが、アーブが取ることに決定した。

 セレナかエリオスが取った方かよいのではないかという意見も出たのだが、二人ともそれを断った。四人は未熟である故に、単独では危うく、組んだ方がいいという意見もあるのだが、二人とも前衛タイプなので、後衛のアーブの方が戦闘中は都合がいいという意見により、アーブに決定したのだ。

 もっとも、セレナは黙っていたが、セレナは単独で動く方が何かと都合がいい。なので、自分とは別のパーティーとしてエリオス達を認識していた事が、セレナにとってはアーブに指揮を取るように言った理由の一つであった。

  

 豪獣種は人の胴回りほどある太さの長い腕と大きな爪が特徴的な熊の頭と大猿のような体躯を持つ穢魔。

 豪獣種は駆竜種と違い、他の種の穢魔と組むが、野にいる場合は単独でいることも多い。また、動きも鈍重で、他の種と組んでいても、戦闘の際単独になる事は多い。

 しかし、それは脅威ではないということにはならない。

 豪獣種の厄介なところは、その人の胴回りほどある豪腕から繰り出される大木さえ容易に薙ぎ倒す強力な一撃と分厚い筋肉に覆われているため、高い防御力を持っている点にある。素早い動きで翻弄するも、分厚い筋肉の鎧でダメージが通らず、疲れから動きを鈍ったところをその豪腕から繰り出された一撃で、殺された例も数多くある。

 故に、豪獣種は最後に倒す事が基本となっている事もある。


「よし、俺が牽制して駆竜種を散らすから二人はそいつらを頼む。俺とマーテルは、二人の相手をしていない駆竜種と豪獣種の動きを鈍らせるぞ」


「了解!」「わかった」「わかりました」


「降り注げ! 撃ち抜け! 氷の礫! 《雹弾(ヘイルバレット)》!」


 アーブの右手から掌ほどの大きさの氷の礫が次々と撃ち出される。アーブの角度を少しずつ変え、駆竜種が散らばるように調整する。

 駆竜種がアーブの攻撃を避けるために散ったのを確認すると、二人はノエシスを纏い、先ほどの氷の弾丸にも劣らぬ速度で左右に分かれた駆竜種に攻撃を仕掛ける。

 ノエシスで身体強化や武装強化を行う際、二種類の指向性がある。一つは局部型、纏衣型の二種類に大別される。

 アタルは軽装の鎧を身に纏っているにもかかわらず、それを感じさせない速度で駆竜種との差を詰める。

 その理由は彼の足に集束させたノエシスにある。身体の局所や装具に局所的に集中させることにより、ノエシスを全身に纏うよりも武器ならば攻撃力を、防具ならば防御力を、脚部ならば速度を、通常よりも遥かに効果を高める事ができる。

 アタルは脚部に集中させていたノエシスを剣の刃部に転移することで切れ味を鋭くし、駆竜種を一撃の元断ち切る。

 対して、レイアはノエシスを全身に纏い、槍と胸当てだけというアタルよりも軽装の身で駆竜種に突撃を仕掛けていた。

 アタルよりも速度はノエシスの多寡により劣っていたが、軽やかに舞うように駆竜種に迫っていた。

 レイアはヒュンと、大気の壁を穿つように突きを駆竜種の胸部に穿ち、槍を抜き去ると脚を薙ぎ払い、バランスが崩れたところを、身体を回転させた勢いのまま急所に肢体を貫かんばかりの裂帛の一撃をかます。


 局部型、纏衣型に優劣の差はない。

 局部型は集束箇所一点に力を集中させるため、その箇所には多大な恩恵を与える事はできるが、それは同時に他の箇所が疎かになることを意味する。例え肉体の一部が鋼鉄に等しい強度を持てたとしても、他の部位はこれまでのそれとはなんら変わらない強度となってしまうのだ。

 逆に、纏衣型は攻守のバランスが優れている反面、局部型と比べ決定力が不足する事は否めない。全身を均一的に強化はできるものの、局所だけを強化したものに比べれば劣ってしまうのだ。

 そして今回、アタルとレイアの攻撃の結果がこのようになったのは、局部型と纏衣型の優劣ではなく、本人同士のノエシスの多寡と自己練磨の差であった。



 マーテルは二人が左右の駆竜種を片づけている間、中央の駆竜種の相手をすることとなった。

 しかし、彼女には穢魔に有効となる程の練磨を持つ攻撃型のエネルゲイアを持っていない。彼女は本来の性格もあるが、自らの修道女としての在り方によるものか、人間相手ならば多少の効果を持つエネルゲイアを取得しているが、穢魔に効く程の効果を発揮するエネルゲイアを現在習得していない。

 だが、彼女には修道女としての誇りと人々を助けたいという意志から、治療用と補助系のデュナミス及びエネルゲイアを取得していた。

 ――今、補助系のデュナミスがそのベールを脱ぐ。


「身重き故にその足を進める事能わず。《鈍重な体躯(ランピッシュ)》!」


 中央の駆竜種は今までの速度から急激に鈍り、足を縺れさせ転倒した。

 転倒した駆竜種を貫くは氷の矢。

 弓を手にしたアーブが残心したまま、次の獲物である豪獣種を見据えていた。

   

