#6
それは、生か死か、ふたつにひとつの分岐路でした。
どちらに進むのも五分五分の確率だったとするならば、今朝、校庭の飼育小屋で静かに息を引き取った子ウサギと、今、動悸に顔をしかめている自分の命運を分けた要因は、一体なんだったのだろう。そんなことを考えずにはいられませんでした。
この時生寿は、生まれて初めて死神の黒装束に触れたのです。
呼吸の存在感を十二分に確かめた後、徐々に、少しずつ、ゆっくりと現実世界へ意識を着陸させていく過程で、この公園にやってきた当初の目的を思い出したらしい生寿。
ランドセルのショルダーストラップを両肩から外し、フラップを開けて、子ウサギの亡骸が収められた巾着袋に手を伸ばします。
妙に柔らかく、だけどゴツゴツとした亡骸のリアルな感触を左手の平で感じながら、右手の指先で器用に巾着袋の口を広げた彼は、今日何度となくうっとりとした心持ちで鑑賞したはずの小さく茶色い背中を目にした瞬間、突拍子もない悪寒に襲われました。
「うわっ!」
思わずケヤキの根本に袋を放り投げると、亡骸の穏やかな曲線をそっくりそのままトレースした布製の黄色い棺は、真っ赤な落ち葉の絨毯上に音もなく落下しました。
気持ち悪い、ともちょっと違う。恐ろしい、ともちょっと違う。痛ましい、ともちょっと違う。おぞましい、ともちょっと違う。不気味、ともちょっと違う。
強いていうなら、これら全てをぐちゃ混ぜにして大雑把に練り合わせたような、掴みどころのない心の舌触り。
死神の黒装束に一度触れてしまった生寿には、子ウサギを埋葬することはおろか、その亡骸に再び触れることすら、さらには直視することさえも、気持ち悪くて、恐ろしくて、痛ましくて、おぞましくて、不気味で、到底できやしなかったのです。
振り返り、振り返り、黄色い棺に繰り返し別れを告げながら、強烈な罪の意識に心を痛めつつ、彼は公園を後にしました。
次回へ続く




