第7話 赤堂さんの事情に巻き込まれる
「ねぇ。あなたのアレ、面白かったわ。『ない』を反対にして『稲』って読むやつ。なにそれ、無理矢理過ぎ」
目の前で、将河辺がけらけらと笑う。誰から聞いたのだろうか。そんなことは考えるまでもない。きっと赤堂さんだろう。将河辺への反撃として話をしたのかもしれない。それともただ結果報告をしただけか。
「まさか、『宝なんてないよ、バーカ』っていう私からのメッセージを『男となんて友達になれる訳がないよ、バーカ』なんてものに変えられるとはね」
将河辺さんは、あの本をそういう風に受け取ったのか。まあ確かに、過去の赤堂さんと、その幼馴染みの話しを聞いた後だとそう考えられても無理はないと思う。
だったら女子の友達を作ればいいじゃないかとか、そう単純な話しでもないのだろう。
「そんなに面白い話しでもないけどな」
ただの馬鹿な奴の考えだ。自分でもそう思う。
「いやいや!面白いよ。だって普通はそんなことしないもん。自分のアホさ加減をひけらかして、無理矢理答えをねじ曲げて。どうだ、凄いだろ!って、馬鹿じゃない?」
どうだ、凄いだろ。なんてことを言った覚えはない。たぶん、言ったのは赤堂さんだな。
俺はただ、どんな馬鹿げた推論を辿ることになろうとも、あの件を上手く着地させられればそれでよかった。ただそれだけである。赤堂さんが出来るだけ傷つかないように終われるのなら、後のことはなんだって良かった。
「なら、普通のやつならどうするんだ?」
ある程度予想の出来ることではあるが、興味本位でそう聞いてみる。
「そーだなー?例えばさっき話した國火下くんならきっと、赤堂さんのことを抱き絞めたりすると思うよ」
将河辺は、自らの体を抱き絞めるようにする。
「そうしてきっとこういうんだよ。『こんなのに負けちゃ駄目だ。君は強い人間だし、俺もいる。2人で乗越えよう』って、くっさくて格好いい言葉を吐き出すの。そうして、女の子が憧れるような王道ラブロマンスへの筋道が立てられていくの」
抱き絞めた自身の体を左右に動かしながら、狩人の目で俺を見て笑う。
「そうして深まった2人の仲を、私が滅茶苦茶に壊してやるの」
「だったら、俺にも同じようなことをすればいいじゃないか」
「そう。だから、あなたには赤堂の友達をやめて欲しいの」
俺は察する。単に、あなたでは盛り上がらないと言われている。
「あなた、地味人間過ぎてお話が盛り上がらないのよね」
地味人間とは酷い言われようだ。ただまあ、前の奴より盛り上がらないと言われてしまえばそうである。話を聞く限り、その國火下って奴は一昔前の格好いい漫画の主人公みたいな性格をしていたのだろう。知らんけど。
「だってあんたみたいな根暗陰キャが、会って数週間の赤堂を裏切っても。まあ、そんなもんだよね。くらいにしかならないでしょ?私はもっと、正義の味方で性欲とは無関係!みたいな男を堕として2人の仲を断ち切りたいの」
それは流石に偏見が過ぎないだろうか。根暗陰キャにだって、性欲のない正義の味方みたいな性格のやつはいるだろう。ただ、俺がそうかと言われれば確かに違う。俺は、正義の味方という感じではない。俺が誰かを裏切ったところで、それほど驚きはない。
「でも、赤堂はあんたに固執している。もっと他の男を探して欲しいのに、どうしてかあんたみたいな奴で妥協している。適度に居心地がいいんだろうね、あんた。それこそ、裏切られてもショックを受けないような奴を選んだのかも」
「あまり嬉しくはない選ばれ方だな」
「だから私は、あなたに友達を止めて欲しかったの。中途半端な希望で絶望されなくなっても困るし。でも変わった」
そういいながら、彼女は獲物を狙うように下から俺を睨め付ける。
「あんた、意外と脆くないでしょ。それでいて対して興味も示さない。だから赤堂はあなたを選んだ。性欲で自分を見ず、純粋な助けになってくれそうなあなたを」
獲物の品定めでもするように、じっとりとした目線を浴びせられる。
「私、そんな貴方ごと叩き潰してみたくなっちゃった」
あんたも滅多なことでは本心まで折れることは無さそうだし、楽しく遊べるよと、彼女はニヤける。
「だから、さっきのお願いは忘れていいよ」
笑顔を向けられながら、俺は『お前もいじめる宣言』を受ける。
こいつは、本当に厄介なことに巻き込まれたな。
「覚悟しておいてね、尾緒神くん」
将河辺は、それだけを言い残して屋上から立ち去っていく。
あいつは、クラスが違う俺をどう責めるつもりなのだろうか。
俺は、消えゆくその後ろ姿をただ眺めていた。