 一部の治療用のデュナミスと補助用のデュナミスは、その者の精神であるアストラル体を変化させ、本体であるエーテル体――肉体にその変化を齎すものである。

 今回のデュナミスは、アストラル体に動きを遅くする――正確には気落ち、疲れなどの精神及び肉体に体が重くなる影響を及ぼすデュナミスだ。

 だが、治療及び、補助系のデュナミスには弱点がある。

 それは、本人の意思が影響を及ぼす為、治療はともかく、補助系は相手によっては効かない場合もあるということだ。

 さほど強くない穢魔ならば問題ないが、強力な穢魔だと効かないなんてことは珍しい事ではない。

 ましてや、人間相手だと格下相手や、弱っている相手ではないと効果を発揮させることは通常のデュナミスでは難しい。

 その場合だと、味方の補助に回るのが、補助系デュナミスを使う者の基本だ。味方であるならば、補助系のデュナミスを受け入れてくれるため、効果が発揮しやすいのである。


 ここで一つ、ノエシスについての補足をせねばならない。

 ノエシスの本質は、情報の操作にある。身体強化、武装強化、治療及び補助は、エイドスではなくノエシスの方に分類される。

 ノエシスは対象の個体情報(イデア)を術者の魔法領域に保存することから始まる。

イデアとは、対象を構成している全要素を含んだ情報体の事であり、人は言うに及ばず、生物及び非生物までイデアを持たぬものは存在しない。

 ノエシスは魔法領域に情報を保存した後、別の魔法領域を用いる事によって他の対象へと干渉することができる。

 例えば、身体強化は術者のイデアに筋力増強や肉体強度などの情報を仮想的に加え、現実世界でその状態を再現する。武装強化は上記の物体版であり、物体の強度や物理的作用の増幅を行う。局部型や纏衣型は、それらのどれに魔法領域を割く割合の数字を示している。この二つは、いずれも情報の加筆に分類される。

 逆に、補助は情報の修正である。対象のイデアに干渉し、対象のイデアを術者の望むままに加筆したり、削除したりと対象の持つ数字を歪めるのだ。とはいえ、個人差はあるがイデアにも強度があるので、対象のイデアを思いのままに操る事は、かなり強い干渉力を必要とする。

 そして治療とは、対象のイデアを術者の魔法領域に謄写した後、対象のイデアの記録を遡り、情報の復元を行うことである。どの程度まで復元できるかは、術者の力量や復元されるまでの時間が考慮される。復元されるまでの時間が長いと、復元しなければならない項目が増えてしまい、結果的に全てを復元することができなくなるためだ。

 

 アーブは範囲攻撃型のエイドスを多用する魔導師だ。

 だが、それだけでは消耗が激しいので、弓の魔導器を使う。

 この弓は使用者のヒュレーの消費を抑える効果があり、矢が無くとも、使用者のヒュレーを使用することにより、矢型のエイドスを造る事が出来る。

 アーブは専ら、自身の得意な水のエイドスを使用し、時にはそのまま、時には氷にして矢として撃ち出す。


 ノエシスが情報の操作にあたるならば、エイドスは情報の再現に分類される。

さらにエイドスには二種類あり、一つが炎、水、風、雷などの自然現象を人為的に発動させるもの。

 もう一つが衝撃、吸収、振動、加速など物体に作用する性質を発動させるものがある。

 エネルゲイアとは、ノエシスとエイドス両方を複合させ、単体で用いるよりもより強力に発動させるものを指しているのだ。


 駆竜種を撃ち抜いた後、アーブは次の標的である豪獣種を睨んでいた。

 二人が豪獣種に駆けつけるまでの時間稼ぎと、気を逸らす為に、衝撃のエイドスの矢を造り出し、次々と放つ。

 光の矢は豪獣種に突き刺さると破裂し、衝撃を与える。

 しかし、豪獣種は僅かにその巨体を揺らしただけで、ダメージを受けた様子はまるでない。だが、アーブはダメージがないにもかかわらず、衝撃の矢を射る事を止めない。

 鬱陶しいとばかりにアーブを睨みつけ、聞いた者を震わせる雄叫びを咆哮する。

 豪獣種がアーブに気を向けるのを、好機といわんばかりにアタルが弾丸のように突進し、豪獣種の左腕を斬り飛ばす。


「もらった!」


 一拍遅れて迫るのが、レイア。彼女の槍は豪獣種の心臓を貫かんと、胸部目掛けて突き刺さるが、筋肉の鎧が彼女の槍をそれ以上貫こうとするのを防ぐ。レイアは必殺の一撃とばかり思っていたので、槍が進まなくなる事と抜けない事が同時に重なってしまい、致命的な隙を生む。


「――っ!!」 


 彼女が自身に迫る凶爪を察知した時には既に遅く、彼女は凶爪にかかることを目を閉じることでしか対応できなかった。

 いつまでも来ない凶爪に、おそるおそる彼女が目を開けると、アタルが右手を斬り飛ばす姿と豪獣種の顔に氷の矢が刺さっている姿だった。

 アタルは剣を離すと、突き刺さっている槍をノエシスで強化した力で押し込む。

 豪獣種はゆっくりと倒れ、その姿を消してゆく。


「大丈夫かい?」


「……ああ、助かったよ――」


 レイアは悔しそうに唇を噛み、地面に突き刺さっている槍を引き抜く。


「レイア! 大丈夫!?」


 危険が迫っていたレイアを心配し、マーテルが駆け付ける。


「ああ、大丈夫だ」


「危なかったな~。感謝しろよ?」


「――っ! わかっている! ありがとう」


 軽い口調で、恩着せがましく言うアーブに腹が立ちそうになるも、助かったのは事実なので礼を言うが、レイアは悔しそうに顔を歪めた。


「ふむ……」


「…………」


 エリオスとセレナは、今の戦いを静かに分析していた。


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