第15話 知っていた人
「犯人は君だね、尾緒神くん」
時間は、昨日の掃除の時間終わりにまで遡る。
挑戦状の時には赤堂さんがいたところに、今日は生徒会長が居座っていた。
掃除中の空気は最悪だった。どうして生徒会長が?と、いつもの緩い空気が消える。教室内では、てきぱきと普段以上のクオリティの掃除が行われていた。不真面目だと注意されると面倒だからだ。うちの生徒会長は、そういうことには厳しいらしい。田池がそう言っていた。
俺としては、微かな怒りが降り積もっていた。
昨日、この時間の俺は、眠気やしんどさに限界を迎えようとしていた。熱は悪化してきており、手でおでこを触ると、やけどしそうなほどであった。
いい加減、表情を抑えて我慢するのも難しかった頃合い。
そういう時に、無理にでも集中しなければいけない状況を作られることは、至極迷惑な話であった。
それが誰であってもだ。俺は、知らず会長を睨んでしまっていた。
そうして地獄のような掃除の時間が終わったらこれだ。
案の定、俺に要件があった生徒会長は、俺に近づいて来るなり開口一番にそう言い放って来た。楽観的な笑顔で、気楽に俺を犯人だと決めつけて来たのだ。予想していたことではあったが、だからといって許せるものでもなかった。
いいや、最近の俺ならきっと無視できたことのはずだ。でも、このときばかりはどうしても許せなかった。体調が限界に近く、きっと心が荒れてしまっていたのだろう。
不機嫌だった俺は、目に影を落としながら不適に笑う。
「その演技、辞めて貰っていいですか。腹が立ちます」
苛立ちを含んだ顔の俺に、会長は嫌な顔を返した。それはそうだ。会長にしてはなんでもない会話に過ぎないのだから。でも、その発言で罪人扱いをされる俺にとっては違う。
「演技?なんのことだ」
少しムカッとした表情をしながら、会長は俺を見る。
俺はそれに、軽く笑ってみせた。
「くさいんですよ、あんたの演技。本当は全部知っているんでしょう。どうして、そんな何も知らない素振りをするのですか。」
会長は少し、困ったような顔をした。その演技ですら鼻に触る。どうしてそんな気持ちの悪い表情を貼り付けているのか。どうして、脳天気な探偵役を演じるのか。
「尾緒神くん、なにか根拠でもあるのかな」
「さあ、どうですかね。ただ、あんたが俺に害を与えようとしていることだけは分かります。その茶番に、俺を巻き込まないでください」
「つまり、根拠はないと」
そんな、とぼけた返答をされるので、俺は更に言葉を重ねてみることにする。
「会長、あなたは俺を利用しようとしていますね」
はっきりと、そう言い切った。
「それも君の〝勘〟なのかな。尾緒神くん」
会長は顎に手を当てながら俺をみる。そんな被害妄想には、何度も付き合って来たとでもいいたげな顔だ。実際、そんなこともあるのだろう。生徒会長だし。
「つまり君は、当てずっぽうで私に“気持ちの悪い演技をしている”なんて言っていると。悪いが、それは私に対して失礼だとは思わないのかな。狂犬くん」
明確な根拠を使わずに会長に噛みついた俺は、そんなあだ名で呼ばれた。
「それなら会長達は、何か明確な証拠があって俺を犯人だと言っているんですか」
そう言い返してみる。すると会長は納得するような顔をする。
「それは、たしかに。そう言われてみれば、私の方が先に失礼なことをしてしまっていたかな」
「自分が犯人でもないのに、周りから俺が犯人だと決めつける視線ばかりを向けられれば、苛立ちもします。俺がそうする前に、会長は既に俺に同じことをしていたんですよ」
前髪の影から、会長を睨む。生徒会も、赤堂さんも、誰も俺が鍵を持っていないとは思っていない。俺は、本当に放送設備の鍵なんて持っていないのに。
「そうか。それは悪いことをした。たしかに、私が君を犯人だと思う理由は、ただの好奇心だ。昼休みの生徒会室のやり取りで、君が怪しいと思ったからに過ぎない」
そうして会長は、面白いものでも見るような目で俺を見た。
「久し振りだよ、こうして噛みつかれたのは。生徒会長なんてやっているからね。なったばかりの頃は厄介事も多かったけど、最近は皆、私を畏怖か尊敬の念くらいでしか見てこなくなってしまった」
よく知らないが、この人はよっぽど優秀な生徒なのだろうか。
「噛みつかれた?馬鹿なことを言わないでください。先に噛みついて来たのは、あなたの方でしょう?」
