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あなたと生きていたいから

作者: 湯豆腐
掲載日:2026/01/08

たまに、「もういいかな」と思うんです。


たまに、この世界のやるせなさに苛々するのです。


私はこれから、何度自分に落胆し、自分に落胆する自分を嫌いになり、命が尽きるまでに何度「死にたい」と願うのだろうと考えずにはいられないときがあります。


そしてそんな人生に、果たして何の意味があるのだろう、と。


そうやって、ふとどうしようもなく泣きたくなるときがあります。


こんなことを言えば、若者らしい悩みだと嗤われるでしょうか。


意味など考えるだけ無駄だと嘲笑されるでしょうか。


死なずに、ただ生きろと私に説くでしょうか。


そんなことはもう、分かっているのです。


私はただ、生きる意味がほしいのです。


明日を生きるために、踏ん張って、踏ん張って、傷ついて、足掻いて、


時には立ち向かい、自身を奮い立たせる。


そんな苦しさを抱きながら生きる明日の価値に、


私は期待を抱かずにはいられないのです。


明日を生きる自分を肯定していたいのです。


そして、自分の意志で明日を選ぶ人間でありたいと思うのです。


生きることが苦しいから。


人のできる当たり前が、私にはできないから。


生きることに期待をしてくれる人がいないから。


苦しみの先に、未来が見えないから。


人は何を持ってして、生きていたいと願うのか


私は問いたくなるのです。


この歩みの先に確かな未来があることに


私は縋りたくなる。


そんな私の、大切な出会いの物語。

お節介で自分が傷ついてしまうような、尽くしすぎて周りから引かれてしまうような、少なくとも得をしない道を私は歩んできました。例えば、駅で困っている人を放っておけなくて自分が電車に間に合わなくなるとか、誰もやりたくない委員会を引き受けて放課後一人で居残りをするとか、所謂”損する役回り”を今まで17年間、引き受けて生きてきました。それがこの私、鳩場春美という人間です。


『煌めけ、青春の1ページ』


そんな私は今、絶賛文化祭実行委員の仕事で教室に一人居残りをしています。この文化祭実行委員も仕事が多く大変だと有名な委員会で、誰もやりたい人がおらず、推薦という名の押し付け合いに発展してしまい、私にそれが回ってきた結果の現れです。

「はぁ、煌めけも何も、裏方には青春もなにもないんだなあ。一人じゃ絶対終わらないよこれ…」

まあ、引き受けた手前しっかり全うしますとも。断れなかった私が悪いのは分かっていますとも。

ただ弱音くらいは許してほしいものです。

目の前には、クラスの出し物の計画書、それに伴う予算、出し物をする場所の申請書、場所の設計図、必要物品の申請書、当日までの係分担表、当日のシフト表…。ああ、もう目を瞑りたい。

いやもちろん、今日のクラス会である程度は出し物の計画や場所の話はしました。でも、今からそれをまとめて文字に起こして資料にして提出しなければならないのです。とても億劫。そして係分担を決めたらクラスの人に指示も出さなければいけない。私が?そして実行委員ということは…このクラスの責任者も私ということになります。責任者、私が?あえてもう一度言います、私が?

「はあああ、、、」

考えれば考えるほど頭が重い。でも文化祭まで意外と時間がない。

こんな自分がつくづく嫌になる。なんで引き受けちゃったんだろう。

自分の人生を表すような目の前の光景に視界が霞みそうになる。

ああ、駄目だ駄目だ。泣いてる暇なんてない。頑張らないと。

ぐっと背伸びをして、資料に手をかけたとき

「おい」

後ろから低い声が私を呼んだ。

「え」

私の反応をよそに、ズカズカ歩いてくる彼に呆気にとられていると、私と20cmくらい身長差のある身体がドカっと座ってきた。

「やる」

「え」

「だから、俺もやる。それ」

「は」

私の視界に、私の人生を表しているような資料の山に、彼の手が伸びる。

「ずっと委員会やら係やら、めんどくせーやつ押し付けられてるだろ。鳩場サン」

「あ、え、うん。まあ」

「別に好きでやってる訳でもないだろ」

「まあ、はい。そうだね」

「だったら、俺もやる」

本当に状況が飲み込めない。なんで?いつから?

