これが美倉家の始まりです(前編)
生存報告代わりの更新。
所で、小説ネタの方のアクセス数&ユニークが何故か激増してる件。
……私の知らない間に、一体何があったし。
「皆、ちゃんと自分の荷物持ったかー? 忘れモンは無いなー?」
「え、と……うん、よし。はい、大丈夫です!」
「僕も問題ないです。」「「持ったー!!」」「もったのー!」
「よしよし。それじゃ、皆の所に挨拶しに行くぞー。」
……ん? 何してるのかって? ああ、今日は引っ越し当日なんだ。
もう荷物は全部改築済みの新しい我が家に運び込んであるんでな。
後はこいつら自身と、ちょっとした手荷物ぐらいなんだよ。
で、今日はこの孤児院……基。児童養護施設『未来』から出て行く日ってな訳さ。
「あら? もう準備は済んだのかしら?」
「ええ、ちょっとした手荷物ぐらいでしたから。」
「「「せんせー!!」」」
「あらあら。羽美ちゃん、理玖君、可奈ちゃん。今日も元気ね。」
と、俺が院長と話している間に、下のガキんちょ共が院長に突撃しやがった。
……ったく、間の悪い。まあ、子供に言ってもしゃーないけどな。
由宇と総司も、それぞれこの施設の友達と最後の挨拶してるし……ま、いっか。
そう思って、暫くこいつらの好きな様にさせてた。それが20~30分ぐらいだったかな?
取り敢えず、ってけじめを付けて、ようやっと玄関でお見送りってな事になったんだ。
「それでは、美倉さん。改めて、由宇ちゃん達を宜しく御願い致します。」
「はい、確と御預かり致します。」
「由宇ちゃん、総司君、羽美ちゃん、理玖君、可奈ちゃん。どうか、元気でね。」
「はい。院長先生もどうかお元気で……。」
「おいおい、今生の別れでもあるまいし。又来ればいいだろ? なあ?」
まるで二度と会えないかの様な涙ながらの言葉に、思わず突っ込みを入れる。
序でに、且つ忘れずにちゃんと総司達にも同意を促しといて、と。
「そうだよ姉さん。もう会えなくなる訳じゃないんだし。」
「う、うん、そうよね。なんか、つい、感極まっちゃったっていうか……。」
「さ、それじゃもう行くとするか。あんまり長居すると却って離れ難くなるしな。」
一息吐いたと判断した所で、もう行く事にした。
じゃないと本当にいつまで経っても離れらんないからな。体験談として。
「それじゃ、先生……。」
「ええ、さようなら。また、いつでもいらっしゃい。」
院長と由宇の言葉を皮切りに、互いに次々と言い合いながら施設を離れて行く。
「羽美ちゃーん! またねー!」
「うんっ! またねー!」
「リクー! また遊びに来いよー!!」
「おーっ! お前らもたまには遊びに来いよー!!」
「総司ー! そっちでも頑張れよー!」
「ああ! ありがとう!」
「かなちゃん! バイバーイ!」
「ばいばーい!」
「由宇ちゃーん! なんでもなーい!」
「もうっ! 何よそれー! ……またねー!」
「またねー!」
「……ほれ、もういい加減泣き止めって。」
「ヒック……ぐすっ……だ、だって……。」
「ほら、姉さん。あんまり泣いてばっかいると、みんなに笑われちゃうよ?」
現在、電車の中。俺の横では由宇が未だ泣き止まずにべそを掻いている。
由宇の両隣の片方では総司も一緒に、姉をあやしている。……一方。
「おお! スッゲエ! こんな遠くまで来たの初めてだ!」
「もう、いい加減落ち着きなさいよ理玖! 恥ずかしいじゃない!」
「何だよ、そういう羽美だって俺とおんなじ姿勢でずっと外見てんじゃん。」
「う……うるさいわね! 私のことはいいのよ、別に!」
「ちぇ、何だよそれ。」
羽美と理玖の二人は靴を脱いで、座席に後ろ向きに膝立ちして外を眺めている。