会長が来なければ、俺はこんなことはしていない。俺は声を少し荒げて言葉を続ける。
「ああ。もういいです。分かりました。だったらもう遠慮はしません。担当直入に言います」
俺は基本、自分から噛みついたりはしない。けれど
「貴方ですね。今、放送設備の鍵を持っているのは」
噛みつかれたのならば、噛みつき返す。
「ふふ。君は面白いね。自分が犯人扱いをされたからって、言い出しっぺに同じ言葉を返すなんて。とても稚拙な行為だ。なら私が聞こう。君が私を犯人だと思う根拠は何かな」
「勘、です」
「ははは。君も分かってはいるのだろう。そんなものでは、誰も納得しないと」
俺は、黙って生徒会長を見る。早くここから抜け出して、家に帰りたかった。今ならまだ許す。ここで引き返すのなら、俺は何も言わない。そんなことを考えながら、近づくなと目で訴える。だがそれを、会長は気にも止めなかった。
絶対の自信が、そこに見える。
彼女が引かないことを認識して、俺は目をゆっくりと伏せた。軽く、心の平穏を望む。
「誰かに納得をして貰う必要はないですから。そんな期待を、俺はもうしていません」
そんなことは、やるだけ無駄である。赤堂さんですら、今は話を聞いてくれそうにない。違うと言っても、俺が鍵を持っていると思い込んで譲らない。気にならないように努めてはいるが、虫の居所はそれほどよくない。
そんな俺の表情を、会長が目を細めて見る。まるで、手なずけ方でも探るように。
「尾緒神、対話をすることは大事だよ」
俺が黙っていると、会長が俺の肩に手を置いて来た。
「何か悩みがあるのなら、私が聞いてやろう。なに、生徒一人一人にとってのよりよい学校生活を作るのが生徒会の役目だ。そういうことは」
「いいえ、必要ありません」
俺は、足を引いて肩に付いた会長の手から逃れる。
「そうか。それは少し残念だ。まあ、話したくなったらいつでも頼ってくれ」
俺が嫌いな笑顔を浮かべる生徒会長に、嫌悪感を隠せない。
「このまま君と話しをしていると、私は嫌われていく一方なのかもしれないな」
「そうかもですね」
「正直に言ってくれるね。でも、それは私としては本望ではない。だから、本題に入らせて貰いたいのだけど、いいかな」
「ええ、構いません」
じろりと会長へと目を向ける。元より、俺はそれを望んでいる。
「では、放送設備の鍵がなくなった件について、私の質問に答えてくれないかな」
「それで俺への疑いが晴れるのなら、別に構いませんよ」
「そうか。では聞かせて貰う。君は、今日の二時間目の授業で教室を出ていたね」
「はい。出ました」
「では、赤堂さんがあの場で言った鍵が盗まれた可能性がある時間。二時間目の体育の時間に、君は1年2組の教室に侵入出来たわけだ」
生徒会室で、赤堂さんは確かにそんなことを言っていた。
「聞こえていたのですか」
「耳は良い方でね。それでこちらでも確認を取ってみたのだが、面白いことに君は今日、全部の授業で教室を出ていたみたいじゃないか。保健室の先生が、君のことを心配していたよ」
赤堂さんの為に用意していたブラフ、それに生徒会長が掛かるとは。
「だが面白いことも分かった。君が保健室を訪れた時間と、教室を出ていた時間は必ずしも合致しない。二時間目の時間にしてもそうだ」
「どうしてそんなことが分かるんですか」
「君のクラスメイトと、保健室の先生に話を聞いたら分かることだよ」
そこまで調べられたのかと思う。でもたしかに、保健室の先生とクラスメイト。そのどちらにも話を聞けば自ずと分かることである。
「私の調べによると、君は二時間目の時間、授業開始直後には教室を出ている。しかし、保健室を訪れたのはその三十分後らしい」
早く用事を終わらせたかったからな。でも、そうは出来なかった。
この教室から保健室までは30分も掛からない。ここに、どうしても空白の時間が生まれてしまう。
「君はおそらく、見てしまったんじゃないか。放送設備の鍵を赤堂さんの制服に仕込む、真犯人を。だから、保健室に向かう時間が長引いた。そしてその真犯人は、うちの副会長だったんじゃないか。君が彼を見た時、妙な反応をしたのを私は見ていた。そう、どこかで会ったことがあるような気がして、軽く目を見開いて考える、君の仕草をね」