「いや、あの」

「あ?」

「で、でも私が引き受けたことだし私がやらないと筋が立たないよ。申し訳ないし」

「やりたくねぇこと、無理やり押し付けられて断れないように見えてたんだけど、ちげぇの」

「無理やりってことはないけど…」

「やりたくはねぇんだな」

整った顔が目の前で喉を鳴らしながら笑っている。

「河崎」

「え、なに?」

「河崎春馬。俺の名前」

「クラスメイトだもん。そのくらい知ってるよ」

少し目を見開いている河崎くんと目が合う。

「いや、知らねーと思ってた。俺が来たときもとんでもない顔してたし」

「そりゃあ急に声かけられたら驚くでしょ!」

目線を落とし、慣れた手つきで資料を整理し始める河崎くんに抗議してみたけど効果はない。

「河崎くんこそ」

「あ?変な顔してたっていうんか」

「違う違う。私の名前、知ってたんだね。びっくりした」

「…なんとなく」

「ん?」

「なんとなく、仕事押し付けられてるのは見てたから」

「そっか」


これ以上聞くと自分が苦しくなりそうで、私は作業に意識を戻した。

河崎くんは今日のクラス会での議事録をもとに、場所の設計図を描こうと紙と睨み合っている。

そっか。私周りから損する役回りだと思われるどころか、仕事を押し付けられている可哀想な奴だと思われてたのか。こんなお互いの名前を知っていることに驚くような関係値の人に同情されて、仕事を肩代わりされるくらいには惨めに写っているんだ。


情けないな。


「好きなの?」

「は?」

沈黙が少し気まずかったのと、なにか別のことに意識を向けたくて発した言葉は、だいぶ空回った発言となって彼のもとに届いてしまった。

「あ、えっとね。ほら、わざわざ放課後の時間返上してさ、こうして作業してるってことは、イベントの裏方のお仕事とか、そういうの好きなのかなと思って。私と違って委員会でもないから」

「あー…」

彼は少し黙って、気まずそうに視線をそらしている。

あれ、私なにかまずいこと聞いちゃったかな。

「いや!ただ気になっただけだから!ごめんね急に」

笑って誤魔化してみるけど、河崎くんは難しい顔のままで、ゆっくり口を開いた。

「…俺は、報われるべき人が報われる社会であるべきだと思うんだ。綺麗事でもなく、そんな簡単なことが実現できねぇの嫌なんだ。世のため、人のために生きている人々が損をするなんてこと、意味わかんねぇだろ」

ぽつりぽつりと、一つの言葉を丁寧に紡いでゆく。

唇を噛みしめる彼の顔が酷く悲しそうで、彼は今誰に向けて話しているんだろうと考えてしまった。

「…鳩場サン、クラスの決め事のとき大体仕事回されてたり、先生から推薦されたりしてんだろ。仕事やりたくねー連中のこと尊重して、先生に嫌って言えんくて、毎回引き受けるとき、ぐっと何かを飲み込んでんのずっと見てた。本当は委員決めるとき、俺が名乗り出ればよかったんだけど」

「もう私がすることが確定している雰囲気だったもん。私も断ろうとしてないし、名乗り出たら逆に不自然だもんね」

「…そう、思ってやめた。だから、せめて仕事ぐらい手伝いてぇの。別にこんな作業、好んでやってねーよ」

「河崎くんは私のこと、同情じゃなくて報われるべき人…って思ってくれてるんだね。ありがとう」

「…親父が、鳩場サンみたいな人だったんだ」

河崎くんの顔が歪む。

「親父は、引かれそうになってる子供を助けて死んだ。もともとお節介な人だったんだ。休日はボランティア行ったり、会社で困っている人がいたら金だって貸す人だった。母さんは、そんな親父を今は憎んでる。家族をおいて自分だけ先に逝くなって、家では親父の話、ご法度なんだ」

彼は一体、どれほどの悲しみと葛藤を抱え、自分を意思を押し殺していたんだろう。

「でも俺は、親父が好きだ。俺も同じ状況なら、子供を助けていたと思う。そんな親父が誇りだとも思う。親父が踏み出した一歩で、今一つの命が生きてるんだ。俺は親父が報われるべきだと、思う」

