#5
トドメを刺してやらんとばかりに、背後の車線を切り裂いていったのは、擦り切れるような甲高いエンジン音を響かせた悪人相の車。
これが決定打となって、もうすっかり縮み上がってしまった生寿は、
「ここでいいかな……」
と、自分自身を納得させるような調子で小さくつぶやきました。
(だいぶ硬そうだけど、ここの地面も土には違いないし、なんとか掘り起こして子ウサギを埋めてあげよう)
そんな内容のことを考えて右手に意識を向けると、さっきまでは確かに握っていたはずのショベルが、スルリと抜け落ちてしまったかのように消えています。
慌てて辺りを見回わすと、今しがた立っていた路肩の表面を突き破るようにして生えたセイヨウタンポポの群生上に、大切なショベルがポツンと落ちているではありませんか。
距離にして十メートル弱。
渡ったばかりの車線を駆け足で引き返し、ショベルを拾い上げた生寿は、そこでどういうわけかセイヨウタンポポのしたたかさに心惹かれ、その小さな花弁にしばしの間見入っていました。
ふと正気に戻り、中央分離帯へ戻ろうと振り返ったその瞬間、
「パーーーーンンン!」
と、怪鳥の叫びを数十匹分は凝縮させたかのようなクラクションが鳴り響きました。
そして、反射的に硬直した彼のほんの目と鼻の先を、大人の背丈ほどはあろうかという、それはそれは巨大なタイヤが物凄い速度で横切っていきました。
途方もない風圧と大量の排気ガスを撒き散らして去っていくトラックの嘶きが、いつまでも耳について離れません。
それどころか、その轟音は、彼の鼓膜の内側でますます増大していきます。
背骨を曲げ、指先まで固まってしまった生寿が頭蓋で直に聞いていたのは、生命維持欲求の緊急警報、すなわち、自らの心臓から押し出される連続的な鼓動音でした。
暴れ狂う左胸に両拳を押し当て、左右を何度も確認して、一目散に駆けて八車線道路の反対側へ。
それから公園の入り口に駆け寄り、そびえ立つケヤキの木の幹にもたれかかります。
次回へ続く




