表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

何処かの誰かの決心

変身ヒーローモノを題材にした作品となっています。執筆当時は自重していた内容を含みます、自然災害などを題材に加えている作品を忌避する方はご遠慮願います。

 

 ――――変身ベルトは実在する。


 そういった都市伝説が最近、全国でささやかれ始めている。

 1世紀ほど昔の子供向けテレビ番組の定番アイテムであるところのソレ。

 当時よりは技術が進歩しているとは言え、当然だがそのようなものには至っていない。

 しかし現実として、何かしら助けを求めた人々の元に現れる謎の影はあるそうだ。

 ニュース等々では錯覚である、混乱していたのだろうと言われているが、それが何度も続けば報じる側も謎の英雄ヒーローとして扱い始めていた。



 ――――そして、ある都市で助けを求める悲鳴が今日も轟く。


「誰かっ! お願いですっ、まだ中に息子がっ、買い物に行っていて!! 私がっ、戻って!」


 燃え盛る建物を目前にして、叫び声を上げるのは一人の女性。

 その声は、焦り、絶望によってしどろもどろ、しかし言いたことだけは確かに分かった。

 それを消防隊員が押さえ込んでいる、しかし女性は尚も進もうとする。


「だめだっ、もう! これ以上は進めない! 我々でもこの中ではっ」


 そう現実を告げながらも、そう止めながらも、隊員の声は制止のソレではない。

 己の無力を。守りたいからこそ今の立場になったというのに、その立場になってしまったからこそ分かってしまう現実に、泣いているような声だ。

 そんな時、そんな人々は、一体何に願うだろうか。


 ――神だろうか。

 ――奇跡だろうか。


 否、この国では願うのだ、祈るのだ、子供の夢に、笑い話の存在に。


 ――――そしてソレは必ず現れる、颯爽と、しかしギリギリの場面で。


「――――」


 いつの間にいたのだろうか、野次馬の中に、たった一人のなにかがいた。

 そして歩きだす、その声を聞き届けたかのように。

 ゆっくりと、しかし確かに前に進むのだ。


「あっ! きっ君!? っ…………そ、そんな馬鹿なっ!」


 先ほどの女性を制止していた隊員ではないが、同じく無力に拳を握っていた隊員がそのなにかを制止しようとした。

 そして見た、全身を何かで覆った、一見すると馬鹿なような格好。

 しかし、その眼光は鋭く、握られた拳は力を宿し、前に進む足には迷いが無い。

 何よりも、前方の燃え盛る炎の明かりを物ともしない、燦燦と輝く、太陽のような灯りを宿した腰のベルト。

 それを見た瞬間に、その隊員は、周りの人々は声を止めた。


「――――大丈夫、俺は出来る」


 ひどく聞きづらい声だったが、確かになにかが、そう言った。

 そしてゆっくりとした歩みから、徐々に早く、速く、はやく。

 そうして燃え盛る炎の中へと飛び込んだのだ。


「なっ!? し、しまった! ……っ応答願います! こちら現場、○○市、××区で発生した火災現場の田所であります! 謎の男らしき人物が制止を振り切り、建て物内へと突入! 本部、本部っ、指示を、指示を願いますっ!!」