え? 他の乗客に迷惑だろうって? あ~……そういや未だ言ってなかったな。
今更ながら一応説明しておくと、俺の住んでる所は一応都会には入る、のだが。
それも、地域的な意味で枠内にあるってだけの話で、実質的にはもう少し田舎だ。
近所では商店街が繁盛してるし、隣近所との付き合いも色々と長かったりする。
なもんで、家の方に向かう電車の中に人はそんなにいないし、
何より丁度いないタイミングを縫って来たんで、こいつらが燥いでも今は問題ない。
まあ勿論、通勤時とかはそれなりに混むんで、後でちゃんと言っておく必要はあるが。
取り敢えず、今は好きにさせておく事にした。
一番騒ぐだろうと思った末っ子の可奈は、すっかり寝付いて俺に凭れ掛かってるし。
つまり、今解決しなければならない最大の目下の問題は、この泣き虫姉なのであった。
「さて、と。やっと着いたか。」
あの後、何とかようやっと泣き止まして、更に20分ぐらい乗り続け、今駅に着いた所だ。
一応、それなりに車は走ってるし、バス乗り場もタクシー乗り場もちゃんとある。
近くにそれなりの大きさの掲示板もあるし、ちょっと歩いた先には交番だってある。
といった事を、知らない土地をキョロキョロと眺める子供達に軽く説明してやる。
「……てぐらいかな。困ったり迷った時はお巡りさんを呼ぶといい。
おじさんのお巡りさんと兄ちゃんのお巡りさんがいる。
どっちも気のいい人だし、地元出身で俺とも顔馴染みだから安心していい。」
「はい、分かりました。」
「よし、それじゃ行こうか。あの『3』って書いてあるバスに乗って行くんだ。」
「え~……未だ乗ってくのかよ……。」
もう乗り疲れたのか、理玖がぶー垂れて来た。
まあ、流石に40分強も電車に揺られちゃ、大人でも大概退屈するからな。
「まあそう言うな。後はあのバスに乗っちゃえば、降りてすぐ目の前にあるから。」
「しょうがねーなあ。もう少しおっちゃんに付き合ってやるよ。」
「こら、理玖っ。なんて口利いてるのよ、もう!」
如何にも悪戯小僧が言いそうな物言いに、
(可愛い奴め)と思っていると、由宇がそれを窘めた。
「そんぐらい気にすんなって。男同士ってのは、大概そんなものさ。なあ?」
「へへっ、おうよ! 姉ちゃん、やっぱ固すぎ。そんなんじゃ、カレシ一生できねえぞ?」
「うるさいっ! 余計なお世話ですーっ! フンッだ。」
微笑ましい姉弟喧嘩をいつまでも見ていたくはあったが、
人は然程多くは無いなりにも一応は天下の往来。所謂、公共の場。
流石にやかましいまま放置しておく訳にはいかないんで、二人の頭を撫でて、
喧嘩両成敗の意味でも、軽く二度ポンポン叩いてからバスの方へと皆を促した。
「さて、と。やっと着いたか。」
「おじさん、それさっきもおんなじ事言ってたよ?」
「そうだっけか? ま、いいや。」
あれからバスに揺られる事、凡そ20分弱。
電車と併せて、大体一時間ぐらい乗り物に運ばれて、ようやっと到着する。
学生や社会人にとっちゃ当たり前な話なんだが、子供達にとっちゃ、なあ。
そんなこんなで、大分いい感じ(?)にグダって来た頃に降りる。
と、いいタイミングで俺に負ぶわれた可奈が目を覚ました。
「……あれ? ここ、どこ?」
「おう、起きたか。お早う、可奈。」
「おはよーなの。おじさん、ここどこ?」
「ここか? ここは俺達の家の近くだ。もうすぐ着くぞ。
どうする、降りて歩くか? それともこのまま負んぶがいいか?」
「おりてあるくー!」
元気一杯に返事する末の妹は、屈んだ俺の背中から飛び降りて、由宇と手を繋いだ。
……別にちょっと寂しいとか、少し背中の熱が恋しいとかは思ってないぞ?