そうだ。俺はあの時間、犯人を見てしまっている。もっとも、その時は濡れ衣を着せられるとは思っていなかった。だから、実際に生徒会室で断罪されそうになるまでは、それが繋がった出来事だったとは気づいていなかった。
副会長が1年2組の教室で何かをしている間、俺は教室の外で身を潜めていたし、その手元をしっかりと見てはいなかった。
そもそも、彼が副会長かどうかすら知らなかったのだから、恋文か何かを机に入れているものだと思っていた。だとしたら、野暮なことはしないでおくのが吉。あの時の俺はそう考えた。恋の柵みに巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。
例えば、後で恋文を送った相手から何の反応もなかった時に、お前が盗んだからだ。なんて冤罪に巻き込まれないために。
でも実際は、想定していたものとは違う罪を被せられた。完全に予想外だ。
「そして、赤堂さんが罪を被らせられそうなことを知った君は、その意趣返しに副会長の自転車の鍵を放送設備の鍵と取り替えた。だから君は、あの時に自分達の持ち物を調べてもいいと言った。何故なら君は、もう証拠が赤堂さんのポケットの中には入っていないと知っていたから。どうかな」
赤堂さんも、同じような推理をしていたなと思う。でも、やっぱり違う。俺はそんなことをしていない。ならば、あの時の赤堂さんと同じ質問を会長に向ければいい。それで俺への疑惑は薄くなる。
「質問をしてもいいですか」
「ああ。構わないよ」
「それだと俺は、いつ副会長の自転車の鍵を盗んだんですか。赤堂さんは、その時間以外に自分の制服に何かをされた覚えはないと言っていました。一時間という短い時間で、副会長から俺だと悟られずに鍵を盗み、赤堂さんのポケットの盗品と入れ替えるようなことは、不可能に思えますが」
「そこだよ。私もそこだけが分からなくて、君を訪ねて来たんだ。君は一体どうやって、このすり替え事件を完遂させたのか。副会長は、今日は昼の会議で初めてお前に会ったという。その顔に覚えもなかったようだ。実際、お前達はあの会議の時間まで面と向かって会ってはいないのだろう」
会長は一呼吸を置いて俺を見た。
「私は、君が事前に冤罪を被せられることを知っていたって線が一番高いと思っている。だけど、まだその証拠はないんだ」
つまり、その証拠をここで掴みたいと。
冤罪を被せられることを知っていたから、事前に鍵を盗んでおいた、ね。確かに本当にそうならそのすり替えとやらも可能かもしれない。だが、それなら事前に冤罪の方を防ぐだろう。
「結局私も、君のことを犯人だと断定出来る状況ではないんだ。それでもここまで来てしまったのは、やっぱり好奇心でね。君がどうやって副会長の自転車の鍵を盗み、いつそれをすり替えたのか。私はそれが知りたい。出来ることなら、そのトリックを聞かせて貰いたいくらいだよ」
そう言って、肩をすくめた会長を前にして、俺はやっぱり笑みを浮かべる。
「やっぱり会長は、演技がお上手ですね」
柔らかい表情をしていた、その顔が固まる。
「まだそれを言うのかい、私はただ」
「会長、貴方は知っているんじゃないですか。そんなトリックは存在していないし、俺にその種明かしは出来ないと」
「君は何を言って」
「会長の推理には、間違いがあります」
言葉を遮ったことで、会長の表情が曇る。
「間違い?それはどこかな」
「俺が1年2組の教室にいた時間ですよ」
会長の表情が、明確に凍りついたのが分かった。その柔和な笑顔に、ひびでも入りそうだ。
「二時間目、俺は保健室になんて行ってません」
俺が毎時間教室を出た理由。それは、俺が二時間目だけに特別な行動を取っていた訳ではないとするため。それだけではない。
俺は複数回それをすることで、クラスメイトの認識から、俺が何時に教室を出て、何時に戻って来たのかをあやふやにした。たった一回のことなら、何となくで思い出せるかもしれない。ただそれが七回分あれば、俺が何時間目に何分間いなくなったのかなど、一々詳細に覚えないだろう。
それが覚えるべきものなら話は変わってくる。しかし、大抵の人間にとって、俺が何時間目に何分間教室から離れていたかなど、覚える必要のないことだ。であれば、教室を出る回数を増やすことで簡単に記憶を曖昧にすることができる。
