第6話 赤堂さんのいない時間
犯人捜しの調査は、今回もおそらく放課後になってから。それまではただ淡々と授業を受けるだけである。そう思っていたのだが、6時間目と7時間目の間の10分間休みの時に俺は思わぬ呼び出しを受けることになった。
「尾緒神、なんかお前に用があるって子が来てるぞ」
眠気で机に突っ伏していた俺は、また赤堂さんかと顔を上げる。正直、放課後に備えて今はちょっとでも目を瞑って置きたい気分なのだが、無視するわけにもいかないと体を持ち上げる。
しかし、教室の扉に居たのは赤堂さんではなかった。俺が怠さを隠そうともせずに、教室の扉の方を見ると、その先には懐かしい顔がいたのだ。
ゆったりと腰元まで伸びる綺麗な長い黒髪。少しだけ吊り上がった目に内包された大きくて力強い瞳。ライトノベルに登場するような、容姿端麗成績優秀な美少女が現実にいるのなら、きっとこういう人のことを言うのだろうと、オタクにそう思わせるような容姿のその女は、俺の中学の頃の知り合いだ。基本的にあの頃の知り合いは全員嫌いであるが、彼女だけは違った。とはいえ、特段仲のいい訳でもない。
彼女のことは友達だとも思っていない。初めて話したのは、確か3年生になってからで、最後に話したのも3年生の頃である。正直自分でも彼女との関係を上手く言葉にすることができない。強いて近い表現をするのなら、“中学の頃の知り合い”だ。
吹奏楽部である彼女はトランペット奏者のようで、俺が出場した全国大会に顔を出しては泣きながらそれを吹いてたいたらしい。当時は俺も必死だったから、それが本当かどうなのかまでは知らないし、どうでも良かった。ただ、本人がそう言って来たのだからきっとそうなのだろう。程度の認識である。
これは後から知ったことなのだが、その年の吹奏楽部は県予選で敗退したらしい。なんでもいいから全国の場で吹きたかったのかと、俺は今でもそう考えている。
俺はあの日、彼女に宣言された。「高校、私があなたを全国に連れて行くから」。目に涙を溜めながらも、決意の籠もった目でそう宣言されてから、もう半年以上は経つだろう。そういえば、今年もまた夏が来ていた。俺にはもう関係のない、戦の季節だ。
俺は席を立って教室の入り口へと足を運ぶ。そういえば、この学校で赤堂さん以外にここから呼び出されるのは初めてかもしれない。
彼女の名前は、逢月 唯華。俺と同じ中学に通っていた知り合いで、唯一また会っても嫌な気のしない人間である。
いや、正直なことを言えばなんで俺がお前の全国大会に付いていかないといけないんだ。とは思っている。だから、とっとと連れて行って勝手に結ばれたその約束は終わらせて欲しい。
「案外、早かったな。もう全国の話か」
彼女に近づくなりそう口にすれば、何故だか不機嫌に口を膨らませられた。
「なにそれ。嫌み?」
「なんでだよ。なんとなく、お前なら一年で全国に出られると思っているだけだ」
あなたに負けないくらい凄くなる。なんてことを言っていたくらいだし。
「ごめんだけど、その約束は来年まで持ち越して置いて。この学校の吹奏楽部は根っこから全部変える必要があって大変なの」
ギラッとその目が強く光る。この学校の吹奏楽部は大変そうだと、顔も知らない相手に同情した。
「そうか。何か手伝えることはあるか」
「いらない。私には私で、信頼出来る友達がいるの」
信頼出来る友達、ね。頭の中に、赤堂さんの顔が浮かぶ。
「で、要件はなんだ」
「ちょっとあなたに会いたいって人が居て、同じ中学だったからって仲介を頼まれたの」
それは難儀なことで。
逢月は、半身を切って後ろにいる人を紹介しようとする。俺に会いたい?部活動勧誘なら死ぬほど嫌だな、なんて思いながら後ろの生徒へと視線を送る。