彼はそう行って俯いていた。

「ねぇ、河崎くん」

「なに」

「人が生きる意味って、何だと思う?」

「は?」

突拍子もない質問に疑問を浮かべる彼をよそに私は続ける。

「私はね、互いへの影響だと思うんだ。人間はお互いがお互いに作用し合って、影響し合って、今を生きているんだと思うの。河崎くんが私のことを見て、何かしなきゃと思って、こうして今あなたとお話できていることも、河崎くんの話を聞いて、それに感化されてこうして言葉を紡いでいる私も、そこにきっと生きた意味があると私は信じてる。そして河崎くんの行動起点にあなたのお父さんがいるのなら、確かに人生は繋がっていて、確かに報われているよ」

私は目の前の彼に、どうしようもなくこの胸の内を話したくなった。

「だからね、河崎くん。私嬉しいんだ。私という存在があなたに確かな影響を与えたこと、そしてそれを行動に移して言葉で届けてくれたこと、すごく嬉しいの。私がこんな損な役回りを担う意味が、私が生きる意味が確かにここに在ったような気がして」

「…俺は、そんな大層なことしてねぇ」

「そうだとしても」

一気に喋りすぎて、なんだか胸の奥がじわっと熱くなって泣きそうになる。

「私のことずっと見ていてくれてありがとう」

河崎くんと目が合う。今の彼は、私のことを見ているとわかる。

「ごめんね急に!私すぐ語りだしちゃうんだよね」

「…いいや」

河崎くんが静かに口を開いた。

「こちらこそ、ありがとう」

「そして先に語りだしたのは俺だろ」

河崎くんがそう言って笑うから、なんだかこの仕事も、人生も、悪くないような気がした。




たまに、もう十分生きたと苦しくなるときがあります。

「…ただいま」

特に、家にはあんまり居たくない。

「お母さん、ただいま」

出かける準備をしている母に声を掛ける。

「あぁ、いたの?今から悠真の習い事だから、洗濯物よろしくね」

「うん」

私の返事も待たず、母は急いで玄関へと向かった。

弟の悠真は私より5歳年下の弟で、基本やらせれば何でもできるタイプの子だった。

幼少期から、勉強はもちろん、スポーツ、芸術、音楽など多岐にわたる習い事をこなし、中学生になった今は学習塾とサッカーの習い事に注力している、らしい。

幼い頃はそれなりに嫉妬もあった。私はどうしてもピアノがやりたくて、母に一度お願いしたことがある。しかし母は、「何をやっても駄目なあんたにピアノなんて絶対にできない」と許してもらうどころか、激怒させてしまったことを未だに覚えている。私は何をやっても駄目な子だった。そんな私を弟は酷く冷めた目で見つめていた。別に虐待ではないし、ここまで育ててもらった恩は感じなければいけないと分かっている。でもたまに、この家にいるのが酷く苦しくなるときがある。もう二度と自分を嫌いになりたくないのに、この家にいるとそれが許されない。

母に言われた通り、洗濯物を畳みながら、早くこの家を出ようと何度目かもわからない誓を自身の心の中に立てた。




あっという間に月日は流れ、文化祭まであと5日。

私のクラスでは劇をすることとなり、それはもう大変だった。劇の台本作り、配役決め、装飾作り、音響や演出の手配、告知用のポスターやチラシ作り…我ながら本当によく頑張ったと思う。これらの仕事を表向きには私一人が熟したとなっているが、実際には河崎くんが全面協力してくれた。河崎くんは河崎くんで装飾の係で同じ係の人と忙しそうに仕事をしていたにも関わらず、時間を見つけては私の仕事を手伝ってくれた。そして今日は劇のリハーサルの日。

「ここ少し展開が早い気がして、もう少しセリフを増やしてみない?」

「分かった!うちらでもうちょっと考え直してみるね」

「音響さん!ここもう少しBGM下げられる?」

「了解です!」

慌ただしく、でも確実に、劇として完成し始めているのを感じ、小さな高揚感を覚える。

全体を見つつ、少し休憩しようと舞台袖に戻ると河崎くんがいた。

「だいぶいい感じになってきたな」

「ね!形になってきて嬉しいよ」

私は文化祭実行委員になってよかったのかもしれないと最近思い始めたりしてる。だって、こうして河崎くんと隣に並んで、当たり前のように喋るなんて、考えもしなかったから。

