これが私達の始まりです
少し長め&ちょっとシリアス。話の構成上、仕方ないね。
「――え? い、今、なんて……?」
「……では、再度申し上げます。
あなた達の御両親は、海外旅行に向かった飛行機が墜落し亡くなられました。
誠に残念です。お悔やみ申し上げます。」
朝海さんという弁護士さんに伝えられた時、私達はその意味が分からなかった。
……ううん、違う。分かりたくなかった。
「う、うそ……うそだよ、そんなの。だって、今朝までずっと一緒にいて、一緒に笑ってご飯食べて、抽選くじで海外旅行ペアチケットが当たって喜んでて、それで今日までずっと楽しみにしてて……それで、それで…………!」
「……申し訳ありません。私には、ただ事実をお伝えする事しか出来ません。」
「いや……いやだよ、そんなの……!
いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
それからが、本当に大変でした。
私達は五人姉弟だったから、お父さん達は私達を食べさせていくので大変だったらしいです。
だから貯金とかは殆どなくて、長女の私でもその時はまだ中学生になったばかり。
とてもじゃないけど私も含めて弟や妹を養うどころか、働く事すらも出来ませんでした。
だから、弁護士さんの伝手で少し遠くの児童養護施設に御世話になる事になりました。
院長先生は優しくて、他の子達もみんな良い子で、
住み心地はとても良くて、弁護士さんには改めてお礼を言いました。
でもそれ以上に大変な問題がありました。それは私の弟と妹達の事です。
特に一番下の可奈は、当時まだ四つ。両親がいないという事が今一つ理解出来ていませんでした。
そして、その五つ上の双子の姉弟は号泣して、一時期引き籠りになり掛けた程でした。
でも何とか、私の二つ下の弟が何とか二人を宥めて説得して、事無きを得ました。
本当にいつも聡司には助かっています。その内、ちゃんとお礼しとかないと。
そんな感じで、何とか院長先生や施設のみんなの御蔭で毎日生活していました。
可奈も少し大きくなって、両親がいないって意味が少し分かってくれたみたいです。
そして、ようやっと施設のみんなとの暮らしが弟達や妹達にも馴染み始めた頃の事です。
私達の運命のあの人が、この児童養護施設『未来』に来たのは。
「院長先生、ただいまー!」
「ただいまです。」
「「たっだいまーっ!!」」
「ただいまーなのー!」
「はい、御帰りなさい。手洗いと嗽を忘れずにね。」
「「「「「はーい!」」」」」
といつもの挨拶を交わしていると、院長先生の傍に男の人がいる事に気付きました。
その男の人と目が合った私は、何時の間にかその場に立ち止まっていました。
その目に射抜かれて……ううん。吸い込まれる様な錯覚に陥る程、綺麗だったから。
「姉さん?」
「……!? あ、ご、ごめんね聡司。行こっ。」
そう慌てながら言って、弟の聡司の手を取って私は駆け足でその場を離れました。
だって、あの儘あそこであの目を見詰めていたら……どうなっていたか、私には分からなかったから。
「ごめんなさいね、御話の途中で。」
「いえ、お気に為さらず。とても元気で可愛い子達ですね。」
「ええ、ウチの自慢の子供達なんですよ。あ、それで、御話というのは?」
大稀は、この児童養護施設『未来』に態々休暇申請をしてまで、平日に来ていた。
その理由は、大金を使い道として孤児となった子供達を自分が引き取ろうと思ったからだった。
だが、だからと言って無作為に養おうとすれば、例え五億あろうとも足りない事は必定だった。
故に、大稀はとある条件の元に色々調べ聞き回った結果として、この施設に辿り着いたのだ。
そして今日。正式にこの施設の院長に、とある事を御願いしにやって来たという訳である。
「はい。この施設に、以前とある飛行機事故で両親を亡くした子供達がいると聞きまして。」
「……貴方、記者さん? ……ではなかったわね。名刺貰ってたものね。」
「ええ、決して記者などではありません。
また興味本位で、この様な事を御尋ねしている訳でもありません。
単刀直入に申し上げさせて頂きます。
その子供達を、是非にも引き取りたく、こうして御邪魔させて頂きました。」
との大稀の言葉に目を丸くして驚く院長。だが、直ぐ様厳しい目を大稀に向けその真意を問うた。
「……主旨は理解しましたが、何故その子達限定なのでしょうか? 理由をお聞かせ願えますか?」
「はい、勿論です。ですが……一つ御願いがあります。」
「……何でしょうか?」
「……その子達には決して理由は明かさないで下さい。それを絶対条件として頂きたい。
でなければ、誠に失礼ながら私としてもお話しする事は出来かねます。」
その奇妙な言葉に暫し考え込む院長だったが、何かを決心した様に一つ頷くと承諾の旨を告げた。
