13.裏の顔
王都グランディア、旧王城地下。
立入禁止区域。
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石壁に刻まれた古い封印式が、
レオンの指先の魔力に反応する。
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「識別番号:王国記録官第三位、レオン=アルヴェイン」
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低く、無機質な音声。
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「副認証コード」
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レオンは迷いなく答える。
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「——第零観測系統、外典記録管理権限」
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一瞬の静寂。
やがて封印式がほどける。
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重厚な扉の向こう。
灯りのない通路。
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ここは王国の記録庫ではない。
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“王国が預かっている”
別の組織の領域。
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(久しぶりだな)
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石床に響く足音。
規則正しく、静かに。
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最奥の間。
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中央に浮かぶ記録水晶。
幾層もの光の輪が回転している。
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そこに刻まれているのは——
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世界。
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地形変動史。
文明推移。
種族分布。
魔力総量推移。
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そして。
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《周期観測記録》
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レオンの目が止まる。
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(更新されている)
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前回閲覧時には存在しなかった項目。
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手をかざす。
光が弾ける。
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表示される文字列。
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《観測周回数:不明》
《現行位相:第??期》
《終端予測:進行中》
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喉が乾く。
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「……進行中?」
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その時。
背後に気配。
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「報告義務違反だ、レオン」
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振り向かない。
声で分かる。
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「監察官、セレス」
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白衣の女が壁にもたれかかっている。
感情の読めない瞳。
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「勇者事案は最優先観測対象」
「単独判断は規約違反」
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レオンは淡々と返す。
「王国案件だ」
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「表向きはね」
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セレスの指先が空間に紋様を描く。
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浮かび上がる紋章。
王国のものではない。
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「我々は“聖国”の人間」
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「所属も、忠誠も」
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「——聖従教団」
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静かな言葉。
だが重い。
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レオンは目を伏せる。
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聖国。
信仰国家。
世界最大の宗教勢力。
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その内部中枢。
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“聖従教団”。
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表向きは祈りと救済の組織。
だが実態は違う。
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世界の観測者。
歴史の記録者。
法則の監視者。
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そして。
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「裏部門——アカシッカー」
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セレスが静かに告げる。
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レオンの視線が水晶へ戻る。
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「勇者が二人いる」
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「記録にない事象だ」
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「報告は?」
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「既に上層へ」
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セレスは一拍置く。
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「“あの方”も関心を示している」
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空気が変わる。
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レオンの指が止まる。
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「あの方……」
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聖国中枢。
誰も姿を見たことがない存在。
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人でありながら、人を超えた進化種。
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“長命個体”。
“人類上位種”。
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正式名称を知る者は極僅か。
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「——ハイヒューマン」
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その単語が、空気を重くする。
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レオンは目を閉じる。
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(なぜ俺は、この名称を知っている)
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記録官教育では教わらない。
聖従教団の幹部ですら知らない秘匿語。
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なのに。
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“知っている”。
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夢で聞いた。
記憶にない記憶。
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崩壊する世界。
燃える世界樹。
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そして。
高位存在の声。
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『記録せよ』
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『次の位相へ繋げ』
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レオンの拳がわずかに震える。
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セレスが静かに言う。
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「世界位相が揺らいでる」
「勇者二重観測はその前兆かもしれない」
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「最悪の場合——」
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言葉が止まる。
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レオンが代わりに呟く。
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「……リセット」
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沈黙。
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否定はない。
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遠く、記録水晶の光が乱れる。
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世界地図に微細な歪み。
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王都上空。
北西の森。
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二つの光が、微かに共鳴していた。
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(続く)




