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第12話 友達と初めての電話

 不甲斐ない最後だった。

 今日の放課後、赤堂さんと失われた鍵についての捜索をしていた。彼女と放課後に何かを探すのは、これでもう3回目になる。とはいえ、俺は疲労と眠気に勝てなかった。

 頭は回っていなかったし、何度か赤堂さんの言葉を取りこぼして返事を返せていなかった。しまいにはふらつき出してしまったため、捜索は打ち切りになってしまったのだ。

 家に帰って寝るようにと、赤堂さんからは強く言われ、その指示通りに帰ってすぐに眠りについた。3時間くらいは眠れたので、今は少しだけ気分が良い。

 いや、気分がいいのは、単に俺が今日という日をやりきることが出来たからだろうか。


 下校前に、赤堂さんと連絡先の交換をしたことを薄らと覚えている。自らの携帯電話を開いて確認してみれば、赤堂さんの名前がしっかりと登録されていることからも、夢ではないようだ。

 起きたら連絡するように。そう言われていた気がするが、電話をするとそのまま日が開けてしまいそうだと、直感的に思う。だから俺は今、赤堂さんに電話をする前にと明日提出の宿題に取り掛かっていた。数学に古文と、着々とそれらを終わらせていく。

 宿題が終わった時、親に夕飯が出来たからとリビングに呼び出され、家族で夕食を頂く。妹や弟と談笑する楽しい時間を過ごした後、お風呂に入ってから部屋に戻ると、机の上の携帯が激しく蠢いていた。それはもう、軽く引いてしまうくらいにはマナーモードのバイブは振動していた。

 そうだったと携帯を手に取り、通話のボタンを押す。

「もしもし」

『も、もしもし。尾緒神?』

「おう」

『お、起こしてしまったか』

「いや、今風呂から上がったところだ」

『そ、そうか。奇遇だな、私もなんだ』

 赤堂さんも話が長くなると思って寝る準備だけ先に済ませたのだろうか。

『それじゃあさ、早速本題に入ってもいいか』

 軽く容認する意思を示す。

 念の為、机の上にメモ帳を取り出しておく。シャーペンの芯をカチカチと取りだして、取り敢えず将河辺という名前を書き出す。この件に関していえば、こいつだけが俺にとっての不確定分子なのだ。こいつがどう出るかによって全てが変わるといっても過言ではない。やれるだけの準備はしたつもりではあるが、それでも時間は足りないくらいだ。

 何もしないのなら、それほど都合のいいことはない。


 赤堂さんは、まず放課後の復習にと彼女の推理を聞かせてくれる。副会長と将河辺さんの繋がりと、動機。そしてやっぱり、今鍵を持っているのは俺ではないかという考察だ。

 その考察は、当たらずも遠からずというくらいの認識で俺は聞き入れる。

『それで、やっぱり今は尾緒神が鍵を持っているのか』

「いいや、持っていない」

『やっぱ、そう言うんだな』

 電話の奥で、椅子の軋む音がした。大きく背もたれにでも寄りかかったのだろうか。

 俺が鍵を持っているのかどうかについては、学校でも否定したことだ。まさか、本当に赤堂さんが俺のクラスにまで来て情報の確認を取りに来るとまでは思っていなかったが、言い訳は既に考えてあった。本来、栞の行方を有耶無耶にするために講じた策だったが、まさかそれを応用する羽目になるとは。

 思えば、生徒会が俺に栞をポケットの中から出させたから昨日の挑戦状について、本当のことを白状せざるを得なくなった。許すまじ生徒会とは思うものの、冷静になると自分の名前の入った栞を、本に挟んだまま手渡してしまったヘマをした昨日の自分が一番悪いので何も言えない。

 だが仕方がないだろう。だって、『お前を殺す』なんて殺害予告めいた紙を見つけてしまえば、誰だって思考を其方に奪われる。警戒と、恐怖で。

 俺は今日の午前中、自分の尻拭いをするために動き出した。1時間目から少しずつ教室を出ていたのは、シンプルに1年2組の情報を得るためだ。今日の時間割(日程)を知り、赤堂さんから栞を取り戻せる時間を伺っていた。思えば、俺は1年2組になんて行ったこともなかったのだから、赤堂さんの席の場所も知らない。だから、それらの情報を得る必要があった。

 休み時間に行けばいいとも思ったのだが、そんなあからさまな事をしたら直ぐに赤堂さんにバレてしまいそうだと思って止めた。挑戦状の件を白状させられることを避けたかった俺は、彼女に怪しまれるような行動は取れなかったのだ。

 だから、本から栞がなくなったことに気が付かれた時の言い訳も作って置きたかった。


 俺の名前が付いた栞がなくなれば、当然俺が取り戻しに来たのではないかと疑われる。ある移動教室の時間、丁度赤堂さんが教室にいないタイミングにだけ俺が教室を離れていれば、誤魔化すことは難しい。だから、尾緒神は他の事情で動いていた。または、その時間意外にも席を立つほどの体調不良であったという言い訳が欲しかった。この時、5組の尾緒神が何度か1年2組の教室の前をうろついていたっという誰かの証言は厄介になる。だから休み時間は避けた。