劇がクライマックスに差し掛かり、ステージ内の緊張感が高まる。

劇はほぼ白雪姫のオマージュ作品だ。少し風変わりなのは、白雪姫が毒だと知りながらりんごを齧ることくらいだろうか。白雪姫は魔女に虐められており、そんな生活に疲弊し、自ら終止符を打とうとした。そんな白雪姫を傍で見ていた小人たちが、王子様を連れてくるという展開につながっている。

「私、死ぬなら山よりも海がいいな」

「ほんっとにいつも話が急だよな、鳩場サン」

ごめんて、と笑いながら、それでも話に乗ってくれる彼の優しさを感じてしまう。

「なんで海?」

「私は海のきれいな地平線を見ながら死にたいの」

「随分エモーショナルですネ」

「死ぬときぐらい理想語らせてよ」

「鳩場サンには王子様が助けに来ねぇの」

「そもそも傍にいる小人すらいないからね。毒リンゴをいくら齧っても誰にも気づかれないよ」

ステージが暗転して河崎くんの表情は見えなかったけれど、

「じゃあ俺が見つけてやんねーとな」

そうおちゃらけて言ってくれる彼の傍になるべく長くいたいと強く思った。





家では無駄な口を開かない。

言葉をまっすぐに受け止めない。

あと少しの我慢。

まるでお呪いのように心で唱えて、自分自身を保とうとする。

家に帰りたくない。でも私には他に居場所がない。

一人で生きてゆくための術も、職も、私にはまだない。

ここで耐えるしかない。あと少し。

「…ただいま?」

随分家が慌ただしくて、何かが起こったことを察した。

「お母さん?どうしたの?」

母が髪を乱して死んだように横たわっている。

「…のせいよ」

「え、なに?」

「あんたのせいだって言ってんのよ!全部全部!」

私が尋ねると、母は烈火のごとく怒りだした。

「あんたさえ産まなければ。あんたがいなければ、悠真とお父さんと私だけの理想の家族だったのよ。優秀な息子と高給取りの旦那に愛されて、全てが完璧だったのよ!あんたが、あんたがいるせいで全部台無しじゃないのよ!あんたにかけるお金、時間も全てを悠真に割けたのに!あんたなんて産まなければ、あんたさえいなければ!」

母はそう叫ぶと私にビールの空き缶をぶつけながら、大きくしゃくりあげ泣き始めた。

母の手元には無数のビールの空き缶。そして、記入済みの離婚届とメモがあった。

母が過呼吸気味になっているのに気づき、背中を擦りながらメモを手に取る。

『悠真の親権は私が持つ。話し合いの日程は後日弁護士を通じて連絡する。』

達筆な文字でそれだけが記されていて、父は離婚をずっと計画していたのだろうと悟る。

母がゆっくり顔を上げ、私の顔を見つめる。

「…あんたなんて、死ねばいいのよ」

そう呟き、母は私を突き飛ばした。

「二度と顔を見せるな!出ていけ!」

いつかこうなるんじゃないかと思っていた。私の家は弟が生まれてから日々歪んでいったから。母が弟を溺愛し、弟は休みのない日々を生きる。そんな二人を横目に何も言わない父に、家事を淡々とこなす私。弟は誰も助けてくれない現状に何度絶望し、どれほどの苦しみを抱いていたのだろうか。そんな弟に父は気づいたのか、それとも弟を溺愛する母に嫌気が差したのか、真相はわからないが、父の一筆で私が必死で縋っていた家の全てが簡単に崩れ去ってしまうのが酷くおかしかった。そして、こんなときにも父は私を見ていないのだということにももう驚かなかった。