「んじゃ、行くか。後少しだからな、皆頑張れよ~。」
「「「「「おー!!」」」」」
ほんと、子供っていつでも元気で羨ましいこって。
「「「「「お~~~……!!!」」」」」
「(よし、その反応が見たかったんだ。)喜んで貰えて何よりだよ。」
これから自分達が住む事になる家を目に前にしての感想である。
普通の一軒家というには少し大きめの、然しとても豪邸とは呼べない程度の一軒家。
一応、ちょっとした庭付きで、もしこいつらがやりたいなら、
ガーデニングも出来るし、ちょっとした子供用の大きめのビニールプールも使える。
なんなら、少し大きめの犬とかも飼える。ま、子供達が望めば、の話だが。
さっきの道端での『おー!』とは違い、目を輝かせて嬉しそうに眺めるこいつらに、
(してやったり!)てのと(可愛い奴らめ)という半々の想いがあった。
「んじゃ、入るか。ほれ、お前ら先に入っていいぞ。」
「おっしゃー! 俺、いっちばんのり~!」
「ああ~っ、理玖ずる~い! 私も先に入りたかったのに~!」
「あ、かなもかなもー!」
「あ、二人ともっ。可奈もそんな慌てなくても、大丈夫だってば。」
「もう、仕方ないなあ。ほら、総司も一緒に入ろ?」
やいのやいのと騒ぎながら入る一同だったが、入った瞬間『おお~……!』と、
一声上げて立ちんぼになってリビングを見回す。
「どうだ? 少し広めにしておいたからな。多少ドタバタ遊んでも大丈夫だぞ。」
「すっげー! めっちゃくちゃ広いじゃん!」
「机もおっきいね。色んなもの一杯おけそう。」
「キッチンも広い……。わ、結構色んな物置けそう。」
「あははは! これおんもっしれえ! 色んなとこ開けられるんだな!」
「あ、こら理玖! ここで遊んじゃダメよ! 危ないでしょ!」
「へーい! あ、あっちの部屋はなんだろ!」
……子供ってのは、どうしてこんなに元気なんだろな、ほんと。
由宇は台所に興味津々で、羽美は理玖と一緒にあっちにフラフラ、こっちにキョロキョロ。
総司も大分そわそわしてるけど、可奈が危なくない様に手を引いているのに必死らしい。
……悪いな総司。今度、何か菓子でも奢ってやっから。
てな事を考えていると、理玖が階段横のドアを思いっきり開けた。
「ああ、そこは俺の部屋だ。大したもんは無いけど、あんま気軽に入んなよー。」
「へえ、それにしては結構片付いてんじゃん。おっちゃん、結構キレイ好きなんだな。」
「おじさんの部屋……わ、私も見てもいいですか?」
何故かキッチンに御執心だった由宇が妙に喰い付いてきた。
その横では羽海が妙にニヤニヤして由宇を突いている。……なんなんだ?
「ああ、構わないけど。ほんとに何にも無いぞ?」
「い、いいんです。私は構いませんから。それじゃ……ちょっと。」
ほんとに何が楽しいんだか。子供の興味の対象基準が未だに良く分かんねえ。
恐る恐る、然し嬉しそうに人の部屋を皆して挙って覗いていきやがる。
その内、羽海がさっきのニヤニヤ顔で何かを由宇の耳元に囁いた。
すると、由宇が突然顔を真っ赤にして羽海を叱った。
何を言ったのやら、と思っていたら逃げる様に羽海が二階へと上がり、
それを追って由宇も上がる。すると理玖も「面白そう!」と言って上に上がり、
総司が可奈と一緒に、その後ろを苦笑しながら上っていった。
「あははは。あ~、おっかしい。お姉ちゃんってほんっと分かりやすいよね~。」
「もうっ、羽海っ! あんまりお姉ちゃんをからかってると……って、あれ?
これって……。」
「ごめんごめん……って、ん? どしたの?」
「あれ? なんだ、もう追っかけっこ終わり? って、どうしたのさ、二人とも。」
「理玖、どうしたの? 羽海に姉さんも。そこで何してるの?」
リビングに居てもしっかり聞こえて来るガキんちょ達の声で状況が見なくても判る。
ははっ、どうやらようやっと気付いた様だな。全く遊び盛りどもめ。
さてと、こっからがメインディッシュだ。ちゃんと要望通りにしておいたんだぜ?
お前達が望んだ通りにな。だから……少しは喜んでくれよ?
