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第十七話 灰境の旅団
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世界には、記録に残らない事件がある。
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王国軍が壊滅した災害級魔物。
翌朝には死んでいた。
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神獣が暴走し、山脈を破壊した事件。
一夜で鎮圧されていた。
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古代遺跡の兵器が起動した夜。
夜明けには粉々になっていた。
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誰がやったのか。
記録はない。
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ただ、古い文献にはこう書かれている。
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「灰の者が通った」
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王国も。
魔国も。
聖国でさえ。
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この存在を完全には把握していない。
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その名は
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灰境の旅団
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山岳地帯。
人の通らない古い街道。
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焚き火が静かに揺れていた。
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巨大な男が骨付き肉をかじっている。
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「勇者だってよ」
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低く、よく通る声。
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古代獣人
グロム=ベオルグ
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肉を噛みながら笑う。
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「しかも二人らしい」
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その向かい。
本を読んでいた男がページをめくる。
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蒼白な肌。
赤い瞳。
長い黒髪。
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吸血鬼
ヴァル=ノクト
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「勇者召喚は単一対象」
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静かな声。
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「二人は理論的に成立しない」
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その時。
冷たい声が落ちる。
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「成立している」
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二人が視線を向ける。
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銀の髪。
蒼い瞳。
長い耳。
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ハイエルフ
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リゼリア=エルフィリア
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彼女は空を見ていた。
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「未来が乱れている」
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ヴァルが少し笑う。
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「あなたの未来観測でも?」
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リゼリア
「これは未来視ではない」
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彼女の能力。
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《未来観測領域
クロノ・オラクル》
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未来の可能性そのものを観測する力。
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リゼリアは言う。
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「勇者は二人」
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「だが」
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少し言葉を止める。
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「それより危険な存在がいる」
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グロム
「は?」
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リゼリア
「勇者ではない」
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「だが未来の分岐が異常」
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ヴァルの目が細くなる。
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「つまり」
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「不確定要素」
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リゼリア
「そう」
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その時。
後ろから声がした。
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「また世界の話か」
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三人が振り向く。
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そこに立っていた男。
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灰色の外套。
黒い髪。
眠そうな目。
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灰境の旅団団長
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アルド=ヴァルカ
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種族
ハイヒューマン
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人間の進化種。
だが世界でも確認例は極めて少ない。
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そしてアルドは
その中でもかなり古い個体だった。
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グロムが笑う。
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「団長」
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「勇者が二人だとよ」
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アルドは欠伸をする。
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「ふーん」
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興味のない声。
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ヴァルが聞く。
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「世界の歪みかもしれませんよ?」
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アルドは肩をすくめる。
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「放っとけ」
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「勇者なんて」
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「いつの時代もいる」
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リゼリアが言う。
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「問題はそこじゃない」
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「もう一つ」
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「未来が揺れている」
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アルドは空を見る。
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少し黙る。
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そして小さく笑う。
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「へえ」
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「珍しいな」
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グロム
「何が?」
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アルド
「未来が見えないってことは」
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「世界が面白くなってる」
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一歩踏み出す。
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ドン。
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地面が沈む。
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空間が歪む。
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重力が圧縮されていた。
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アルドの能力。
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《万有重力支配
グラヴィトン・ドミネーション》
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重力という世界法則に干渉する力。
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都市を押し潰すことも、
山を浮かせることもできる。
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だがアルドはあくびをする。
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「でも今は」
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「放置」
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グロム
「行かないのか?」
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アルド
「行かない」
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少し笑う。
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「どうせなら」
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「もう少し強くなってからだ」
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リゼリア
「危険」
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アルド
「知ってる」
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空を見る。
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遠く。
王都。
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まだ名前も知らない男。
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レオンがいる場所。
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アルドは呟く。
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「楽しみは」
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「後に取っとく派なんだ」
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焚き火が揺れる。
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世界は静かに動き始めていた。
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(続く)




