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尾緒神くんと被せられた罪  作者: 十六夜 つくし
後編+(蛇足編)
19/20

第18話 乱雲

 そうか。疑ってすまなかった。少し、1人にさせてくれ。

 そう会長に言われて、俺は生徒会室を出た。夏という季節のせいか、外はまだ暗くならない。夕焼けにはまだ遠く、しかして昼時ほど明るくもない微妙な時間。

 そこで俺は、自分の携帯を取り出す。監視カメラ。放送室での教師の対応は、俺のものと似ていた。俺にはある頼み事がった。それは一昨日のこと。同じ中学の逢坂に頼んだことだ。

「尾緒神、将河辺さんとのこと。私にも、何か出来ることはないかな」

 そんなことを言ってくれた彼女に、俺はスマホを貸してくれないかとお願いした。

 盗撮者がいるかもしれないと警戒されることは予期していた。しかし、部屋の中の盗撮カメラにまで注意は促せないだろう。何故なら、会長はあの時間帯に副会長と鉢合わせる訳にはいかなかったから。

 そして当の副会長は、鍵を俺に仕込むことで頭が埋まってしまっていた。わざわざ作戦を立てて、自分のことを好きかもしれない人をロッカーに待機させるようなことをした。今日で終わらせなければいけないという焦りもあっただろう。副会長は、事件を曖昧にされると困るのだから。

 スマホは、本棚のスライド式スライドガラスの奥に隠した。細工した辞書カバーの中から、バッチリと今朝の状況を映し撮っていた。俺のスマホ用に多少改良したスマホ用シャッターリモコンを使って、遠隔で起動し、動画を撮影した。だから、今朝俺が持っていたスマホは逢坂のものである。勿論、この件についての映像、音声は彼女のスマホには残らないようにしてある。

 結局、この件での将河辺は、本当にただ情報提供をしただけに過ぎなかったみたいだから、逢坂に頼っても良かったのかと少しだけ罪悪感はある。しかし、それも今は解消している。どういう訳か、播元とやった1on1のバスケ勝負を観戦させてくれれば、それで構わないと言ってくれたのである。


 スマホの中には、副会長が俺を嵌めて暴力沙汰の事件を起した事実が記録されている。ついでに、冤罪を吹っかけようとした証拠もだ。会長の言う通り、俺はあのままいくのなら、この映像を使おうと思っていた。

 そうすることで、副会長がどんな罰を受けたのかなど知ったことではない。


 初めに噛みついて来たのはそっちだ。このくらいの清算は受けて貰わないと。

 俺も、悪いことをしてしまったのならまだ分かる。でも、今回は何もしていない。何も悪いことをしていないのに攻められて、そのままで終わらせるなんて、そんなこと――。


 どうせいつものことだ。何が起きたって、どうせ最後には全部俺が悪かったことになる。そうだ。どうせ俺が悪くなるのだから、どこまでやったところで同じである。であるならば、やった方が得だ。とことんまでやって、それで裁かれるのなら、何もしないで裁かれるよりもまだ納得が出来る。


 知らず。薄ら笑いが浮かんでいた。

 それにしても、随分と浅いところで注意をするものだ。

 動画のことなんて、ただの前座に過ぎないのに。注意をしなかった以上、本命の方はやり遂げてしまってもいいのだろうか。


 違う。そうじゃないだろ。

 深呼吸をする。心が乱れそうだ。暗い俺が、表に出て暴れてしまいそうだった。

 そんなことをしても、何にもならないというのに。

 いいや、それは違うか。少なくとも、俺はすっきりする。すっきり、してしまうのだ。


 嫌な自分を振り切るために、暗い自分の思考をしないために、俺は別のことを考えることにした。


 しかし、勉強のことを考えられる頭でもなく、俺は自然とあの“紙”のことについて考え出す。無数の可能性のあるあれのことならば、答えが出ることもなく考え続けることが出来るだろうから。考えても意味のないことなら、いつかばかばかしくなって気が紛れる筈だ。考えても意味がないんだぞと、実感出来る筈だ。


 気になることがあった。雑に書かれた字であるのにも関わらず、俺は一枚目の『あばずれ』の紙と、三枚目の『お前が解くな』と書かれた字が似ていると感じていた。


 この夏に俺に起きた事件。『存在しない友達関係』『挑戦状の謎』『放送設備の鍵の件』。突飛な話ではあるのだが、もしこれらのことに関係していることがあるとするのならどうだろう。そんなものはある筈がない。

 でも、これは意味のないことを考えるものだ。さあ、馬鹿げた答えを出してやろう。


 職員室、図書室、屋上、放課後の校内、食堂、その横の自販機、阿波踊り同好会、放送室。教室以外で俺が行ったところはそんなところだろうか。考えてみると、どれも同じ場所で事件が起きている訳ではない。

 『存在しない友達関係』は篠崎先生、『挑戦状の謎』は将河辺、『放送設備の鍵の件』は生徒会。相手にした人物ですら統一されていないし、彼らの動機に繋がりなんてない。それぞれの事件が別個なものである。