 正直、俺は一日程度の徹夜と、あの程度の疲労であれば、今日ほどまでに体調が悪くなることはない。だから、昨日の夜からそうなるように準備をしていた。俺は、わざと自分の体調を崩したのだ。保健室の体温計は、常に微熱を指していた。その辺の証拠まで残している。だから、どうせなら保健室にまで確認に行って欲しかった。そうすれば、尾緒神は本当に毎時間体調不良で保健室に寄っていたというアリバイが出来るはずだ。だけど、赤堂さんはそこまではしなかった。だからこそ、絶妙な調査数で未だに疑いが晴れない。

 仮にあの栞を見られていたとしても、最終的にはそれは赤堂さんの記憶違いだったと強引に処理をして、挑戦状の尻拭いをする。それが俺の今日の本題だった。本当は、午後の授業の途中で早退しようと考えていたのだが、生徒会のせいでそれは出来なくなってしまい、放課後に限界を迎えた。

 正直、今になって考えると、そこまでする必要があったかと思う。なぜなら、結局俺は挑戦状の謎、その答えを偽造していたことを白状させれたからだ。

 本当、赤堂さんが意志の強い人で、優しい人で助かった。普通に考えて、嫌われてもおかしくないことだと、俺は思っていたからだ。そうして本当にあの紙の通りに殺されてしまえば、寝覚めの悪いことこの上ない。トラウマにもなってしまうだろう。

 最悪の想定は、地で歩かされるものなんだと俺の人生経験は訴える。


 熱が本格化しそうだったが、薬が効いてくれてよかった。今は楽である。俺はそう思いながら赤堂さんとの通話を続ける。

「なんなら、保健室の先生に確認を取って貰っても構わないぞ。俺は本当に体調不良だったんだ」

『いや、多分そんな時間はない』

 聞きたいけどと、赤堂さんは言う。

「どういうことだ?」

 俺は自分でも分かってはいたが、敢えてそう聞いてみる。

『着せられた濡れ衣が、たぶん明日が終わる頃には有耶無耶になる』

「……。」

『放送設備の鍵が、あのまま放置されるとは思えない。たぶん合鍵があって、明日にはそっちが本物になる。そして、合鍵の合鍵が作られると私は考えてる』

 もしくは、扉ごと鍵を新しく付け替えられるかだろう。

「なるほどな」

『そもそも、学校の備品がなくなったのに、先生じゃなくて生徒会が出て来ているのが変だ。ということは、先生方自体はこの件をそれほど重要なことだとは捉えてない可能性がある』

「他の仕事で忙しいだけかもしれないぞ」

『だったら、放送室の鍵は他の仕事よりも重要じゃないってことだ』

 どちらにせよ、重要な案件ではないのなら、早急に問題がなくなる手だてがあるのではないか。そもそも、教師陣は問題にすらしていないのではないか。だから、鍵がないという不便は解消され、犯人は見つからずに終わる。有耶無耶になって、全てが丸く納まる。

 うん。それでいいじゃないか。俺一人なら、傍観に徹するところだ。

 俺は罪を着ることがない。その結果さえあれば充分だろう。

『なあ尾緒神。それでもいいと思ってないか』

「いや、思ってないぞ」

『嘘つけ』

 ムスッとした声で言われる。

「ほんどだ。俺達を嵌めようとしておいて、このまま謝罪もなしに終わるのは、なんかムカつく」

 我ながら感情が言葉に籠もってないな、なんてことを思う。

『ん。それが聞けてよかった』

 赤堂さんが優しい声をしたので少し驚く。今の会話に、気に入られるところなんてあったか。

「でもどうするつもりなんだ。赤堂さんの考えが正しいなら、猶予は一日しかないんだろ。それまでに犯人を見つけられるのか」

『ふっふっふ。まだ気づいていないのか、尾緒神』

「なにがだ?」

『それは、()()()()()()だ』

 ふむ。そういうのか。

『向こうが。いや、正確にいえば副会長さんが、ただ単に私達を陥れるためだけに将河辺と協力したとは思えない』

 こう言うということは、赤堂さんの中では、もう犯人は副会長だということで確定なのだろう。そして俺が、意趣返しに鍵を略奪したのだと。そういうシナリオなのだろう。

『人に冤罪を掛けるのには、たぶんそれなりのリスクが伴うと思うんだ。生徒会選挙も控えてる今、それをやる利点もない。バレれば生徒だけじゃなくて、先生からの信用も失う可能性があるしな。副会長さんにとってこれは、危ない橋渡りになると思うんだ」

