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第2話 被告人?となった二人

「それで、お前達が放送設備の鍵を盗んだのか」

 生徒会室に呼び出された俺と赤堂さんは、どうしてか被告人質問を受けていた。生徒会室では、コの字型に机が並べられていて、奥の席に生徒会長が鎮座している。他の生徒会のメンバーもずらりと並んで座っている様子を見ると、壮観だなと思う。

 現生徒会は、2年生と3年生だけで構成されており、俺が知っている顔はこの中には誰一人として存在しない。

 会長は女性で、半ば義務的に質問をしているようだった。その態度から見ても、やる気がないことは明白だった。だったらどうしてこんなことをしているのだろうと思う。会長の隣にいる副会長の男は何故か席を立っており、綺麗に背筋を伸ばしていた。四角い眼鏡を掛けており、如何にも頭が良さそうな感じの人だ。副会長の顔を静観していて気が付いたのだが、俺は今朝この男を見ている。

 これは、気まずいことになりそうだ。なんて思う。

 机の上では一人がノートにメモを取っており、それとは別に席を立って白板に板書をしている人がいた。この人達の役職は書記なのだろう。

 俺は会長や副会長の名前を知らないので、せめて自己紹介くらいはして欲しいなと思っていると、隣の赤堂さんが口を開いた。

「えっと、どういうことですか」

 生徒会長は酷く退屈そうな目で赤堂さんを見る。彼女は目を細めると、溜息をついた。

「違うな。こいつらは、鍵が無くなったことすら知らない。なあ、船坂(ふなさか)。本当にお前は、こいつらが犯人だと思うのか」

 まだ会って間もないのにそんなことを思うとは。直感というやつなのだろうか。

 会長が副会長に目を向けると、船坂と呼ばれたその人はくいっと眼鏡を動かした。

「ええ、会長。私には、彼らに嫌疑を掛けるだけの理由がある。それは、会長も聞いて納得されたことではないですか。それに、彼らがとぼけている可能性だってあります」

「まあ、それはそうだが」

 心底うんざりとした様子で、会長は副会長から目を逸らす。そして俺達を見ると。

「すまんが、こいつに付き合ってやってくれ。船坂、彼らに説明を」

 そう言って、会長は手の平をひらひらと動かした。妙な言い方をするなと思うと、会長がじっと此方に視線を飛ばす。なんだと思いながらも、俺は会長から視線を逸らした。

 自信とやる気に満ちた副会長に、全くやる気のない生徒会長。一つ分かるのは、何やら面倒そうなことにまた巻き込まれたな、ということだけ。隣の赤堂さんの方を見てみると、状況が全く分からずに困惑していた。こういう時は目を輝かせているものとばかり思っていたので、少し不思議な気持ちだ。


「お前達は、もう知っていることだと思うが」

 そんな、俺達が犯人であることが前提の語り出しで副会長の話しは始まった。


「昨日、放送室の放送設備に使われている鍵が盗まれた。」

 放送設備の鍵?と首を傾げた赤堂さんに副会長は説明する。

「放送室にあるマイクの付いた机があるだろ。あの机の下にはガラス貼りの扉が付随されていてな、電源などのスイッチが付いた機材がしまわれてあるやつだ」

 ふむ。勉強机だと、机下にある三段くらいの引き出しがあるあれみたなものか。同場所にあるという電源機材がしまわれているものに扉が付いている理由は、おそらく生徒が不用意にメインコンピュータを弄ることがないようにか。

「昨日、そのガラス扉を開けるための鍵が盗まれた。しかも、電源のスイッチを切った状態でだ」

 なるほど、その犯人が俺達であるといいたいのか。でもどうして、俺達なのだろうか。そんなことを考えていると、隣の赤堂さんが口を開けた。

「そんなの、放送部の部員が間違って持って帰ってしまったとかじゃないんですか?昨日、その放送設備の電源切った後に間違って持って帰ったとか」

「ウチの放送部では、あのガラス扉を開くことは許可されていない。電源も付けっぱなしで帰らせているそうだ。これについては、放送部の顧問に実際に聞いて確認を取っている。間違いはないだろう」