俺には、それが必要だった。二時間目の退出時間をあやふやにしておくことで、赤堂さんの推理に微調整を加えられるほどの隙間が欲しかった。挑戦状の件で誤って渡してしまった栞を強引にでも事実を隠したまま回収出来るように。
まさかそれが、こんな形で機能してしまうとは。
五時間目、同じことをした俺は、保健室の先生にある頼みごとをした。それは、二時間目にもここに来たことにして欲しいというもの。
「丸々ですよ。俺が、二時間目に教室を出ていた時間は。つまり俺は、あの時間、あの教室に侵入した3人目の姿も目撃している」
「嘘はよせ、尾緒神。そんな筈はないんだ。私はたしかに、保健室の先生に」
「保健室の先生には、二時間目に俺が三十分後にここへ来たことにしてくださいとお願いしました。“生徒にそう聞かれた時には”という条件を付けて」
教師相手にまで同じことを頼めば、保健室の先生としての業務に支障が出るかもしれない。そうなればこの提案は断られていた可能性がある。だが、生徒相手にならば話は変わる。仕事に支障が出ないお願いなら、受け入れられやすい。こちらにも事情があることを、保健室の先生はなんとなく察してくれていた。
生徒会長とはいえ、一生徒であることには変わり無い。
加えて、クラスメイトの1人にも協力をお願いした。そうして俺は、外部の人間が話しを聞きに来たときには、偽りの時間が伝達されるように仕込んでいた。その時間を、クラス間で浸透させた。そのせいで、高身長バスケ馬鹿と明日の昼休みにバスケで1on1の試合を一回だけすることになってしまったのだが。それは必要経費だと割り切ることにした。
会長は押し黙る。
「そしてその時に見たのがあなたですよ。生徒会長」
証拠もありますと、スマホを取り出してみせる。証拠の写真が、スマホの中に入っていた。赤堂さんの制服を弄る、会長の写真だ。ここには副会長の分の写真もある。何かあった時のための写真が。
目の前の女から、表情が消える。演技が終わる。素の彼女の顔が、そこに表れた。少しだけ、気持ちが湧きたって、笑顔が溢れそうになった。
こんにちは。本当のあなた。
「会長、言いましたよね。『君は、あの時に自分達の持ち物を調べてもいいと言った。何故なら君は、もう証拠が赤堂さんのポケットの中には入っていないと知っていたから』と。それは違います。俺はあの時、ポケットの中身が違うものかどうかは知らなかった。俺があの時に知りたかったことは、3人目がこの件に関与しているかどうかです。そして案の定、鍵は違うものにすり替わっていた」
3人目の存在が関係なければ、放送設備の鍵が赤堂さんのポケットに入ってしまっていれば。その時にはその場で即刻副会長に抗議する気だった。スマホに入った副会長の写真を利用して。
だからその時に確信した。俺達は、会長と副会長との間での何かに巻き込まれているのだと。でも、正直に言えばそんなことはどうでもよかった。初めから俺に、誰かを断罪する気はない。俺達が罪を被ることにならなければ、それでよかった。
でも、その犯人は、気持ち悪い笑顔を貼り付けながら、お前が犯人だと罪を被せようとしてきた。とてもじゃないけれど、気持ちのいいことではない。
だからこれは、しょうがないことだったのだ。
「会長、俺を利用しようとするのは止めてください。気持ち悪い笑顔で、近づいて来ないでください」
会長が、いい笑顔を俺に見せた。俺に怒りがあるものの、生徒会長としての仮面が感情を抑えている。そんな笑顔。
「尾緒神。君は、どうして私がその3人目だと分かっていて、初めにそう言わなかった。幾らでも、言えるタイミングはあったはずだ」
仮面の奥で、怖い感情が俺を睨んでいる。
それを正面から受け止める。薄ら笑顔になりそうなのを、必死に抑え込んで。
「その仮面を、剥がしたかったからです」
「は」
「だって会長、初めに素直に言えば“すまなかった”の一言で終わらせてしまうでしょう。そしたら、簡単に仮面をかぶれてしまう。やあ、それはすまなかった。こっちにもこういう事情があって、てね。でも、敢えて道化の仮面を付け続かせておくことで、こうして仮面の奥を覗かせてくれる。会長、底を見せましたね」
「底って」
「会長、言いましたよね。このトリックを仕組んだ犯人は“事前に冤罪を被せられることを知っていたって線が一番高いと思っている”て。会長、貴方は、副会長が俺達に罪を被せようとしていることを知っていたんですね」