 ほら、やっぱり。考えるだけ無駄なことである。関連性のないものに、関連性を見出そうとしても無意味で、とても空虚だ。


 不意に、気になり出したことがある。

『放送設備の鍵事件』だ。俺達が放課後に校内を歩き回っていたと証言した人物は、本当に将河辺さんなのだろうか。生徒会に、自分がいじめている相手に目を向けさせるようなことを、あの少女がするのだろうか。

 仮にそうだとして、他の証言者がいた可能性を捨ててもいいものだろうか。


 気になることがあった。

『挑戦状の謎』で自分が考えていたことを思い出した。

 あんな悪口を宝物として隠しておいて、それを見た被害者が狼狽する姿を確認しないことがあるのだろうか。というものだ。結果的に、将河辺はそれを確認していなかった。そうだ。彼女は、現場にいなかったのだ。昨日、初めて将河辺にあった時、彼女は挑戦状の件については赤堂さんから聞いたことによって知っているようだった。あの日は俺も警戒をしていたが、此方を伺う邪悪な視線を、感じることはなかった。


 では何故、放送設備の鍵で疑いを掛けられた時、証言者は俺達が校内を歩き回っているところ、阿波踊り同好会に入ったところを()()といったのか。単に、将河辺がそう言い換えただけなのかも知れない。知っている情報を、見て来たように言っただけなのかもしれない。

 引っかかる。

「君達は昨日、放課後の校内を動き回っていたようではないか。放課後に部活動があるわけでも、教室に残って自主勉強などをしていた訳でもない。そんな君達が、どうしてまだ放課後の校内に残っていたのか」

 教室に残って、自主勉強などをしていた訳でもない。この言葉は、俺達があの日の放課後に教室で活動していないことを示しているように思える。つまり、俺達があの日、教室に残ってはいないと知っているような発言だ。

 挑戦状を渡した将河辺が、あれを考える時間に教室を使わないと、そう思うだろうか。謎を考える為に、教室を使わないと、確信を持って言えるだろうか。


 もし仮に、『あばずれ』の紙を出したのが将河辺ではなく、あの日に俺達の姿を目撃していた生徒だとするのなら。それは、どんな奴だろうか。


 『存在しない友達関係』の近くで知って、『挑戦状の謎』で観察した。『放送設備の鍵事件』では、敢えて濡れ衣の片棒をかつぐように近づいた。そんな人物がいるとするのなら。


 突飛な妄想は、突飛な結論を出してしまう。


 そうだ。あるじゃないか。職員室が見えて、食堂横の自販機が見えて、放送室も見える場所。校内の様子がよく見える場所が、一カ所。あるじゃないか。


 そこにいるだろう彼女にあった時、こんな変な謎をふっかけられた。『この学校にある隠された遺産』についての謎だ。

 ここで俺は、四枚目の紙のことを思い出す。分かっている。これは全てただの妄想だ。そんなことはある筈がない。でもだ。もし仮に。仮にあの四枚目の紙が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()であったとするのなら。

 被害者の残した()()を遺産なんていう風に言い換えていたのなら。


 あの紙が、『この学校に隠された遺産(じょうほう)』なのだとするのなら。


 その少女は、自分の元に訪れた人間に、変な謎掛けをするらしい。それが、その謎を解ける人間を探しての行為だとするのなら。


 俺は、そんなことはないと思いながら、ゆっくりと窓の外へと顔を上げる。

 校舎は一号館、二号館、三号館とあるものの、特殊な形をしていて職員室と三号館の間には中庭があって二号館がない。加えて、そこからは『職員室』と隣接する『放送室』が見える。中庭を見下ろせば『紙があった食堂横の自動販売機』だって見えてしまうだろう。


 三号館。その屋上にいる少女と、偶然か目が会った。


『放課後の屋上少女』だ。


 色素を失った白い髪に相反するような、真っ黒な瞳が俺の心を覗いて来ている。初めてあの屋上であった時、赤堂さんとあの屋上で彼女にあった時は感じなかった圧。死んだような目、何事にも興味を示さず、ただ惰性で生きてしまっているようにしか見えなかった目が、今はその闇を開いている。

 ぐるぐると渦巻く黒い瞳孔から沸き立つ執念の気配は、決して俺を逃さまいとしているようだった。

 赤堂さんがやったような、現実を否定し、閉じこもるような黒い目ではない。絶望の淵で、狂気の扉を開き掛けている目だ。心臓が大きく飛び跳ねた。俺にもある()()が、彼女に共鳴するように表に出たがっている。

 汗が沸き上がり、俺は静かに拳を握りしめた。


 こんなことを言うのは酷く厨二病っぽいが。それでも俺は、その時、確かに深淵が此方を覗いているのだと思わされてしまった。


 女は、俺と目が合うと嬉しそうに口角を上げ。そして


 み つ け た


 なんて、俺に分かるように口を動かしてみせたのだった。

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