side 聖国深層
大陸中央。
霧の高原の奥。
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そこに一つの国家がある。
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ルミナ聖国
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外から見れば、ただの宗教国家だ。
信仰の中心は
聖従教団
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人々を導く神の教え。
祈り。
慈善。
教育。
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どこにでもある宗教国家。
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そう見える。
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だがその奥。
聖都の地下。
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そこには、表の世界に存在しない部屋がある。
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壁一面の書庫。
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記録。
記録。
記録。
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何百年分もの歴史。
世界の出来事。
戦争。
災害。
魔物。
勇者。
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全てが記録されている。
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その中心に座る男がいた。
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銀の髪。
深い瞳。
年齢は分からない。
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男は本を閉じる。
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「……勇者召喚」
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静かな声。
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「成功したようだな」
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部屋の奥から声が返る。
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「はい」
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黒衣の青年。
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名を
セラフィス=エルド
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聖従教団の幹部。
そしてもう一つの顔。
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アカシッカー
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世界を記録する者。
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セラフィスが言う。
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「しかし問題があります」
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銀髪の男
「勇者が二人か」
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セラフィス
「ご存知でしたか」
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男は小さく笑う。
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「観測した」
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セラフィスの目がわずかに動く。
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「未来観測ですか?」
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男は首を振る。
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「違う」
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「世界の流れを見ただけだ」
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この男の名は
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エルディオン=ルミナリア
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聖国の中枢。
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そして
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ハイヒューマン
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人間の進化種。
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この世界でも
存在を知る者はごくわずか。
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セラフィスが言う。
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「勇者は一人のはずです」
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エルディオン
「その通り」
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「だから面白い」
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セラフィス
「面白い、ですか?」
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エルディオンは書庫を見渡す。
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何千冊もの本。
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そして静かに言う。
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「世界は時々壊れる」
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セラフィスの表情が変わる。
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「……」
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それは
アカシッカーの最奥機密。
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世界周期の記録。
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文明崩壊。
種族滅亡。
世界再構築。
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エルディオンは続ける。
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「だが今回は少し違う」
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セラフィス
「何が?」
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エルディオン
「誤差がある」
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その言葉は重かった。
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世界の記録を扱う者にとって
誤差はあり得ない。
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セラフィスが言う。
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「勇者の件ですか」
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エルディオンは頷く。
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「そう」
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そして一冊の本を開く。
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そこには
たった一行だけ書かれていた。
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勇者 二名
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セラフィス
「観測ミスでは?」
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エルディオン
「違う」
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そして言った。
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「勇者は一人」
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「もう一人は」
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本を閉じる。
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「記録の外」
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沈黙。
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セラフィスが小さく息を飲む。
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「そんな存在が?」
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エルディオンは静かに言う。
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「いる」
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「今回の世界には」
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彼は窓の外を見る。
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遠く。
王都の方向。
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「面白い」
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そして小さく呟く。
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「久しぶりだ」
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「世界が予測から外れた」
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セラフィスが聞く。
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「どうします?」
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エルディオンは答える。
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「何もしない」
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「観測だ」
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少し笑う。
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「アカシッカーの仕事だろう?」
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セラフィス
「了解しました」
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そして最後に
エルディオンが言う。
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「それと」
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「王国の記録官」
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セラフィス
「?」
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エルディオン
「レオン=アーデル」
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セラフィスの目が見開かれる。
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「ご存知なのですか?」
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エルディオンは静かに笑う。
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「当然だ」
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「彼は」
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少しだけ間を置き。
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言った。
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「元々こちら側の人間だ」
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(続く)