 ふーん。そうなんだと思う。ところで、放送部の部員は既に無実が証明された後なのだろうか。そうだとしても、彼らが意図的に電源を切って鍵を持ち帰った可能性だってあるだろうに。この状況であれば、一番怪しいのはやはり放送部だ。

「でも、だからと言ってどうして私達がそれを盗んだことになるんですか」

 赤堂さんが不満気な顔をしている。まあ、それはそうだろう。俺達は放送部でなければ、放送室に用があるような人間とも違う。その盗まれたという鍵と接点があるような人間ではないのだ。鍵を盗む理由もない。勿論、実際俺達は犯人ではないのだから、これは完全な冤罪である。

 しかし、その言葉を待っていましたとばかりに、嬉しそうに副会長の口角は緩んだ。

 それを見て俺は、この人が検察か。いや、弁護士?なんて悠長なことを考えていた。


「君達は昨日、放課後の校内を動き回っていたようではないか。放課後に部活動があるわけでも、教室に残って自主勉強などをしていた訳でもない。そんな君達が、どうしてまだ放課後の校内に残っていたのか」

 その理由はずばり、放送設備の鍵を盗むためだ。とでも言いたいのだろうか。流石にそれは早計過ぎないかとは思うが、容疑者に入れられる理由にはなるような気がした。

 容疑者の候補となるのは、察するに昨日の放課後、鍵を盗めた可能性がある者。既に帰宅していた生徒や、部活動でその場所から動けないような生徒は含まれない。例えば、水泳部が部活動を途中で抜け出して水着のまま校舎をうろつくことはない。みたいな。まあ、うちに水泳部はないのだが。

 だが、それだけで容疑者を絞り混むのは難しいだろう。そもそも、誰がいつ帰ったかの確実的な証明など出来るはずもない。全校生徒に話しを聞いて回ったにしては、昨日の今日では早過ぎるし。それは、自転車置き場の監視カメラを見ているにしてもそうだ。カメラを入念にチェックするにしては、まだ午前の授業が終わった程度の時間しか経っていない。それらを駆使して犯人を絞ったにしては、流石に時間が早過ぎるのではないか。そもそも、生徒会に校内の監視カメラを見せて貰う権限はあるのか。

 色々と疑問点は残るが、犯行推定時刻に目的が分からない人物が怪しい行動を取っていたのなら、疑いたくはなるだろう。俺達はみごとに、その怪しい行動を取っていた人物なわけだ。

 だが、俺達は鍵を盗んでなどいない。昨日校舎内を動き回っていたのは、赤堂さんが受け取った“挑戦状”の謎を解くためのもの。やっていたことも、校内中の石鹸を確認していたに過ぎない。


「君達が昨日、阿波踊り同好会の部室に勝手に入っているところを見たという証言がある。調べてみたところ、君達は阿波踊り同好会には所属していないみたいではないか。どうして君達は、そんなところに居たんだ」

 ああ、それもあったか。

 でもなるほど。そういうことか。昨日の放課後、部員でもないのに部室に出入りしている人間がいた。そしてその人間は、なぜか校内中を歩き回っていたという。それなら、放送部にも出入りしていたのではないか。他の部活から窃盗の被害報告が出ていないのは、入ったのは放送部だけではないと言うためのブラフか、まだ判明していないだけか。たぶん、そういう考えなのだろう。

「ち、違います。確かに私達は昨日、校内中を歩き回っていたし、阿波踊り同好会の部室にも入りました。でも放送部には入ってません」

「俺は、どうして阿波踊り同好会の部室に勝手に出入りして居たのかと聞いている」

 高圧的な副会長に、赤堂さんが少し怯む。彼女はちらりと俺を見ると、何を思ったのか安心したように軽く笑みを浮かべて心臓を抑える。そして、小さく深呼吸をした。覚悟を決めた目に変わる。

「私達は昨日、ある挑戦状に書かれた謎を解いていました。校内を歩き回っていたのは、そのためです」

 赤堂さんは、副会長からの質問に胸を張って素直に答える。彼女も、どうして自分達が疑われているのかを理解したようだった。そして、彼女は昨日あったことをざっくりと説明する。