「いや、それは君が犯人だと仮定したらの話で」
俺は、それに笑顔で応える。どんな言い訳が来ても構わない。こっちは、ただじりじりと追い詰めていくだけだ。
会長は、俺が稚拙な考えをする奴だと思ってしまった。保健室の先生の言葉を信頼して、私が居た時間には保健室にいたのだから、私の姿は見ていない筈だと気を緩めてしまった。だから、警戒もせず、得意げに自分の推理を語ってしまった。
自分の中で、一番信頼のおけてしまう推論を。無自覚に言葉にして出してしまった。それが推論ではなく、ただの告白であるとも気づかずに。
亀裂が出来てしまった以上、後はぼろぼろと崩れ落ちていくだけ。俺は、そう難しいこともなく真実にまで踏み込めてしまうだろう。
やがて、会長は諦めたように溜息をつく。
引き際を判断したようだ。
「悪巧みなんて、そう上手くはいかないものだね」
悲しそうに、会長は言う。
「1つ、聞かせてくれ。君は何故、生徒会室で冤罪を被せられようとした時点で私を見たと言わなかった。君の様子を見るに、私の仮面を剥がしたくなったのは今なんだろう。私が藪を突いたから、皮を剥がそうとした。だったら君は、何故あの時には真実を口にしなかった。君には、全部分かっていたのだろう」
そんなことを言われる。俺は少しだけ驚いたような顔をして、そして、頑張って言葉を音にした。
「友達が頑張って謎解きを楽しもうとしているのに。犯人を見た。なんて野暮なネタバレは出来ないでしょう」
そんなことをすれば、それで推理は終わってしまう。何故なら、推理をする必要もなく、犯人は分かっているのだから。
「……。君を、敵に回したことが不味かったかな」
俺のことを、友達思いな人とでも思ったのか、会長はそんなことを口にした。
「そうでもないですよ」
視線を逸らしながら答える。俺は、今回の件に関しても。自分が正しい行動を取れているのかなんて分かっていない。友達として、本当にこれでいいのだろうかと、そんな悩みしか持ち合わせていない。
友達が謎を解こうとしている時、もし自分がその答えを知っていれば。どうするのが正解かなんて、俺には分からない。
もしこれが、殺人などの事件なら話は変わる。二次被害が起こる前に犯人を突き出すべきだ。でも今回は違う。冤罪を掛けられない方法もあった。
俺の選択は、友達として本当に正しいものなのだろうか。
「そんな君には不必要なものかもしれないが」
そう言って、1枚の紙を副会長から手渡させる。中身を開けてみると
===
お前が解くな
===
「……。口止めってことですか。大丈夫ですよ、俺は別に。本当に俺達が冤罪を被せられることにさえならなければ、あとはどうでもいいですから」
「いいや、これは私からのものではない。ある人物に頼まれてな」
「ある人物?」
「悪いが、誰からのものかは教えられない」
俺はその筆跡に、見覚えがあるような気がした。そうだ。これは“あばずれ”の紙に書かれていた字によく似ている。
「君は、いなくならないでくれよ」
寂しそうな顔をした会長に、そんな忠告を受ける。そんな仲でもないだろうに。
会長の反応はまるで、誰かがいなくなってしまったようなもので。
「彼女には気を付けろ」
そう言って、素の顔の生徒会長が俺を見る。俺は、一体何に巻き込まれてしまっているのだろうか。彼女とは、将河辺のことでいいのだろうか。
そう思ったところで、丁度廊下の奥に赤堂さんが見えた。俺の視線に気が付いた生徒会長が、驚いたような顔をして睨みを効かせて振り返る。
そして会長は俺へと振り返ると。
「鍵の件についてだが、君は手を出さないんだな」
「さっき言った通りです」
「この件に関しては、私の方でケリを付けたい。だから、出来るなら君は何もするな」
怖い顔でそう言い残して、会長は廊下の奥へと消えていく。
そんなことよりも。
暗い顔した赤堂さんが、気になった。
今の自分を振り返る。生徒会長に向かって出した、暗い側面の自分。
会長に話掛けられた時。その時に素直に見たことを全部言って、仮面を被った会長に合わせて話をする。それが、一番円満で、普通のやり方だとは分かっている。でもやっぱり、俺にはそれが出来なくて。
こんな奴に友達は出来ないだろうな、なんて。
改めて、そう実感してしまった。