「? ……あーー!!! かなのなまえだー! ここ、かなのおへやー?」
「え? あ、ほんとだ。ちゃんと平がなで『かな』って書いてあるね。」
二階には部屋が五つ。階段を上がって右側に二つ、左側に三つ。
階段の真後ろにトイレがある。金にモノを言わせて、男女別々だ。(ドヤァ
その五部屋の内、左側真ん中が可奈の部屋だ。
ちゃんとドアに吸盤付きのブラカードっぽいものをぶら下げて、
そこに御丁寧に『かな』とかいてある。勿論、可奈にも読める様に平仮名でだ。
「うんっ! あ、こっちにもなにかかいてあるよー?
……う~……でも、かな、まだかんじわかんない。
ねえ、おにーちゃん、なんてかいてあるの?」
「え~っとね……可奈の部屋の方を向いて、その右隣が『羽美』。
それで、羽美の反対の隣が『総司』。つまり、僕の部屋だね。」
「じゃあじゃあ、あっちは?」
「こっちはね、可奈の前の部屋が『理玖』の部屋。
その隣が『由宇』姉さんの部屋だよ。」
「じゃあ、みんなおへやちがうの?」
「うん、そうみたいだね。……本当に僕たちがお願いした通りに作ってくれたんだ。」
可奈と総司が今説明した通りだ。新築するに当たって、あれこれ聞いておいた。
その中でも特に皆が主張したのが、部屋の位置と内装だ。
当然、皆が望んだ通りの作りになっている筈だ。
……まあ、もし微妙に違ってても直ぐに作り直せばいいだけの話なんだが。
と、そんな最悪の事態を考えていた時だった。
「「「……っっ! ぃやっっったああああああ!!!」」」
「うおっ、ビックリした。」
異口同音に歓喜の声が上がった。あの声は由宇と羽美と理玖だな。
どうやら、問題は無かったらしい。ホッと胸を一撫でする。
すると、ドタドタと音がする。猛スピードで階段を降りて来ているらしい。
「「おじさん! ありがとう!!」」
「おっちゃん、アンタマジ最高だぜ! 俺、おっちゃんに一生ついてくよ!」
「んな大袈裟な。まあ、喜んでくれたなら何よりだ。どうだ、何か手違いとかはないか?
運び込まれてない物とか、ちょっと角度が気に入らないとか、何でも構わないぞ?」
「「「全然マッタク!」」」
「お、おう。そうか、それならまあ、いいんだが。」
嬉しそうに目をキラキラさせながら、また二階に上がってった。
多分、自分の部屋に行ったんだろ。ガチャ、バタン! という音が三回聞こえて来たし。
と考えていたら、今度は入れ違いに総司と可奈が一緒に降りて来た。
「おじちゃーん! かなのおへや、うれしーの! ありがとなの!」
「おうっ、……ど、どう致しまして。でも、可奈にはまだベッドは早かったかな?
まだまだ、姉ちゃんや兄ちゃんと一緒に寝たいだろ?」
「うんっ! でもでも、ありがとなのっ!」
「そうか、喜んでくれたのなら俺も嬉しいよ。」
俺にジャンピング突撃して来た弾丸幼女(物理)を必死に受け止めて話していると、
頃合いを見計らって総司が話し掛けて来た。
なんて良い子だろうか……お前はほんと気配りの紳士だよ、マジで。
その年で並々ならぬ苦労があったんだろうな……この元気過ぎる弟妹じゃあなあ。
今度、菓子だけじゃなく玩具も買ってやろう。そんな事を考えつつ総司とも色々話した。
「おじさん。」
「ああ、総司。どうだった? ちゃんと要望通りになってたと思うんだが。
もし何か不都合とか諸々あったら遠慮なく言ってくれ。すぐに直してやれるからさ。」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。むしろ完璧でした。
僕がお願いしてなかった所まで、僕がああしたかった通りになってました。
多分、姉さんたちも今の僕とおんなじ心境だと思います。
おじさん、本当にありがとうございます。」
「いや、まあ、そこまで言って貰えればこっちも頑張った甲斐があったってもんだが。
そうか、そんなに気に入って貰えたか。
いや、余計な事をしたかとちょっとした不安があったんだが、まあ杞憂で良かったよ。」
そう。実は、こいつらの御願い以外に、俺が独自で手を付け加えた箇所が幾つもあった。
きっと、由宇ならこんな感じの物欲しがりそうだな、とか。
総司ならこういう本棚とか使い易そうだな、とか。
羽美ならこんな小物とか似合いそうだな、とか。
理玖ならこういう物をカッコイイとかって喜びそうだな、とか。
可奈ならこういうぬいぐるみ好きそうだな、とかとか。まあ、色々と。
「それにしても、どうして僕たちの好みとかそんなに知ってるんですか?
