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四つ葉の永光(クローバー・エバーライト) ―30年前の英雄たち―:アルケリア・クロニクル 外伝  作者: アズマ マコト


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EP3_策謀の酒場

【王都・冒険者ギルド】


「……それで、この『荷物』は一体?」


 ギルドの受付嬢が、引きつった笑顔でカウンター越しに問いかけた。

 彼女の視線の先には、ロープで芋虫のように縛られ、ギルドの床に転がされた元・盗賊たちがいる。彼らは一様に虚空を見つめ、何事かをブツブツと呟いていた。


「街道で襲ってきた愚か者たちだ。外傷はない。五体満足で連れてきた」


 アルフレッドが報告書をカウンターに叩きつけるように置く。

 確かに外傷はない。だが、その精神はセシリアの『治療』という名の拷問によって、とっくに粉砕されていた。一人の盗賊が、セシリアのスカートの裾が揺れるのを見ただけで「ヒィッ!」と悲鳴を上げ、胎児のように丸まる。


「あら、怯えなくてよろしくてよ? 王都の牢獄はとても安全ですわ」


 セシリアが慈母のような微笑みを向けると、盗賊たちは一斉に衛兵にすがりつき、「早く牢屋へ!」「頼むから鎖につないでくれ!」と懇願し始めた。

 受付嬢はドン引きしながらも、手早く手続きを済ませる。


「Sランクパーティー『四つ葉の永光』、依頼完了を確認しました。……相変わらず、鮮やかすぎる手際ですね」


「仕事だ。終わったなら行くぞ」


 アルフレッドは報酬の袋を受け取ると、逃げるようにギルドの出口へと向かった。

 その背中には、どこか焦燥感が滲んでいる。


 ガンダルがニヤリと笑い、小声でライナスに囁いた。


「おい、見ろよあの早足。大将のやつ、また『アレ』を始める気だぞ」

「……賭けてもいい。今夜の酒場は長くなる」


 ライナスは肩をすくめ、リーダーの背中を追った。


 ***


【酒場『黄金の麦亭』】


 王都の一角にある、冒険者御用達の酒場。

 ジョッキがぶつかり合う音が響き、焼けた肉とエールの匂いが充満している。

 その奥まったテーブル席で、アルフレッドは先ほどから落ち着きなく指でテーブルを叩いていた。


「――というわけで、だ」


 アルフレッドが咳払いを一つ。

 目の前には、空になったジョッキを積み上げているガンダルと、チビチビとワインを舐めるライナス。そして、ガンダルよりも遥かに速いペースで、強い蒸留酒をあたかも水のように煽っているセシリアがいる。


「今回の遠征で消耗した物資の補充が必要だ。特に、次のダンジョンはアンデッドが出る可能性がある。高度な聖法気の触媒……そう、特殊な浄化銀ミスリルの聖印が必要になるだろう」


 ガンダルが骨付き肉にかぶりつきながら、鼻を鳴らした。


「あぁ? そんなもん、いつもの道具屋に発注しときゃいいじゃねぇか」

「馬鹿野郎。量産品で間に合うレベルの話ではない」


 アルフレッドは即座に否定し、真剣な眼差しを作る。その視線は、不自然なほど真っ直ぐにセシリアへと固定されていた。


「セシリア。君の専門知識が必要だ。市場に出回っている聖印の中から、君の波長に合う最高純度のものを選定しなくてはならない。これはパーティーの命運に関わる重大な任務だ」


「あら。私のために、そこまで考えてくださるのですか?」


 セシリアが小首を傾げる。その仕草に、アルフレッドの喉仏がゴクリと動いた。


「もちろんだ。リーダーとして当然の判断だ。……そこでだ、明日の昼。私と君の二人で、王都の魔導具店を回りたいと思うのだが、どうだろうか」


 言った。

 言ってしまった。


 ガンダルが吹き出しそうになるのを、エールで強引に流し込む。

 ライナスは無表情のまま、テーブルの下でガンダルの足を蹴った。


(おい、聞いたか今の。「二人で」だとよ)

(回りくどすぎて涙が出てくらァ。要はデートの誘いじゃねぇか)


 二人の男たちの無言の会話を知ってか知らずか、アルフレッドは顔を赤くしないよう必死に鉄仮面を維持している。

 その必死さは、Sランク冒険者というよりは、初めての恋文を渡す田舎の少年のようだった。


「……二人で、ですか?」


 セシリアが瞬きをする。

 アルフレッドの額に脂汗が滲む。


「あ、ああ。ガンダルとライナスには……そう、別の任務がある」


 アルフレッドは視線を泳がせ、苦し紛れの嘘をひねり出した。


「ガンダルは……装備のメンテナンスだ。槌のヒビが酷かっただろう? 明日は一日、鍛冶場に籠もっていろ」

「へいへい」

「ライナスは……情報収集だ。次の依頼に関する噂を集めてくれ。裏通りの酒場を回る必要があるから、君一人の方が動きやすいはずだ」

「了解。適任だな」


 二人はあまりにも素直に頷いた。

 その反応の良さに、アルフレッドは逆に不審を抱く余裕もなく、安堵の息を漏らす。


「そういうわけだ、セシリア。他の二人は忙しい。私と君で行くのが最も効率的だ」


「なるほど、理に適っていますわね」


 セシリアはふわりと微笑んだ。それは聖女のような慈愛に満ちた、しかしどこか底知れない笑みだった。


「わかりましたわ、アルフレッドさん。明日の正午、お供させていただきます。……ふふ、お買い物なんて久しぶりですわね」


「そ、そうか! うむ、助かる!」


 アルフレッドがガッツポーズを堪えるように拳を握りしめ、ジョッキを一気に煽る。

 その横顔は、ドラゴンを討伐した時よりも達成感に満ちていた。


 だが。


 ガンダルとライナスは、ジョッキの影で視線を交錯させていた。


(やったな、大将。ついに取り付けやがった)

(だが、詰めが甘い。俺たちをフリーにするということは、何が起きても文句は言えないということだ)


 ガンダルの口元が凶悪に歪む。

 ライナスの目が、獲物を狙う狩人のように細められる。


「……大将」

「なんだ、ガンダル」


 上機嫌のアルフレッドが振り返る。

 ガンダルは、とびきり爽やかな(と本人は思っている)笑顔を向けた。


「いやぁ、明日は天気がいいといいなと思ってよ。買い出し日和になるといいな」

「……ああ、そうだな」


 アルフレッドは微塵も疑っていない。

 この筋肉達磨と皮肉屋の斥候が、ただ大人しく鍛冶場や酒場に引っ込んでいるわけがないことを。


「じゃあ、明日に備えて今日は解散するか!」


 アルフレッドが席を立つ。

 セシリアも優雅に立ち上がり、「おやすみなさいませ」と宿の部屋へ向かった。


 残されたのは、ニヤニヤと笑う男二人。


「さて、ライナス。俺の槌は手入れする必要なんてねぇんだが」

「奇遇だな。俺の情報網は、既に必要なネタを拾い終えている」


 ライナスが短剣を指先で弄びながら、冷ややかに笑う。


「明日の正午、魔導具店通り。……『護衛』が必要だと思わないか?」

「違ぇねぇ。大将が変な汗かいてヘマしねぇよう、陰から見守ってやるのが部下の務めってもんだろ」


 ガンダルが残ったエールを飲み干し、豪快に卓を叩いた。


「忙しくなりそうだぜ、明日はよ!」

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