混ざる色、それは綺麗で汚く
不思議な事に、黒いなにかは写真、映像などには写らない。
しかし、その場に居た多くの人々は確かに見たと言うのだ、ある時は大きな災害が起こった時に、その黒いなにかはテレビに映っていた。
多くの人が、焦り、どうにか助かって欲しいと強く願っていた。
そんな時、テレビの画面では確かに黒き、大きな背中を、正しく英雄の姿が多くの人々の目に届いていた。
しかし、後日それを流すと何処にも写っては居ない。
ただ、実況のリポーターの言葉だけが、それを証明しているには過ぎなかったのだ。
まるで、1世紀前の子供達の目には本物の英雄に映っていた彼らのように映り、しかし大人に取っては作り物の登場人物の如く見えない存在。
――――その黒は画面から消えていた。
しかし、その英雄が目の錯覚だったとしても、幻覚だったとしても。
確かに涙の理由は変わっていた。
良かったと、愛する人が助かった、愛する街が無事だったと、思い出を失わずに済んだと。
誰しもが喜びの涙を流したのだ、それは絶対に消えることは無い。
――――しかし、時には黒きなにかが居たというのに、涙の理由が絶望の時もあった。
黒き英雄でも、守れないものがある。
それは子供のように、その姿を見た瞬間に声を挙げる人々をより深い絶望へと陥れる。
時には、その黒いなにかの努力が足りないからこうなったのだ。
そういった言葉すら飛び交う程だ、しかし、そう言った時には必ずこういう声も挙がる。
――――黒い英雄は俺の妻は守ってはくれなかったかもしれない。
だけど子供は助けてくれた! だけど娘の友人家族を助けてくれた!
涙を、黒い理由で涙を流しつつも、男は叫ぶ。
黒き英雄はどんな困難にも負けはしない。
黒き英雄は絶対に諦めない。
黒き英雄は足掻き続ければ、必ず現れる。
そして現に現れた。そして戦ってくれた。そして守ろうとしてくれた。
時には、力及ばず、結果として勝ちを譲る事はあるかもしれない。
しかし負けてはいない、決して、絶対に、誰がなんと言おうとも、負けてはいないのだ。
――――英雄とは、誰かが信じ、誰かが諦めない限り颯爽とまた現れる。
そんな議論が起こっていた頃だ。
この言葉は誰も否定できないものへとなる、黒いなにかは黒き英雄という名へと代わったのはその時だ。
再度、その場に、黒き殺意が現れた。
一度、黒きなにかを倒した、恐ろしい黒が襲ってきたのだ。
「――――舐めるなよ」
その悪しき黒に対するは、新たなるやさしき黒。
誰になんと言われようとも、黒き英雄は諦めない。
ただの1人でも、己を信じてくれる存在がいる限り、英雄は倒れない、幾度でも立ち上がるのだ。
――――頑張れ!、こちら第1消防です現在っ!、俺もいく!、頼む!、私に出来る事は!、婆さんこっち!、お母さんっ来てくれた!、信じてる!
幾度倒れようとも、何度でも立ち上がる。その声がある限り、その声が大きく響く限り。
そして、その声を聞き届ける存在とはただの1人である理由は無いのだ。
やさしき黒とは、1つではないのだから。
「――――大丈夫だ」
「――――私は、私はっ」
「――――Don't Worry」
黒き英雄は、1人ではない。
その事実は世界を震撼させた、しかしそれは世界に希望を与えるものだ。
しかし、どんな英雄も、何かを待つように、何かを恐れていたように、現れるのはギリギリであり。
声は英雄に相応しくない震えを隠すかのように聞きづらいものだ。
だがしかし、その眼光は、拳は、足取りは、誰よりも力強く、何よりも大きなもので。
忘れてはいけない、この世界にはどこであろうとも黒は存在する事を。
忘れてはいけない、この世界にはいつであろうとも黒は襲い掛かる事を。
忘れてはいけない、この世界にはそんなときであろうとも黒は一つでは無いという事を。
――――やさしき黒の、腰には燦燦と輝くベルトが、人々の願いと祈りが、努力と信念が、集まっているのだ。
正義の英雄とは、画面の向こう側の存在ではない。
画面を通してでも伝えたい、それを見せた本物の英雄が事実としているからこそ、1世紀も前に子供のためにテレビに仮の姿で映っていたのだから。
――――しかし今でも尚、黒き英雄、変身ベルトは都市伝説の域を出ない。
夢幻の如く、消えてしまうからだ。
番組が終わったかのように、録画された映像、写真には写らない。
映っていたのは人の目にだけなのだ、どうしても絶対にいるとは言えなかった。
――――しかし、黒き英雄は、今も何処かで悲鳴を聞き届け、颯爽と現れている事だろう。
何故ならば、黒き英雄は何処にでもいて、何処にもいない。
しかし、だからこそどんな場所でも、どんな時だろうと現れるのだから。
――――英雄とは都市伝説である。
誰も、それが誰かなどと分かるはずもないのだ。
誰でもあり、誰でもないのだから、それこそが黒き英雄なのだから。