「そういう趣味の人間なのかもしれないぞ」

「本当にそう思うのか?尾緒神」

「まあ、違うのかもな」

 反論するのが面倒だった。

「だろ。私にもそうは見えなかった。副会長は、狂った人間ではない。でも、副会長は将河辺さんに協力した。だったら、副会長さんにはリスクに伴うだけの対価が、この計画の成功にはあるとは思わないか。そして、そんなリスク覚悟の計画を、簡単に手放すと思えるか?』

「ただ単に、金を握らされただけなんじゃないか」

『そうかもしれない。でも、私はそうとも思わない』

「何か根拠でもあるのか」

 少しの沈黙があった。

『勘だ』

 へへ。と笑い掛けながらそういう。俺には、秘密だと言っているように聞こえた。おそらくだが、赤堂さんは副会長の教室を偵察にでも行ったのだろう。そこでの彼を見ての判断だろうか。それとは別の、この状況を覆せるだけの根拠を持っているのなら、それほど心強いこともない。だってそうならば、俺は何もしなくてよくなるのだから。

「勘か」

『ああ。でも確かに、尾緒神が言った可能性だってある。だから、明日はそれを確かめる』

「確かめる?」

『副会長にも何か、私達を狙う理由があった。だとするなら、向こうにだって明日が計画を完了させる期限になる。だったら、ちょっと強引な探り方をしてくると思うんだ』

「強引な探り方?」

『うん。明日は多分、尾緒神の机が狙われる』

「俺の机?」

『そう。つまりは、取り返しに来るぞ。お前の持っている鍵を。それを見つけて、私達を犯人だと宣言するために』

「だから、俺は鍵を持ってないって言って」

『そういうのは今いいから。つまり、私の作戦はだな』

 こいつ。時々此方の話を聞いてくれないな、と俺は思う。


『防衛戦だ』


 画面の向こう側で、赤堂さんがドヤ顔している様子が簡単に想像出来る。そういうのを考えるのは好きそうだしな。

『尾緒神の持っている鍵を囮として使う。相手を誘き寄せるんだ。だから、尾緒神には明日鍵を持って来ないで欲しい。そうすれば、相手の勝算がなくなる。犯行の証拠なく、相手の説は実証されなくなる。そして私達は、あいつらの首を断つ。自作自演の証拠を見つけてやるんだ。くくく。どうだ?いい案だとは思わないか』

 赤堂さんは上機嫌そうに言う。

「そうだな。ただ、問題があるとすれば、俺が本当に鍵は」

『それならそれでいいよ。だってこの件は、鍵が見つからなければ有耶無耶になってくれるんだから。要は、引き分けだ』

 そうとも限らないだろう。何故なら、相手が鍵はないことを前提に行動する可能性があるからだ。実際、こちらが鍵をもう持って来ないだろうことなど、簡単に想像出来ることではあるだろうし。

 だが、それは黙っておく。今は俺の意見が求められてはいないようだし。


 明日、赤堂さんと行動し、真犯人を特定する。そして、結果的に俺達は無実であったと証明する。その過程で、俺個人がやっておくべきことはないか、彼女の行動をフォロー出来るようなことはないのか。逆に、失敗した時、相手の罠に嵌った時にはどう対処するべきか。そんなことを考えて書いた幾つかの案が、俺のメモ帳の上には広がっていた。俺はその中で、実現が不可能そうなものに斜線を入れていく。そんなことをやりつつ、赤堂さんとの電話を続ける。


「そうだな。それじゃあ、赤堂さんの作戦でいこう。俺はそれに従う」

 俺は、今回は彼女の補助に回る。友達として、彼女を助けるのだ。

『ふ。初めての共闘だな、尾緒神』

「そうだな」

『明日が楽しみだな』

「今回は、勝手に諦めるんじゃないぞ」

 挑戦状の時のことだ。

『おう!当たり前だろ。今回は尾緒神に丸投げもしないし、最後まで諦めもしない。ふっふっふ。私にもいよいよ来たのだよ、本気を出す時が、な!』

「ああ。期待してる」

 それから、俺と赤堂さんは明日についての打ち合わせをした。時刻の23時を過ぎる頃に、明日についての打ち合わせは全て終わる。取り敢えず、朝から赤堂さんと合流することになったため、その待ち合わせ場所をメモ帳の上に書きだした。

『それじゃあ、明日はよろしくな!尾緒神』

「ああ。寝坊するなよ」

『しねぇよ、ばーか』

 集合時間は、いつもの登校時間とそう変わらない。まあ、まず大丈夫だろう。

『そうだ、尾緒神』

「ん、なんだ」

『話は変わるんだが、私も読んだぞ、お前から貰った本』

 電話を待っている間暇だったからな、と言われる。宿題はしたのだろうか。

 赤堂さんにあげたライトノベル、「俺は男女の友情を成立させてみせる!」の内容を思い出す。まさかこうして、俺が好きな本を赤堂さんが読んで、その感想を共有出来る日が来るとは。素直に嬉しい。

「どうだった?」

『國火下も、こんな気持ちだったのかなって。そう思った』


 ……。

 ………………。

 気まずっ。

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