私は誰にも必要とされていなかった。

ただの便利屋で”損する役回り”だった。

生きている意味など、どこにもなかったのだ。必死で縋り、耐える必要性もなかったのだ。

もう、やめよう。

私はスマホとカーディガンをしっかりと掴み、家を飛び出した。





今の時刻は23:12。

終電はまだある。私は駅へ向かい、電車に飛び乗った。

何も悲しくない。悲しくない。

でもなぜだか視界が霞んで、頬が濡れてゆく。

もういい。もういいんだ。

もう全部やめてしまおう。

利用される日々も、意見を言えない自分も、自分を嫌いになるのも、人生の意味を問いたくなるのも、こうして涙が溢れてくるのも、全部もういらない。

もう死んでしまおう。

視界が戻ってきた頃、電車が終点へと到着した。





海が月の光でキラキラと輝いている。

前に一度、この駅に来たことがある。高校一年生の遠足でこの海を訪れて、心を奪われたことを今でも覚えていて、最期に見るならこの景色がいいと思っていた。

「きれい…」

昼に見たあの時の海とはまた違う、ゆっくりと輝いている海に私は見とれていた。

私もこんな風に生きたい。ゆっくりと穏やかに、輝いていたい。

いや、輝いていたかったんだ。

近くにあったベンチに腰掛けて、海を眺めながら思う。

綺麗だなあ。

もっと見ていたいなあ。

そして、まだ生きていたいなあ、って。

一頻り泣いて、呻いて、泣きつかれた私は波の音に耳を澄ませながら、そのままウトウトしていた。





「…おい!なぁ、おい!起きろ!」

なんだか懐かしい声で目が覚めた。

「…河崎くん?」

「お前何してんだよこんなとこで!」

眉間にシワを寄せて苦しそうな河崎くんの表情が、なんだかとても綺麗だと思った。

「河崎くん、なんでこんなところに」

「お前が言ったんだろうが。死ぬときは海に行きてぇって」

「私、死にたいなんて一言も…」

「お前さ、今日がなんの日か分かってねぇな?」

「今日?」

「今日は文化祭当日だ。実行委員がいねぇとか不自然すぎんだろが。お前はそんなやつじゃねぇから、何かあったに違いねぇって思ったんだ」

「…ぶんか、さい。文化祭!?今何時!!」

「10時。劇も文化祭自体も無事に終わって抜けてきた」

無事に…。よかった。

でも、

「…なんで」

「あ?」

「なんで、ここがわかったの」

「ここらの海なんて、ここしかねぇっつーの」

「なんで、わざわざここまで」

「見つけるっていっただろ」

河崎くんが私の横に腰掛ける。

「鳩場サン、前に人間が生きる意味は何かって言ってきただろ」

河崎くんと初めて喋ったときのことだ。

「俺は、生きていたいという意思にあると思う。好きなことをするためとか、美味いもの食うためとか、明日発売の漫画を読みたいとか、そんな小せえことでいい。大切な人と生きていたいとか、誰かを救いてえとか、その先に俺らは生きる意味を見出せるんだ。だから俺は、今ここにいる」

言葉の意味がうまく入ってこなくて、何も言えずにいる私に

「俺は、鳩場春美と生きていたいんだ」

彼はそう柔らかな声で告げた。

「話が急で、考えすぎで、何もかも抱え込んじまう。かと思えば何にも言わずにどっかに行っちまう危なっかしいお前と、俺は今後も生きていきたい。俺が鳩場サンに影響を受けたように、俺も影響を与えたい。そしてその先に、生きる意味を見出したいんだ。なぁ、だからさ」

彼の手が私の頬に伸びる。

「ずっと、俺のことも見ててよ」

視界が霞む。涙を拭う彼の指を更に濡らしてしまう。

海の音が、やけに遠くに聞こえて暖かかった。





結局は母は父と離婚し、私の親権は父に渡ったが、正直どうでも良かった。文化祭が無事に終わり、高校3年生の私達は一気に受験モードへと切り替わる。一方私は、高校を卒業したら働くと決めていたので、就職活動の対策に力を入れている。

「春美サン」

結局あの後、帰りの電車で河崎くんに全てを話した。自分自身のこと、家族のこと、もうやめてしまいたいと思ったこと。たまに、生きる意味を見失ってしまうこと。

今でも正直、苦しくなる日はある。

きっとこれからも、私は何度も死にたいと願う。

そしてその度に、生きる意味を問うのだろう。

でも前と違うのは、

「なあに?河崎くん」

この困難から道を成したとき、そこに生きた意味が確かにあったのだと私は言いたいと思うこと。

「昨日あんま寝てねぇだろ」

「えーそんなことないよ」

「目の隈。あと授業中爆睡しとる。バレバレなんだよ」

「さすが、私のことずっと見てるね」


ねぇ、河崎くん。


「春美サンは危なっかしいからな」


あなたと生きていたいから、私は明日を生きていたいと思うよ。


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