side:とある地域では
――エルフ自治領《深森域エルドレイン》
大陸西方。
人族の地図には“立入困難”とだけ刻まれる原生林。
天を覆う千年樹。
濾過された陽光。
魔素を含んだ静かな風。
森は、ただの自然ではない。
記憶を蓄え、歴史を抱く“生きた領域”。
ここはエルフ自治領《深森域エルドレイン》。
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樹上回廊の先、環状議場。
白木と蔦が編まれた神聖な空間で、
数名のエルフが魔力観測陣を囲んでいた。
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「……揺れました」
静かに告げたのは、
蒼銀の長髪を揺らす若き学士
セレスティア=リュミエル
外見は二十代前半。
実年齢は百二十七歳。
魔素流動学の第一人者。
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「どの規模だ、セレスティア」
低く問うたのは、議場守護を務める戦士長
ガルド=フェルン
褐色の肌。
長弓を背負う歴戦の守護者。
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「局地的ですが、質が異常です」
空中に展開される魔力流動図。
森を巡る力の循環網。
その一角が歪んでいる。
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「方角は?」
議長席から声。
深緑の法衣を纏う長老
イシュタル=エルヴェイン
森政を司る評議会筆頭。
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「東方。人族圏」
「レグナス王国方面です」
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議場の空気が僅かに変わる。
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「戦の兆しか」
「勇者召喚では」
「周期反応……」
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発言したのは記録官
ミレイユ=サナリス
古樹記録を管理する年輪司書。
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セレスティアは首を振る。
「断定は早計です」
「ですが自然発生の波形ではありません」
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「“意図された力”の痕跡です」
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沈黙。
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イシュタルが目を閉じる。
「静観とする」
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「人族の選択は人族の責任」
「我らは森を守る」
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干渉しない。
それが長命種の矜持。
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だが。
セレスティアの視線は東から離れない。
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(……似ている)
古代災厄期の魔力波形。
文明崩壊前夜の記録。
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ミレイユが小声で問う。
「気になりますか」
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「ええ」
「記録樹に追記を」
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森は再び静寂へ還る。
だが“知る者”だけが違和を抱えていた。
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――天嶺域《神獣座》
雲海を貫く白き霊峰群。
魔術も届かぬ天上領域。
神獣のみが棲まう不可侵の地。
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峰頂の霊石台座。
白銀の巨躯が横たわる。
神獣王
白霊王フェン=ルミナス
星を宿す双眸。
吐息は霧となり天空を巡る。
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「……目覚められましたか」
傍らで頭を垂れるのは側近獣
蒼角のリュゼル
蒼水晶の角を持つ神獣族の参謀。
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フェンの瞳がゆるやかに開く。
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「動いた」
概念に近い声音。
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前肢の先に浮かぶ水鏡。
世界の魔力潮流が映る。
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「東方人族圏に綻び」
報告するのは観測役
白翼のエルミナ
翼持つ神獣族の観測官。
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「周期の歯車が軋む音だ」
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リュゼルが問う。
「介入なさいますか」
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長い静寂。
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「否」
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「流れに委ねよ」
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神獣は守護者。
世界の管理者ではない。
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だが。
フェンの瞳が細まる。
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「……記録にない揺らぎが混じる」
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エルミナの翼が震える。
「未知の存在、ですか」
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「断定はせぬ」
「だが、もしも」
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霊峰の風が止む。
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「理の外にある者なら」
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言葉はそこで途切れた。
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フェンは再び瞼を閉じる。
世界は静かに回り続ける。
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(Side:了)