「分かりました。子供達には、私からは決して理由を明かしません。
ですが、それではあの子達を説得するのは非常に困難ですよ?」
「承知の上です。それでも私はその子達を引き取りたいのです。
では、理由をお話し致します。実は…………。」
それから、二人でずっと話し込んでいた。
凡そ二時間程経った頃。ようやっと話が終わり、ソファに倒れる様に凭れた院長は、
ふうっと息を吐き、目の前でじっとこちらを見詰めている男性を見遣った。
「貴方の頑固さには参りましたよ。……分かりました。
そこまで仰るのであれば、あの子達に貴方を紹介しましょう。
ですが、あの子達がどうしても嫌だと言った場合は、諦めて頂きます。宜しいですね?」
「ええ、構いません。その時は何度でも通わせて頂きますから。」
「……一歩間違えればストーカーですね。理由を知っていなければ。」
「……私もそう思います。」
苦笑し答えた大稀に、院長は重い腰を上げ、未だ夕食前なのを確認し、件の子供達を呼びに行った。
院長先生に呼ばれ、私と聡司だけ応接室に連れて来られました。
そこには、さっきの目の綺麗な男の人が座っていて、私達が入るとこちらを見て来ました。
今度は何とか目を合わせない様にしようとして、目を伏せながら歩き、
院長先生に誘われるままに、男の人の正面のソファーに座らせられました。
私が右端に、左隣に院長先生、その更に左隣に聡司が座りました。男の人は院長先生の真正面です。
すると、院長先生が私達に声を掛けました。そして、私達はその言葉に驚きを隠せませんでした。
「由宇ちゃん。こちら、美倉大稀さんって仰るの。
大稀さん、この子は長女の朝河由宇ちゃん。そして、こっちの子が弟の聡司君。」
「初めまして、由宇ちゃん、聡司君。俺は美倉大稀という。俺の事は好きに呼んでくれ。」
「……あの、院長先生。このおじさんがどうかしたんですか?」
聡司が目の前の男の人を無視して院長先生に話し掛けました。
でも院長がその態度はダメだと叱ろうとしましたが、男の人が手を出してそれを止めました。
そして手を引っ込め、聡司に真剣に向き合うと聡司もその雰囲気を察したのか、
やっと男の人の方を見て目を合わせました。
それを確認したのか、今度は私の方を向いて目を合わせて来ました。
……やっぱり綺麗な目でした。本当にふらふらと吸い込まれるような、綺麗な目。
そんな感想を思っていると、男の人は徐にこう言って来たんです。
「実は、今日ここに来たのは他でもない。俺は、君達を養子に迎え入れたくて来たんだ。」
「「………………え?」」
「ああ、勿論君達二人だけじゃない。君達の弟と妹達、五人全員だ。
全員、俺の養子に迎え入れたい。今日は、その話を院長先生と君達に話しに来たんだ。」
信じられませんでした。
突然現れた知らない男の人にいきなり養子にしたいと言われて、理解出来る方がおかしいです。
その後も、男の人が何か話していた気がしましたが、言われた言葉に驚いてそれ所じゃなく、
何て言っていたのか全然思い出せません。
只、最後に頭を撫でられた事が、何故か少し嬉しく感じてしまったのだけ覚えていました。
それからというもの。男の人は何度も何度も足繁く『未来』に通い詰めて来ました。
そして、その度に私達を説得しようとし、その度に私達は断り、
帰る度に私達の頭を撫でていきました。聡司と理玖は未だに触られるのを嫌がってますが。
一番下の可奈は、早くも懐き始めているらしく、今日は来ないの? と聞いて来ます。
そして、私達もそろそろ断る理由が段々無くなってきてしまいました。
苗字を替えたくないと言えば、嫌なら替える必要はないと言われ、
この施設から離れたくないと言えば、電車に乗ればすぐ来れる距離だと言われ、
学校を変えたくないと言えば、通学距離が少し長くなるけど変える必要はないと言われ、
施設の友達と別れたくないと言えば、週一~二回ぐらいなら毎週遊びに来ればいいと言われ……。
私達も段々と男の人……美倉さんと会えるのが楽しみになり、
一緒にいるのが嫌じゃなくなってきてしまっていました。
最初はずっと嫌がっていた聡司や理玖も、今ではお話ぐらいなら普通にする様になりました。
そんな風に、美倉さんがいるのがもう当たり前になってしまった日常に慣れた或る日の事です。
いつも必ず週2~3回は来てくれていた美倉さんが、二週間経っても来てくれませんでした。
私達だけじゃなく、他の子達も心配していました。でも、院長先生も知らないそうです。
いつも一緒にいて、一緒に話して、一緒に遊んで、色んな事を教えてくれる人に、
いつも嫌だと断って、いつも悲しそうな顔をさせて、いつも頭を撫でるだけで帰ってる人に、
こんなに逢いたくて、寂しいと想うなんて思ってもみませんでした。