 そう言いつつも、自分がしたくても出来なかった行動を。

 それを行った様を見せ付けられた男は本部からの指示を請う、否。

 己も謎のなにかの救助という名目で突入する許可を取ろうとしていたのだ、しかし指示は現状維持の一点張りであった。


「くそっ! なんでだっ、俺は、俺はっ」


「隊長! 落ち着いて下さいっ! あの姿を見たでしょう、英雄ヒーローですよっ! きっと、きっと来てくれたんだっ!」


 拳を消防車へと叩き付けていた男を隊長と呼びながら、語りかけるのは若い隊員だ。

 その言葉は震えている、恐怖からか、興奮からか、それとも己の情けなさにか。

 しかし眼だけは、最後の希望を信じていた。

 その眼を見た隊長は、しかし硬い笑みを浮かべて言う。


「……本来は、我々がその役目なのだがな…………。しかし、だからこそ願うしかあるまい、どうか、どうか」


 そう、隊長の男が祈った時だ。

 建物から十分な距離を取っての消火作業をしていた彼らの元にも衝撃が走る。

 爆発が起こったのだ、最上階の部屋の窓ガラスが吹き飛んでいる。


「っなんという事だっ! まさかっ!?」


 ガスが最上階に溜まっていたのだろうか、とにかく最上階で爆発が起きた。

 そして、先ほどの女性が住んでいた部屋は最上階にあったのだ。


「いやっ、いやあああ! そんなっ、そんな!!」


 その爆発に驚愕し、周囲の安全を確かめていた隊長の耳に、女性の悲鳴が届く。

 それは最早、ひび割れたもので、なんとか声になっているような音だった。

 しかし、その女性の涙が、遂に全てが絶望の色に染まりきろうとした時だ。


「……ん?」


 人々は何かに気がついた。

 しかし揃って下を見つめる、地面だ。 燃え盛る建物と消火作業を行っている車両との中間地点を、無言で見つめる。

 そして、そこには黒き点が、徐々に、段々と大きくなる。

 時間にすれば一瞬だろうか、それとも1分であろうか。

 それが経った時、先の爆発に勝るとも劣らない衝撃は迸った。


「――――大丈夫だ」


 そこには、燃え盛る炎を背に、腕には泣き叫ぶ幼い男の子を抱えた者が立っていた。

 そして、やはり聞き取りづらい声で、そう言うのだ。

 気のせいか、先ほどの声よりも若干柔らかい、暖かさを感じるものだ。


「あ、あぁ……あぁっ!!!」


 言葉にならない嗚咽を抑えずに、女性はなにかの元へと走る。

 その場は未だ危険だというのに、隊員もそれを止めることは出来なかった。

 そして、女性は謎のなにかの腕から子供を受け取り、愛しげに頬を寄せて涙を流すのだ。


 ――――しかし、流れる涙。 その色は絶望では無い。 黒き絶望では無いのだ。


 その様子を暫し眺めた謎のなにか、否、英雄ヒーローは音も無く消えた。

 その事に気がついた隊長は、辺りを見渡す。

 しかし、その英雄ヒーローの姿は見えなかった、代わりに少々離れた場所で蹲る青年を見つけた。


「おいっ! 大丈夫か!! まさか、先程の爆発で何処か怪我を!?」


 隊長は、急いでそこへと駆けつけ、抱きかかえながら声を掛けた。

 その言葉に、青年は痛みに苦しみながらも笑って言った。


「いや……腹が、痛いです……」


 その聊か場違いな発言に、一瞬目を点にしつつも、大事が無い事を知って隊員は安堵する。


「腹痛か、しかし万が一もある。病院へ行こう、大丈夫だよ。 救急車もある、スグに行けるからな。……っと、大丈夫か、立てるか?」


 隊員に肩を貸しながら、2人揃って救急車へと歩いていく。

 腹痛によって顔を歪める青年は、しかし空を見ていた。


「……英雄ヒーロー、か。なんだよ、来てくれるんじゃないのか、ったくよ」


「ん、どうかしたかい?」


 小声で何事かを言った青年に対し、隊長は柔らかい声でそう尋ねた。


「え、いや。なんでもないです、っていうか別に大丈夫ですって! ちょっとトイレで踏ん張ればなんともなくなりますって!」


「誰でも最初はそう言うんだ。万が一があると言っただろう、こんな時にそうなったんだ、慎重になる事は悪い事じゃない」


 そう言う隊長の顔は、情けないような、力に溢れているような、なんとも言えない顔をしていた。

 しかし、先ほどまでの絶望の色はない、無力を知ったからこそ、彼の言葉には力が篭り、顔は明るい。

 己に出来る事を精一杯するという意思に満ち溢れていた。


 ――――1世紀ほど前に子供達の夢と希望を一身に受けていたテレビ番組にだけ存在していた英雄ヒーロー


 しかし、それはもしかすると、何処にでもいるのかもしれない。

 それは一時の勇気だ。一時の覚悟だ。一時の覚醒だ。

 それを持てるのは、誰しも為れるし、誰しもが成れはしない偉業であり蛮勇。

 そういったモノを持つためには、誰かから背中を押して貰わなければならない、誰かのためにと強く願わなくてはならないのだ。


 そして、それは誰かを強く愛する人がいて、その誰かを助けるために必死に足掻く人がいてこそ。

 それでも尚、涙の理由が黒くなるとあれば、人は誰でも英雄ヒーローになれるのだろう。

 そして立つのだ、人々の前に。

 涙を理由を変えるために、黒き絶望を、無となる黒を変えるのだ。

 まるで人々が安心して眠られる、包み込むような黒を背負って、悪しき黒を倒すべく現れる。


 ――――そんな謎のなにかが、この世界には存在する。


以上になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