そこに居るのはツインテールで、何処か陰りのある小狡そうな女だった。会った覚えも、話しをした覚えもない。この女は誰だろうか、どこかの部のマネージャーか?と警戒をする。見た目だけで判断をするのなら、ダンス部が似合っていそうだ。服の上からだからわかり難いが、なんとなく筋肉が引き締まってそうな気がする。
「この子は、同じクラスの将河辺 麗胡。よく知らないけど、尾緒神と会いたいらしいの」
将河辺。そうか、こいつが。まさか、要注意人物が俺を訪ねてくるとは。心では警戒をするも、表情にはそれを一切出さない。そういうのは得意である。
初めはニヤニヤとしていた彼女の顔も、俺の反応を見て段々とそれが消えていく。
「なに、もっと私を睨んだりするかと思ったのに。つまんな。私の名前、知らない訳じゃないんでしょ」
「まあ、名前くらいは知っている」
「へぇ」
悪い顔をした彼女を見て直感する。ああ、多分この人は、俺に似た俺の嫌いなタイプの人間だ。こうして自己嫌悪を感じるのも、きっと彼女が俺の一側面と似ているからだろう。
「ちょっと来て」
将河辺に手を引かれる。
「あの、私は」
「ああ、逢月さんはもういいから。紹介ありがと」
どこか心配そうな顔をする逢月の顔が遠ざかっていく。
手を引かれるままについて行くと、そのまま屋上へと連れ出された。また屋上か。今日はもう3度目だな、なんてことを思いながらそこに踏み入れる。
屋上に入ると手を離される。将河辺さんは先行することなく俺の後ろに回り混むと、俺は背中を突き飛ばされた。前によろけ、振り返ったとき。どうして将河辺さんがそんなことをしたのかを理解した。彼女は、屋上扉の前に立ち塞がるように陣取っていたのだ。
俺一人になら、その奥へは通さない自信があるみたいだ。単純な力だけを考えると、男である俺の方が有利であり、強引に押し通れると思うのだが、どうやらそうでもなさそうだ。
もしかすると、何か護身術でも学んでいるのかもしれない。それとも、単純に俺になら勝てると思っているだけなのか。
学校のチャイムが鳴る。どうやら、授業には参加出来なさそうだ。
「それで、俺に何のようだ」
不平を口にする。
屋上の入り口に陣取られてはいるが、逃げる気は毛頭なかった。これは願ってもない機会だ。俺も、将河辺とは一度話しをしてみたいと思っていた。
将河辺は、見下すように軽く顎を持ち上げる。お前より私の立場の方が上だと、行動で示すように。
「担当直入に言うわ。あんた、赤堂の友達を止めなさい」
言われた言葉に当惑する。てっきり、何か罵声や悪口でも言われるものだと思っていた。赤堂さんに関わっている俺も、何かしらの標的にされたものだと思っていたが、まだその段階ではないみたいだ。
入学して4ヶ月目。もうこの学校でいじめをしても問題のない土台を作れてるやつなら、かなり厄介な相手になると警戒はしておく。
「どうして、そんなことをしないといけないんだ」
彼女からの質問に対しては、単純に疑問に思ったことを返す。こうした方が、単に断るよりもいい。もしかすれば、相手が勝手に事情を話してくれるかもしれないからだ。
「あんた、この状況を見て分からないの」
分からないが。
黙って首を傾げると、将河辺はむっと怒ったような顔をした。
「あんた、もしかして赤堂から何も聞いていないの」
「聞いてないって、何をだ?」
顔をゆっくりと下げていきながら、今度は下から刺すような視線が俺を射貫く。その口元は少しだけ笑っていて。
「私が、あいつを虐めてるってこと」