三週間が経って、末妹の可奈が会いたいと泣き出し、妹の羽美や弟の理玖も寂しがり、
四週間が経って、聡司も寂しいと言い出し、私ももう耐え切れなくなってきました。
丁度そんな時でした。院長先生が、笑顔で私達五人を応接室に呼んだのは。
「由宇ちゃん、聡司君、羽美ちゃん、理玖君、可奈ちゃん。みんな、ちょっといいかしら。」
「あ、院長先生。はい、大丈夫です。みんなもいいよね?」
元気無く頷く弟妹達に、苦笑しながらも聡司と一緒に手を引いて応接室へと向かう由宇達。
その間、ずっとニコニコしている院長を不思議に思いながらも、後を付いて行った。
「さ、着いたわよ。みんな、お入りなさい。」
「あ、あの、院長先生は……?」
「私は最後に入って、ドアを閉める役。さ、開けてみて?」
「……は、はい。それじゃ…………ぁ。」
さっきから妙な態度をとる院長を不審に思いながらも、由宇は薦められた通り応接室の扉を開いた。
そして、扉を開いた儘暫く固まってしまっていた。院長に続き変な反応を示す姉が気になり、
由宇が開けた隙間から覗き込む弟妹達も、姉同様に一瞬固まっていた。
そして、弾かれた様に皆して勢い良く部屋の中へと飛び込んでいった。
「おじちゃん!」「おっちゃん!」「「おじさん!」」「美倉さん!」
「やあ。っとと……みんな、元気にしてたかい?」
この凡そ一月の間、ずっと逢いたくて待ち焦がれていた大稀がそこにいたのであった。
思わず彼の胸に飛び込んだ五人共泣きじゃくり、大稀に獅噛み付いて離れなかった。
こりゃどうしようもない、と皆が落ち着く迄、暫くその儘にさせておいた。
それから30分後。獅噛み付いて離れない可奈を膝の上に乗せ、左右に羽美と理玖の双子、
前方のソファに院長を挟んで由宇と聡司を座らせ、これまでの経緯を話した。
「グスッ……あ、あの、それで、どうして暫く来てくれなかったんですか?」
「ああ、急な出張が入っちゃってね。当日に出立しなくちゃ間に合わなかったんだ。
だから向こうに着いてから連絡しようと思ったんだけど、どうにも忙しくてね。
流石に深夜に電話かけるのは失礼だし、朝は早いし昼間はそんな暇無かったから。
これでも急いで仕事終わらせて戻って来たんだよ。
本当なら後二ヶ月近くは向こうにいただろうし。」
「やーーだーーー!! もっとあそぶのー! もっといっしょにいるのーー!!」
「ああ、はいはい、大丈夫だよ。今回ので暫くは、急にいなくなる事もないだろうし。
しかし、何時の間にかここまで慕われていたとは、思わなかったなあ。
もう嫌われてはいないとは思ったけど、毎回断られるのが恒例になってたし。」
そう言いながら笑顔で、未だ膝上で大稀に獅噛み付いている可奈の頭を撫でた。
気持ち良さそうに目を細める可奈の嬉しそうな笑顔を見て、由宇はやっと決意を固めた。
それが分かったのか、大稀と院長は互いに顔を見合わせ、互いに微笑んだ。
そして、大稀はいつもの台詞で、いつもと変わらず、いつもの様に、彼女達に問い掛けた。
「それじゃあ、由宇ちゃん、聡司君、羽美ちゃん、理玖君、可奈ちゃん。
俺の、子供になってくれるかな?」
「――はい。宜しく、お願いします。」
それからはとんとん拍子で話が進んでいった。
只、キリが良いという事で、後一月後の三学期の終業式迄は施設で暮らし、
春休みに入ってから美倉家で暮らす事となった。
その間に、子供達の要望を聞き入れた上で改築をし、完成後に大き目の私物などを順々に運び入れ、
最終的に、みんな手荷物程度の物以外は全て美倉家の自分の部屋に運び終えたのであった。
そして。本人達の引っ越し当日がやって来たのである。
Q.何で大稀、こんな好青年なん? あらすじのプロフィールと全然違うやん?
A.イッツア営業モード。オーケー? 次回の本性とのギャップをお楽しみに(棒読み)
Q.大稀が隠した、由宇達じゃなきゃあかん条件て、結局何なん?
A.『同じ』飛行機事故で孤児となった子供達を引き取ろうと思ったから。人の噂に戸は立てられぬ。
Q.何でそれ隠したん? 別にそれぐらい言ってもええやん?
A.同情で引き取られたと子供達に思われたくなかったから。同情するくらいなら家をやる。
Q.何で由宇達だけなん? 他にもおるんちゃう?
A.ぶっちゃけ、由宇達がいた施設『未来』が自宅から近かったから。ただそれだけ。
Q.ちぃっと子供達デレるの早ない? こういう子供達はもっと繊細やで?
A.描写は特にないけど何ヶ月も通ってたから。後、大稀自身が子供に好かれ易い性質だから。←ココ重要
Q.……何でそういうの、ここでバラしたん? 本編で書けや。
A.ぶっちゃけ、ギャグ&コメディで書くと、今後書くタイミングが全く無いから。
Q.あんたって作者はー!(ぇ
A.設定だけでも……言葉だけでも……!(イミフ