あの……失礼とは思いますけど、その……。
おじさんに僕たちのこと、そんなに話した覚えないんですけど。」
「ああ、そんなもん、何か月も通ってほぼ毎日会ってれば普通に好みぐらい分かるだろ。
少しでも話してればある程度は、喰い付く内容とか興味ない事とかも判るしな。
何より、自分の子供の好き嫌いぐらい知ってなきゃ、親とは言えないだろ?」
「おじさん……。」
「えへへ~。あのね、かなね、かなね! おじちゃんのこと、だ~いすき!」
「そうか。俺も可奈のこと大好きだぞ。」
「やたー!」
人の膝の上で暴れ回る幼女(暴力)を何とか思い切り抱き締める事で制しながら、
総司に上の階に行こうと促した。可奈を見て苦笑しながら先に上って行った。
……うん、お前が良く見せていた苦笑の意味が、今ようやっと身に染みたよ。
「あ、おじさん!」
「おう、羽美か。どうだった?」
「もう~~~っ、最っっっ高!!」
「そうかそうか、そりゃ良かった。」
「あ、おっちゃん!」
「おう、理玖か。どうだった?」
「もう~~~っ、マっっっジ、最ッ高!!!」
「そうかそうか、そりゃ良かった。」
「……三人とも、おんなじ会話してる。」
「「「え? そうだっけ?」」」
などと漫才をしながら、各人に各々の部屋について聞いてみる。
案の定、問題は無さそうだった。そりゃあんだけ喜んでりゃ、まあ大丈夫だろ。
「これから長い間お世話になる部屋なんだ。せめて居心地ぐらいは良くないとな。」
「うんっ、ここなら俺何十年でも住んでいられるぜ!」
「また大袈裟なこと言っちゃって……。でも、気持ちはわかるな~。」
「ま、気になる事があれば、どんな些細な事でも構わず言ってくれ。
可奈に限らず、お前達もその内大きくなったら日用品は当然、
棚やベッドの大きさも変えなきゃいけなくなるしな。
いつでもウチは格安で引き受けるから、気にせず言ってくれよ。」
「はい、有難うございます。あの……でも一つ聞いていいですか?」
「ん? 何だ?」
一体、何を不思議そうな怪訝そうな顔してるんだ? 何か落ち度でもあったかな?
「何で『ウチは格安』なんですか? おじさん、何かやってらっしゃるんですか?
あ、もしかして、この家作ったのって……いえまさか、そんな事ないですよね、うん。」
「まあ、当たらずとも遠からずってとこだな。って、そういや言って無かったんだっけ。」
「え? じゃ、じゃあ……?」
「ああ、まあ俺自身が建てた訳じゃないんだがな。
唯単に、俺が務めている会社が建築業者だってだけだ。
序でに同僚や上司ともそれなりに付き合い長いんでな。
美倉家の事情を説明したらあっさり引き受けてくれた。」
そう。高那部長を筆頭に、あいつらが率先してあちこちの方面に掛け合ってくれたんだ。
勿論、俺も何度も直接言って頭を下げて色んな御願いして来たんだが。
にしても人徳っての、本当にあるんだなと思ったよ。
俺の事を知らない人も当然一杯居たんだが、それでも皆快く引き受けてくれた。
『嘉内(旧姓)部長の知り合いなら』、『高那(蒼空)の知り合いなら』
って二つ返事で、即座に了承してくれたらしい。
「それじゃあ、いつかちゃんと恩返ししないといけませんね。」
「ああ、それなら問題ない。既に交換条件として、とある条件を呑んだ。」
「条件、ですか?」
「ああ。だからお前達は何も心配するな。ちゃんとその時には協力して貰うから。」
何せその条件とは! 条件とは! ……とは! ……とは!(エコー調)
『折角大事なお家を新調してあげるんだもの。
勿論、私達に会わせてくれるわよね? 一回だけなんてケチ臭い事は言わず。
大事な、可愛い可愛い目に入れても痛くない程に大切な子供達と――ね?』