今どき、そんなに嬉しそうに自分が虐めをしていることを堂々と宣言する奴がいるだなんて思わなかった。最近は自覚のないいじめ加害者が多い。誰かに指摘され、始めてそれがいじめであったと認識する人が多いと、俺は思っている。小学校の頃から、いじめは駄目だと耳にたこが出来るほど勉強させられる。それ故に、「いじめ」という言葉自体に抵抗や嫌悪感を持つ人は多い。それなのに、目の前の女は罪悪感やためらいもなくその言葉を口にした。しかも、自らが加害者だと打ち明けている。いかれた奴だ。
単純な馬鹿か、それとも策士か。俺は黙って彼女を観察する。
「へぇ。こんな話しを聞いても、眉一つ動かさないんだね。あなた大丈夫?倫理観とか、終わってない?」
お前にだけは言われたくない。
「ああ。それは大丈夫。今日はちょっと、眠たいだけなんだ」
事実である。午後の授業も寝ずに乗り切った俺は、そろそろ限界を迎えようとしていた。頭は確実にいつもよりも回っていない。それ故に、周りのことはあまり考えられていない。ほとんど素の自分がそのまま出て来てしまっている。人に嫌われやすい、目の前の女によく似た素の自分が。
将河辺は、「ふーん、そ。」と簡素な返事だけをして俺に見透かすような視線を飛ばす。相手は、“ただ眠いだけ”なんて戯言は信じていないようだ。
「聞いてはいないけど、知ってはいた。なんとなく、事情は察していたってところ?」
俺の反応について、俺自身の意見は無視して彼女の予想が言葉にされる。
それとも、単に興味がないだけ?と呟かれる。そちらの呟きは無視した。
「だいたいはそうだ。赤堂さんも、俺と同じ部類の人間なんだろうなとは思っていた。だから、驚きは少ない」
「は?どういうこと。ああ、お前もいじめられている側の人間なのね」
正確にはいじめられて“いた”。過去形なのだが、まあそれはどうでもいい。
納得はしていないのか、訝かしむような目で見られる。
「でも不思議。あんたがいじめられているなんて思えない。やろうと思えば、抵抗出来るんじゃないの?」
目を細めながら分析される。お前に俺の何が分かるというのか。
「そんなことはない」
「そ。でもあんた、いじめられている状況に対して嫌とか、そういうことは思わないでしょ」
「馴れただけだ。最初は嫌だった」
どうして分かるんだ?と思う。
「なるほど。だからね」
一体何を納得したのだろうか。
「私、あんたに居られると困るのよ」
「困る?どうして」
すっと、彼女の表情が消える。
「赤堂が、希望を失わないから」
向けられた視線にゾッとする。それは、いじめっ子の目というよりも、悪魔のそれであった。何かが狂っている。そう思わされ、恐怖感を与えてくるようなものだ。俺はニヤけそうになる表情を必死におさえる。単純に、興味が湧いてきた。
将河辺の表情が、恍惚とした歪な笑みへと変わってゆく。
「私、誰かが絶望する顔が好きなの。自分ではもうどうにも出来ないって悟って、でも痛いのも辛いのも嫌だから、ただ泣くしかなくなるあの表情が好き。泣きたいのを必死で我慢する表情も好き。それとね、抵抗されるのも好き。私に向かって来て、頑張ろうって、現状を変えようってするあの哀れな顔が好き。そこからの変化が大好き。でもね、そういうことは、続けて行くうちにつまらなくなっちゃうの」
どうしてだか分かるよねって目で語ってくる。
突然始まった自白を、俺は黙って聞き入れる。
「最後にはみんな、壊れちゃうの。抵抗するのをやめて、ただいじめられることを教授されるだけのゴミになっちゃうの。そんなの、面白くない」
心底冷めた目をする。先程俺が、いじめられることには馴れた。なんてことを言ったからだろうか。彼女にとっては、俺もその面白くない人間の一人なのかもしれない。
「でもね、赤堂は違った。何回壊しても学校に来るし、何回絶望しても立ち上がろうとしてくるの。そういう、私が大好きな強い女の子なの」
何度でも遊べるおもちゃを見つけたとばかりに嬉しそうに将河辺は歓喜の色を見せる。
