『9、黙る鴉の目の内に/10、手を伸ばし、さらってくれれば/11、愛情と特別の差』
『9、黙る鴉の目の内に ――――』
電灯の上に鎮座する鴉が一羽。その下を子供が通る。
子供の腕にはビーズのブレスレットがチカと輝いている。
すっと鴉が下を向く。
その鋭い目が自分をとらえ、鈍く光るのを見た子供は怯えて駆け逃げた。
逃げた子供にわかろうか。
鴉の瞳が光って見えたのは、我が子を失った悲しみに濡れているからだと。
『10、手を伸ばし、さらってくれれば ――――』
触れてもいい、と私はいった。瞼を下して無防備を晒す。相手の戸惑う気配が伝わってくる。
わずかな身じろぎの後、唇を掠めたのは冷たい指先だった。
触れるか触れないかという感触のくすぐったさに身体が震えた。
引き絞られていた心が、かすかな答えのあった喜びと、決定打を返されない緊張に打ちしびれている。
瞼を上げたくなるのを堪えてなお待った。――けれどそれきり、無しのつぶて。
「何故、触れぬ」
上げた瞳に映る従僕の顔が、辛いとばかりに歪んでいる。膝に落とした拳が白い。浮き上がった血管が激しく脈動しているのが見える。
そうまでして。
瞬間、悔しさと怒りで心が焼けた。強情者。臆病者。
渾身の思いで手を伸ばし、強張る相手の唇に引き結んだ己の唇を押し付けた。
痩せた従僕の薄っぺらな体が呼吸ごと引き攣る。
お前以外の男のものになど、しないでほしい。
今日限りの賭け。これでどうにもならぬものなら、先の人生、どうとでもなれ。
『11、愛情と特別の差 ――――』
二人の女が喧々諤々言い争っている。
「彼にふさわしいのは私よ」
所在なく二人を眺める青年に、
「どちらが一番なの?」
揃って詰め寄る。
青年は眉を下げた。彼女らは可愛いし大好きだったけれど、大事にしたい人はよそにいる。
尋ねられた質問の選択肢に当の二人はまるきり含まれていないのだ。




