表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界録  作者: 世界記録端末


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/26

6.夜に潜む影

夜の王都グランセイルは、昼とは別の顔を見せる。


灯火に照らされた石畳。

酒場の笑い声。

巡回騎士の規則正しい足音。


平穏は、静けさの中に溶けていた。



「本日の視察記録、整理完了しました」


王城保護区画の一室。

机上に記録端末を並べ、レオンが淡々と告げる。


窓の外には王都の夜景。

橙色の灯りが瞬いている。



「……ああ」


返事は上の空だった。


昼間の光景が、まだ胸に残っている。


祈る人々。

笑う子ども。

差し出された感謝。


守りたい、と思った。


だが同時に。


“失った記憶”のような痛みが、奥に刺さる。



コン、コン。


扉が叩かれる。



「騎士団より急報!」


若い伝令兵の声は硬い。


「市街南区画にて魔物出現!」


「巡回班が交戦中、増援要請です!」



空気が変わる。


レオンが即座に端末を掴む。


「規模は」


「小群体、ですが——」


兵の喉が鳴る。


「動きが、異常に統制されています」



統制。


ただの魔物ではない。



王城の警鐘が鳴る。


低く、重い音。


平穏が破られる瞬間。



気づけば走っていた。


石段を駆け下りる。

夜風が肺を刺す。



(行かなきゃいけない)


命令じゃない。


義務でもない。


感情が身体を動かす。



南区画。


市壁近くの居住地帯。


煙。

悲鳴。

崩れた屋台。



影が跳ぶ。


四足の異形。

黒い外殻。

濁った魔力の臭気。


魔物。



騎士が弾き飛ばされる。


子どもが取り残される。


母親の叫び声。



視界が狭まる。


鼓動が消える。


音が遠のく。



代わりに——


“理解”が流れ込む。



間合い:三歩。

跳躍軌道:左上方。

着地硬直:〇・七秒。


急所:胸殻接合部。



身体が沈む。


踏み込み。


最短距離。



剣を振るった記憶はない。


だが刃はそこにあった。



一閃。


黒殻が裂ける。


魔物が崩れ落ちる。



思考が追いつかない。


(なぜ動ける)


(なぜ分かる)



視界の端に、淡い文字列。



戦域適応バトル・アジャスト》発動

戦況解析完了

身体制御最適化



先読演算プレディクト・ロジック》同期

敵対行動予測補正:有効



時間が引き伸ばされる。


魔物の群れが“遅く”見える。


軌道が読める。

死角が見える。



身体が勝手に動く。


回避。

反撃。

連撃。



戦場の“正解”をなぞるように。



最後の一体が崩れ落ちる。


静寂。


荒い呼吸だけが残る。



騎士たちが呆然と立ち尽くす。


「……今のは」


「勇者様が……?」



違う。


こんなのは。


俺じゃない。



足元の血。

震える手。


守れた命。



安堵と恐怖が同時に込み上げる。



レオンが駆け寄る。


端末を握る手が強い。


「負傷は」


「……ない」



視線が交わる。


観測者の目。


だがその奥に、揺れがある。



「自動発動……想定以上だ」


小さな呟き。


記録官としての分析。


そして。


芽吹いたばかりの友情のような心。



遠くで鐘が鳴る。


事態収束の合図。



夜空を見上げる。


星が瞬いている。


何事もなかったように。



(俺は)


(戦えるのか)


(戦うべきなのか)



守りたい。


でも。


戦うたび、

自分が“何者か”から遠ざかる気がする。



その様子を。


遠いどこかで。


静かに観測する視線があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