18.記録に無い勇者
王都レグナス。
城門が開く。
遠征隊が帰還した。
⸻
門番が声を上げる。
「騎士団帰還!」
人々の視線が集まる。
だが
その中心にいる人物は
自分が注目されていることに少し戸惑っていた。
⸻
勇者。
まだこの世界に来て数日。
それなのに。
⸻
「ブラックウルフ討伐」
その報告がすでに城に届いていた。
⸻
王城。
会議室。
騎士団長ガルド=ヴァレスが腕を組む。
「……本当か?」
低い声。
⸻
リナが椅子に座りながら言う。
「本当だよ」
「しかも一人でな」
⸻
ダグも頷く。
「我々が手を出す前に」
⸻
エミリアが言う。
「動きが…普通じゃありませんでした」
⸻
ガルドが眉をひそめる。
「勇者とはいえ」
「初戦でブラックウルフを単独討伐か」
⸻
そして
部屋の隅。
一人の男が記録を書いていた。
⸻
王国記録官
レオン=アーデル
⸻
彼は静かにペンを走らせている。
羊皮紙の上に文字が並ぶ。
⸻
《黒霧森遠征記録》
・グレイウルフ群れ確認
・ブラックウルフ出現
・勇者による討伐
⸻
そこまで書いた。
だが
レオンの手が止まる。
⸻
(おかしい)
⸻
もう一度書く。
⸻
《勇者――》
⸻
その瞬間。
インクが滲む。
文字が崩れる。
⸻
「……?」
レオンは眉を寄せる。
⸻
もう一度書く。
⸻
《勇者が――》
⸻
今度は
紙が
微かに破れた。
⸻
「……」
レオンはしばらく沈黙する。
⸻
(まさか)
⸻
彼は小さく呟く。
「記録拒否…?」
⸻
普通ならあり得ない。
だが
レオンは知っている。
⸻
この世界には
「記録できない存在」
がいる。
⸻
極めて稀だが。
⸻
だが
勇者がそれに該当するなど
聞いたことがない。
⸻
レオンは勇者を見る。
⸻
青年は
普通に椅子に座っている。
少し疲れた顔。
⸻
(普通の人間に見える)
⸻
だが
レオンの直感は
違うと言っていた。
⸻
その時。
王の声が響く。
⸻
「見事だ」
レグナス王。
⸻
「勇者殿」
「王国として改めて感謝する」
⸻
勇者は頭を下げる。
「ありがとうございます」
⸻
王は続ける。
「しかし」
少し表情が変わる。
⸻
「問題がある」
⸻
騎士団長ガルドが頷く。
「黒霧森の魔物」
「明らかに増えている」
⸻
エミリアが言う。
「しかも…」
少し不安そうな声。
⸻
「普通じゃない魔力反応でした」
⸻
部屋の空気が重くなる。
⸻
その時。
王城の外。
遠くの空。
⸻
黒い鳥が飛んでいた。
⸻
その鳥は
王城の塔に止まる。
⸻
次の瞬間。
鳥の影が歪む。
⸻
人の形になる。
⸻
黒衣の男。
赤い瞳。
⸻
ダンピール。
⸻
ヴェルク=アストラ
⸻
魔国ヴァルドレインの観測者。
⸻
彼は王都を見下ろしていた。
⸻
「へえ」
小さく笑う。
⸻
「勇者が二人」
⸻
「しかも片方は」
⸻
少し目を細める。
⸻
「未来が読めない」
⸻
ヴェルクは空を見る。
⸻
「これは」
⸻
「面白くなりそうだ」
⸻
その時。
はるか遠く。
⸻
灰境の旅団。
⸻
焚き火の前。
リゼリアが空を見ていた。
⸻
「団長」
⸻
アルドが肉を焼きながら言う。
「なんだ」
⸻
リゼリアは静かに言う。
⸻
「王都に」
⸻
少しだけ間を置く。
⸻
「魔族がいます」
⸻
グロムが笑う。
「は?」
⸻
ヴァルが眉を上げる。
「潜入か」
⸻
リゼリアは頷く。
⸻
「そして」
⸻
「未来が」
⸻
少し困った顔。
⸻
「また増えました」
⸻
アルドがため息をつく。
⸻
「やっぱり」
⸻
「面倒な世界になりそうだな」