最後の『ね?』には逆らう気が一瞬で失せる程の迫力があった。
……何か、結構ヤバい綱を渡って来たとかいうデマを聞いたが、案外本当かもしれん。
何より、一番怖かったのが部長の後ろにいた旦那の顔。
冷徹な目の満面の笑みでこっちを睨み付ける、蒼空の奴の無言の言。
『断ればどうなるか、当然解るよな? なあ?』とでも言いたげなあの貌。
……バカップルはやっぱ滅ぶべきだと思うんだよな、俺は。(←※見事なフラグである)
「ま、まあとにかくだ。今は心行くまで自分の部屋を堪能してくれ。
今日はお前達も疲れてるだろうし、出前にしよう。好きなモン頼んでいいからな。」
「あ、それなら私が作りますよ。」
「いや構わないよ。由宇も自分が思っている以上に疲れてる筈だ。
それに、出前先は俺の幼馴染の店なんでな。大抵どんな食いモンでもあるし。
由宇には、出来れば明日か明後日から頼みたい。だから、今日は休んでくれ。」
「……はい、分かりました。それじゃ、お言葉に甘えて。」
「ああ。んじゃ、六時ぐらいになったら降りて来てくれ。多分その頃には飯来てるから。
紙とペン、テーブルに置いとくから、今の内に好きなもん書いときな。」
「「「「「はーい!!」」」」」
「……はい、もしもし。要ですが。……あ、大稀さん!
はい、はい。え? これからですか? ええ、大丈夫ですよ。はい、はい…………え?
あ、あの……そ、そんなに食べるんですか? あ、はい、分かりました。
それじゃ、沢山作って持って行きますね。はい。それじゃ六時頃に、はい。……ふう。
よーし! 腕によりをかけて沢山作っちゃうぞ~!
……それにしても、いつもの五倍以上は注文あったけど、お客さんでも来てるのかな?
むむむ……いえ、違うわね。何か女の勘が違うって言ってる気がする。
これは、早いトコ作っちゃってどういう事か早めに確認しに行かないと!
お……幼馴染として! そ、そうよ、これはあくまでも幼馴染としてなんだから!」
「……なーにをいつまで一人でぶつぶつ言ってんだかね、ウチの娘は。
はぁ……早く大ちゃん、ウチの子を嫁に貰ってくれないかねぇ。」
唐突なネタバレのこ~な~。
現時点で考えているエンディングは以下の四通り。
1.ノーマルED(=親子ルート)
恋愛要素は殆ど無く、所謂家族EDとか親子EDとか呼称出来るタイプ。
ギャグやコメディ調が主となる、本来のコンセプト的なドタバタ物。
2.ハッピーED(=幼馴染ルート)
次の話で出て来る予定の(実はまだ名前が決まってない)幼馴染との結婚ED。
普通(?)の恋愛物にコメディ調が加わった、或る意味本末転倒な話。
3.ドシリアスED(=真実ルート)
余りに暗いので、没にせざるを得なかった裏設定を全開にしたED。
このルートの場合のみ、ジャンルをコメディ→恋愛にする必要性有り。
つまり、コメディ要素はほぼ完全に消滅するED。最終的にとある人と結婚する。
ノクターンに行く可能性、極大也。
4.トゥルーED(=色んな意味でやっちゃった感タップリのルート)
或る意味で、一番要らないED。それまでの全ての要素等、諸々ぶち壊すダメなED。
一応、最終的にとある人と結婚する事にはなる。←これが一番要らないかも。
尚、このEDの場合、真実ルートが書き終わってる事が大前提の為、
色々説明をすっ飛ばす可能性、微レ存(と言う名の確定事項)。
てな感じ。ノーマル以外は全部最後には結婚する。
まあ家族というコンセプトには違いないし、別にいいかなって。
全部のルートを書くとか一瞬頭を過ぎったけど、何十年掛かんねんって話だし、まあ多分没。
普通に書くとしたら、前者の二択かな~? 一番無難だし。