side 魔国
魔国ヴァルドレイン。
人族はこの国を“魔国”と呼ぶ。
だがそれは蔑称に近い。
この国に生きる者たちは、自分たちをそう呼ばない。
⸻
ダークエルフ
ダンピール
獣人
アンデッド
魔人
人族の世界で居場所を失った種族が集まり作った国家。
それがヴァルドレイン。
⸻
魔王城。
地下会議室。
巨大な円卓。
そこに三つの影があった。
⸻
骨の指が机を叩く。
ゴン。
低い音。
⸻
「……勇者が二人」
⸻
重い声。
骨の鎧を纏った巨躯。
⸻
アンデッドの将。
ガルド=モルグレイヴ
⸻
「説明しろ」
⸻
短い。
命令の声。
⸻
その向かいで、男が笑う。
⸻
「いやいや、ガルド殿」
⸻
長い脚を組みながら椅子に深く座る。
蒼白な肌。
赤い瞳。
細い牙。
⸻
ダンピール
ヴェルク=アストラ
⸻
「まずは“本当なのか”からでしょう」
⸻
軽い口調。
だが瞳は笑っていない。
⸻
「勇者が二人なんて」
「冗談なら上出来ですよ?」
⸻
その時。
静かな声が落ちる。
⸻
「冗談じゃない」
⸻
二人の視線が動く。
⸻
円卓の端。
黒い肌。
白銀の髪。
赤い瞳。
⸻
ダークエルフ。
⸻
リシェラ=ノクティス
⸻
彼女は書物を閉じる。
⸻
「観測した」
⸻
ヴェルクが眉を上げる。
⸻
「へえ」
⸻
「あなたが?」
⸻
リシェラは頷く。
⸻
「王都」
「召喚儀式」
「勇者二人」
⸻
ヴェルクが小さく笑う。
⸻
「……それはまた」
⸻
「面倒な世界になりましたね」
⸻
ガルドが机を叩く。
ゴン。
⸻
「ありえん」
⸻
「人族の勇者召喚は単体対象」
⸻
「二人は成立しない」
⸻
リシェラは短く言う。
⸻
「成立してる」
⸻
沈黙。
⸻
ヴェルクが顎に手を当てる。
⸻
「ふむ」
⸻
「じゃあ仮説を三つ」
⸻
指を一本立てる。
⸻
「一つ」
「召喚術式の暴走」
⸻
二本目。
⸻
「二つ」
「世界法則の干渉」
⸻
三本目。
⸻
「三つ」
⸻
少しだけ笑う。
⸻
「世界が壊れ始めてる」
⸻
ガルドが低く唸る。
⸻
「……周期か」
⸻
ヴェルクの視線が動く。
⸻
「ほう」
⸻
「ガルド殿がその話をするとは」
⸻
ガルドは短く言う。
⸻
「古い伝承」
⸻
「世界は終わる」
⸻
「また始まる」
⸻
リシェラが静かに言う。
⸻
「それは仮説」
⸻
「証拠はない」
⸻
ヴェルクが肩をすくめる。
⸻
「まあね」
⸻
「でも今回は少し面白い」
⸻
「あなたは“二人”を見たんでしょう?」
⸻
リシェラは頷く。
⸻
「見た」
⸻
ヴェルクが聞く。
⸻
「どう違う?」
⸻
少し間。
⸻
リシェラは言う。
⸻
「一人は勇者」
⸻
「もう一人は」
⸻
言葉が止まる。
⸻
ガルドが低く言う。
⸻
「何だ」
⸻
リシェラはゆっくり答える。
⸻
「分からない」
⸻
ヴェルクが笑う。
⸻
「あなたが?」
⸻
「それは珍しい」
⸻
リシェラは続ける。
⸻
「勇者じゃない」
⸻
「でも」
⸻
「普通の人族でもない」
⸻
ガルドが腕を組む。
⸻
「何だそれは」
⸻
リシェラは少しだけ迷って言う。
⸻
「記録の匂い」
⸻
沈黙。
⸻
ヴェルクの瞳が細くなる。
⸻
「……記録?」
⸻
リシェラは頷く。
⸻
「世界に刻まれた何か」
⸻
「観測の痕跡」
⸻
その瞬間。
ヴェルクの表情が変わる。
⸻
そして小さく呟く。
⸻
「……アカシック」
⸻
リシェラが振り向く。
⸻
「その言葉」
⸻
「どこで知った?」
⸻
ヴェルクは軽く笑う。
⸻
「さあ?」
⸻
「昔の書物ですよ」
⸻
嘘か本当か分からない声。
⸻
ガルドが立ち上がる。
⸻
「で」
⸻
「どうする」
⸻
ヴェルクも立つ。
⸻
「決まってる」
⸻
「会いに行く」
⸻
ガルド
「勇者にか」
⸻
ヴェルクは笑う。
⸻
「いいえ」
⸻
「勇者“じゃない方”に」
⸻
リシェラの瞳が細くなる。
⸻
「危険」
⸻
ヴェルクは肩をすくめる。
⸻
「未知は」
⸻
「面白いでしょう?」
⸻
その時。
城の最上階。
玉座の間。
⸻
暗闇の中。
⸻
誰かが笑った。
⸻
「……二人か」
⸻
古い声。
⸻
まるで。
⸻
この出来事を
何度も見てきたような声。
⸻
「今回は」
⸻
「どう動くかな」
⸻
その視線は遠く。
王都を見ていた。
⸻
(続く)




