序曲
ここに一冊の本がある。
歴史に非常に興味が惹かれている私は、今日も今日とて歴史の資料を読み漁り、過去の出来事に思いを馳せようとしていた。
その私が特段惹かれたのが、厳重に隠されていた一冊の本である。立派な装丁が施されているが、特に目を惹かれるのが表紙にある円環に閉じ込められている十字架である。その十字架の上部の先には黒、左部の先には白、右部の先には青、下部の先には赤とまるで方位を示すかのように各色の小粒の宝石が嵌め込まれている。そして、何より目を奪われるのが十字架中央にある黄金である。
一体どんな本なのかと作者名を探した私は、裏にある作者名に心臓を鷲掴みされたかのような驚きを覚えた。
この本の作者は、過去の偉人――特に私が興味を抱いている時代の偉人である。
何故私がその時代に興味を抱いているかというと、その時代を境に世界の在り様は一変したからである。
だがしかし、その時代を探ろうともその当時の資料は散逸的で、人々の口承を頼りにその時代を慮る他なかったのである。
だからか、その当時の状況を人々が残された資料を頼りに想像し、本や映画、劇などの様々なメディアによって人々の心を躍らせるのである。
斯く言う私もその一人で、私が歴史に興味を持ったのもそのおかげといえよう。
マニアともいえる私が、期待に胸を躍らせるのも無理無い話である。
ゴクリと唾を飲み、震える手で表紙に手を掛ける。
そうだ、一つ忘れていた。
この書の表紙にはこう書かれている――『最後の英雄譚』と。