「ねぇ。知ってる?赤堂が一番落ち込んだときのこと」
「知らないな」
「興味もないって顔ね。あれ。でも変ね。私、貴方に惹かれてるみたい」
玩具としてっという意味だろう。嫌な意味だ。できれば関わりたくない。敢えて言葉足らずの言い方をするのは、そうすることで動揺した男でもいたからだろう。
将河辺の煽るような視線を、俺は真正面から受け止める。彼女はニヤリと笑い、楽しそうに後ろへと振り返った。
「前にも居たの。あなたのような信頼している“男友達”が、赤堂さんにね。名前は確か、國火下くん。だったかな。」
國火下。知らない名前だと思うも、俺と赤堂さんは違う中学に通っていたのだから当然かとも思う。
「そいつにもね、今日と同じようにお話をする機会があったの。あいつ、赤堂さんの幼馴染みらしくってさ。普段から私のことは睨んでいたし。自慢気に彼女へのいじめの内容を教えてあげた私には、もうブチ切れていたわ。とても善良で、いい人だったの」
あなたとは違ってね。と揶揄される。言われてみれば確かに。友達の為に怒るというのは、とても健全なことなのかもしれない。俺もまだまだだな、なんてことを思う。だが、怒れないものに対して、無理矢理怒るのもなんだか違う気がする。
ただここは、一応訂正しておくか。
「俺も、怒ってはいる。感情を荒げていないだけでな」
「きゃー怖い。ねぇ、それ本気では言ってないよね」
酷く棒読みの悲鳴を出しながら、将河辺は軽く手をぱちんと合わせる。俺が黙っていると、まあいいわっと話しを続けた。
「だからね。私、どうしてもその関係を壊したくなっちゃって。色々したの。そのうちの一つかな。私が揶揄って、國火下に赤堂のトイレのゴミを渡したの」
「トイレのゴミ?」
手洗い場においてある使い捨てのペーパータオルのことだろうか。そんなものを渡すことが何の嫌がらせになるのかなんて思っていると。
「あんたって性欲ないの?」
と聞かれた。
「どうしてそんな話しになる」
「ゴミってあれよ。生理用品よ。まさかとは思うけど、ペーパータオルだとか思ってないわよね」
「思ってない」
「あんたって、本当はただの馬鹿だったりする?」
そうだと言ってしまえば、興味を失って貰えるだろうか。
「まあいいわ。で、それを赤堂にも教えたの。さっき國火下くんにあんたのトイレのゴミを渡したよって。そしたら凄く怒ってさ。でも、足は可愛く震えていたの。盗撮もされたと思ったのかな。とにかく、もう最高!強がってんだか、怖いんだか分かんない顔してた。最後には私があいつと2人で会っていたことが気に掛かったみたいでね、彼に何かしていないかって詰め寄られたの。自分のことより相手のことを思うあいつらしい正義の怒りだったわ。だから曖昧な返事でどうだろうね。って笑いながら返したら勢いよく飛び出して行っちゃったの」
俺は結局、トイレのゴミの意味が分からないまま話しを聞く。相手も俺が理解していないことを分かっているようだったが、無視して話しを進めていた。
「そしたらだうなったと思う?」
遠くから、心底面白そうにニヤける将河辺。
「急いだ赤堂さんが、階段かどこかで足を滑らせて怪我でもしたのか」
もしくは、酷いいじめ加害によって、赤堂さんが辿り着いた教室かどこかで、國火下が意識を失っていたのだろう。
「違うわ。そんなの、全然面白くないじゃない」
くすりと、将河辺は嫌な笑みを浮かべる。
「そいつ、赤堂の生理用品を顔面に貼り付けて、せこせこと腰を振っていたの。捨てる前に、魔が差しちゃったんだろうね。あ、ちゃんと盗撮写真も見てたよ」
けらけらと将河辺が笑う。俺はここで、やっとトイレのゴミの意味を理解した。