 生徒会の面々は、赤堂さんの話しを静かに聞いてくれていた。その様子を見るに、放課後に俺達を見たというのは彼らの誰かが言ったことではないようだ。そうでなければ、何か反論や、それっぽい素振りがあったのかどうかと、この場にいる証言者に確認を取るのではないかと思うからだ。

 そんな様子を見ながら、俺は自分がここに来てからまだ一度も喋ってないな、なんてことを考える。赤堂さんに任せっぱなしだ。これは、友達としては不味いのではないだろうかと、そんな焦燥感に駆られた。

「ほう。では、その挑戦状とやらを見せて貰えないだろうか」

 赤堂さんの話しが終わったとき、副会長はそう切り出した。今の話しが嘘ではないかの確認をするためだ。これで嫌疑が晴れる訳ではないが、不審な行動の理由付けくらいにはなるだろう。何も鍵を盗むために学校に残っていたわけではないという証明だ。そう思っていたが、隣の赤堂さんは一向にその挑戦状を出す様子はなかった。

「どうした、教室にでも置いているのか」

 副会長がそう聞くと

「昨日、破っちゃいました。揶揄われたことに、ムカついて」

 悪いことをして叱られる子どもが白状するように、赤堂さんは肩を落しながら言う。あの挑戦状を、“揶揄う目的で作られたもの”と答えを偽装したのは俺である。それ故に、怒って紙を破ったと言われると、自分がやったことは無駄なことだったのではないかと、少し考えるものがあった。

「でも、尾緒神が持ってます。“あばずれ”って書かれた紙を」

 赤堂さんが強い眼差しで此方をみる。お前は持っているよなっという希望的な視線だ。

「悪い、もういらないと思って捨ててしまった」

 もうあの紙に利用価値はなかったし、見るのも不快なのだから捨てた。それは正当性のある誤魔化しだろう。

 赤堂さんは、嘘だろとでも言いたげな顔をする。俺はそれも黙殺した。

 今この瞬間、俺達が昨日どうして校内中を彷徨っていたのかを説明できる物的証拠はない。仮に赤堂さんが昨日“宝”として手にした本を持っていたとして、今偶々持っていた本に適当な理由付けをしただけではないかと言われてしまえば証拠として成立しない。

 挑戦状や、あばずれの紙は、偶々持っているようなものではないが故に証拠として提示できたものに過ぎないのだ。


「そうか。では、お前達の発言が嘘である可能性も視野に入れなければならないな」

 副会長は、念を押すようにそんなことを言った。

「信じて、くれないのですか」

「信じるさ、証拠があればな」

 そう副会長が言葉にしたところで、俺はやっと口を開くことにする。

「すみません、副会長。犯行推定時刻を教えて貰うことはできますか。ざっくりとしたものでいいですから」

 俺には一つ、案があった。それは、昨日俺達がゲーセンに行っていることだ。高校一年生で、まだ16歳になっていない俺達は、風営法によって18:00以降は未成年のみでの滞在ができない。そして、学校の部活動が終了する時刻が19:00なのである。つまり、犯行が放送部員が誰もいなくなってからの時刻、部活動終了後に行われたものであるのなら、昨日ゲームセンターで赤堂さんに撮らされた一緒に写った写真がアリバイになる。犯行予定時刻には、既に学校を出ていたと言えるのだ。一度学校を出て後から犯行のために帰って来たのではないかと疑われるのなら、俺達が学校に戻って来ていないか監視カメラで確認をすればいい。それくらいであれば、時間もそうかからないのではないだろうか。


 そう思っていると、副会長は嘲笑するように軽く笑う。

「昨日は、放送部での活動は休みだったらしい。つまり、犯行時刻は下校時刻後、つまりは16:20以降となる。どうした、アリバイでもあるのか」

「いいえ、教えて頂き、ありがとうございます」

 これで、放送部が容疑者に数えられていない理由がなんとなく分かった。彼らはその頃には既に下校していた可能性が高いのだ。

「他に聞きたいことはないか。ないなら、俺の説明を続けさせて貰う」

 副会長がカチャリと眼鏡の位置を直す。そうだな

「昨日、俺達を見たっていう人は誰ですか」

「どうしてそんなことが気になるんだ。まさか、我々が証言を作り上げたものだとでも?」

「いいえ、俺達が実際にその時間に学校にいたのは間違いありません。それは赤堂さんが説明した通りのことです」

 俺達は、挑戦状を解くために放課後の学校にいた。

「では、どうして誰が言ったかなんて気にする」

「それは」

「一年二組の将河辺(まさかべ)だ」

 俺が続きを言う前に生徒会長が間に入って答える。それに驚いたのは副会長であった。

「会長?どうして」

「今の答弁に対した意味はない。私は早く終わって欲しいんだ。余計な引き延ばしはごめんでな。尾緒神、お前の聞きたいことはこれで終わりか」

「ええ。大丈夫です」

 赤堂さんは、出て来た名前にピクリと反応していた。俺としても、“お前を殺す”なんて殺害予告めいた紙のことを思い出して嫌な気分である。そんな言葉を赤堂さんに贈ろうとしていたかもしれないやつが、俺らが冤罪で問い詰められているこの件の証人として名前が出て来るのには、あまりいい気はしない。


「では、俺の説明を続けさせて貰う。赤堂さん、君は以前NO部なるものを立ち上げようとしていたようだな」

「え、は、はい。そうですけど」

「その活動内容は、『なんか面白いことをしよう』そうだな」

 はい、と赤堂さんは頷く。

「そしてその具体的な内容はグラウンドに石灰で絵を書いたり、校庭で花火を打ち上げたりすることだと説明していたようだな」

 なんだそれ。そんな話し、聞いたことがないぞ。そう思うも、赤堂さんは否定しない。どういうことだと思っていると、副会長は証拠にと部を新設する時に書く部活動登録申請書のコピーを見せてきた。

 部活動を新設したことなどなかったので知らなかったことだが、そんな書類があったのか。


「これは、我々が一度棄却したものだ。この後、活動内容を虫取りや探検に変更されたものを提出されたわけだが。君は、本当はこの最初に書いた通りのことをやりたかったんじゃないのか」

 赤堂さんは否定しない。

「これらの行為は、学校側にとっては迷惑な話である。そしてそれは、この件においてもそうだ。つまりお前達は、『なんか面白いこと』をしたくて学校の備品を盗んだんじゃないのか」

 それが、副会長の考える俺達が鍵を盗む動機という訳か。なるほど、疑われている理由は分かった。犯行時間に不審な動きをしていた二人組、そしてあり得そうな動機。

 赤堂さんは、今も部活動勧誘をしているわけではない。なぜか、俺と出会った時にそれをぴったりと止めてしまっている。であれば、彼女がやりたかったことは俺といることで既に達成されているのではないか。そしてその行為は、今も続いているのではないか。

 初めは小さな面白いことをしていて、それが段々とエスカレートしてきてしまった。そして遂に、鍵を盗む行為にまで及んだ。そんな風に考えていそうだ。


“尾緒神くんです。僕は、尾緒神くんがやっているところを見ました”

 不意に、小学生の頃の出来事を思い出した。誰かに何かの罪を着せられるのは、これで何度目だろうか。こういうのには馴れている。反抗しても無駄だ。この世は、民主主義なのである。友達が多い方の意見が、正しい。ひとりぼっちの意見を、先生は聞いてはくれない。みんなはそう言っているよ、なんて言われて潰される。

 こういう時は、謝るのが一番だ。そしたらその時間は早く終わって、後は時間がなんとかしてくれる。抵抗するだけ無駄である。

 ぐっと袖を握られる。少し驚いたが、そちらの方をみると赤堂さんが決意の籠もった目をしていた。俺は察する。謝るなんて選択肢は、とってくれそうにないなと。


「違います。私達ではありません」

「その証拠は」

「証拠はありません。でも、必要なら私達がその犯人を見つけます」

 勇ましく赤堂さんは宣言する。俺は心の中で、彼女の言葉に“だってなんだか面白そうですし”と付け加えた。


 まあ、今はもう一人でもないのだ。友達の期待に応えることも、必要なことではないだろうか。

 俺は、そっと覚悟を決めた。

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