「そしたら赤堂はその場で口を押さえて蹲っちゃって。滅茶苦茶にゲロを吐き出したの!もう最高!これ以上ない瞬間だったわ」
信頼が崩れ落ちたのであろう過去の出来事に歓喜し、恍惚とした表情で将河辺が空を仰ぐ。そして徐々に掌を首下へと降ろしていく。
「後から聞いた話なんだけどね、そいつ。その後に赤堂に告ったらしいわよ。その頃にはもう、心はすっかり疎遠になっちゃってたのに。馬鹿だよね」
きゃっ。とまるで恋バナでもした後かのような声で将河辺が喜ぶ。話しは終わったようで、将河辺はじっと俺の反応を観察していた。しかし、俺の表情は特に変わることはなかった。至極、どうでもいい話だったからだ。
人なんて、期待するだけ無駄だ。簡単に裏切られるものだし、簡単に離れていってしまうものである。だから、そんな話を聞いても、ふぅんそうなんだ。そっちも大変だったね。くらいの感想しか湧いて来ない。
強いて他に思うことがあるのなら、男は普通、そこまで本能的だったのかと思うくらい。
「それで。その話しと、俺が赤堂さんの友達を止めないといけない話しは、どう結び付くんだ」
そう聞くと、彼女はぐっと唇を釣り上げさせた。
「こんな話しを聞いても、あなたは私に殺意が湧かないのね」
その國火下というやつなら、殺意が湧いたのだろうか。
「そいつが勝手にやってただけで、お前はきっかけを与えたに過ぎないからな」
「本当、そこが傑作よね。そこまで雰囲気を作り上げるのも大変だったんだよ?あいつの性欲を引き出させたりして。まあ、上手くいかなかったら無理やりやらせてたけどね」
ニコニコと将河辺が笑みを浮かべる。あくまでも、自分の計画の範疇だったとでも言うように。
でも、だとしても殺意など湧いて来ない。國火下を暴行して無理矢理やらせていたとしても同じだ。赤堂さんに直接危害を加えている話をされたとしても、それは変わらないだろう。
「そうだ!今日はね、あいつの体操服を捨ててやったわ」
パチンと手を叩いて、思い出したかのように将河辺はいう。
「ゴミにまみれて汚かったわ。そしたらまた、あんたの体操服を使っていたわ」
ああそうか。だから、昨日貸した体操服は帰って来なかったのか。赤堂さんが、再度使ったから。
「流石にまだ低レベルなことしか出来ないけどね。でも、今もまだいじめられていることを聞いても、あなたは嫌な顔一つしないんだね」
将河辺は興味深そうに俺をみる。
たしかに、どうにかしてやりたいとは思うけれど。だからなんだという話でもある。現状の立場において、将河辺さんが上にたっているのは間違いないのだろう。だが、それは今は彼女が勝者であるという事実でしかない。
弱者がやるべきことは、何故負けたのかの反省であって、相手を恨んだり怒ったりすることではない。恨むくらいなら、やり返してやればいい。先生でも頼ってな。
この世は、勝つことが全てである。どんな手段でもいい。嫌なら、相手を駆除すればいいだけなのだ。その方が、もっとずっと面白い。
実際、1年前の俺はそうした。
俺も昔、恨まれ、妬まれた。いじめとは違うけれど、部活動のレギュラー争いや試合結果の中で、上に立った俺は嫌悪された。友情という輪の中にいない俺は、誰に迎えられることもなく、ただ嫌われた。その時に思ったことでもある。悔しければやり返してみろと。恨むだけ、憎むだけに大した意味はないと。
「私に、怒らないの?」
そんな感情よりも、どうしたら一矢報いることが出来るかの方に興味がある。
「怒はないな」
「ふーん。変な人」
将河辺の瞳の中に、好奇の色が浮かぶ。
「そういう人は、嫌いなんじゃないのか」
無反応の人、壊れた人は嫌いだと彼女は自分で言っていた。
それなのに、どうしてそんな笑顔を見せるのか。
「うん。そうだね。でも、あんたの無表情は、とーっても、崩したい♡」