墓標圧縮帝都――亡霊の通学路
モチャルカは俺とイエナの腕に触腕を絡めながら、まるで旧友に再会したかのような勢いで配信を続けていた。
いや、まぁ……記憶からしてマコトにとって旧友で違いないんだろうけど、この状況……なんともやりにくい。
上空を飛ぶドローンが、俺達の顔を執拗に追いかけてくる。
「さてさて!! 次のコメントに参りましょうか!!
英雄&盟友に聞きたい100の質問の12問目〜!!」
「おい、勝手に進めるんじゃねぇよ」
イエナが低く言うが、モチャルカは聞いていない。完全スルー
「なになに〜? “お二人はぶっちゃけどういった間柄なのですか?”」
『気になる気になる!!』
『つってもイエナたんわかりやすすぎだけどなww』
『核心キター』
「あの……モチャルカさん?」
俺は小声で呼ぶ。
「もう少し静かに……異形だってどこから現れるか」
風を裂く音の向こう、遠くで異形の咆哮がまだ残っている……完全に安全圏とは言えない。
「あぁすみませぬ! 来客が久しいものでつい興奮を」
触腕がきゅっと強くなる。
「それにしてもでござるよ? 流石今話題の二方でござるな!!
同接が爆増中! 拙者の配信も最近はマンネリ気味でしたからなぁ」
『現在視聴者数、過去最高を更新しました』
「うっはぁッ!! よぉっしゃああぁ!!」
はしゃぐモチャルカを横目にイエナは舌打ちする。
「……面倒なことにならなきゃいいがな」
『タコ、実際二人呼び出した理由は?』
『タコ楽しそうで俺は何より』
『今更やが危なくないんか?』
コメントの流れが、ほんの少しだけ変わる。
モチャルカは一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐ満面の笑みに戻った。
まぁ、あんな内容のメッセージを送ってきた位だ。
理由が無い訳はないよなぁ。
「さぁさぁ! ではお答えを!! ぶっちゃけご関係は?」
「夫婦」
「番だ」
即答。
『人妻英雄……ゴクリ』
『盟友NTRルートありますか?』
『タコもっと聞け』
「誰が人妻だ誰が」
イエナの拳が、無差別的に俺の脇腹に入った。
なんで!?
「八つ当たりだ」
「ひどい!!」
モチャルカはというと、そんなやり取りを見て満足そうに頷く。
「いやぁ実に良いでござるなぁ。拙者こういう空気、大好きでござるよ」
触腕をぶんぶん振りながら笑い、ドローンがその様子をぐるりと一周して撮影。
『タコ楽しそうww』
『ひでぇw』
『盟友不憫』
「さてさて、雑談もこの辺りにして」
モチャルカが、すっと前方を指した。
「そこの角を曲がれば拙者の居城でござる」
「居城?」
「お前、この街に住んでんのかよ」
「もちろん!!」
そう得意げに胸を張るけど……よくもまぁ異形彷徨う所に一人で住んでるな
配信者も結構命懸けなんだなと少し感心してしまった。
「拙者、拠点にはこだわるタイプでござる」
「不安しかねぇんだけど」
イエナわかるよ……俺も、なんとなく嫌な予感はしている。
だがモチャルカは構わず、くるりと曲がった。
俺達もそのまま後を追って――
そして。
「……」
「……」
そこに現れたのは。
煉瓦造りの巨大な校舎。
蔦が外壁を覆い、窓ガラスのほとんどは割れており、門扉は歪んで、校庭には雑草が膝の高さまで生えていた。
長い間、誰もいないまま放置された廃墟の学園。
風が吹いて壊れた窓枠が、きぃ……と鳴る。
「……」
俺とイエナは同時にモチャルカを見ると、彼女は、なぜか誇らしげだった。
「ここが拙者の居城――」
両触腕を広げ、堂々と宣言する。
「魔王国立ゼルヴァニア高等学府跡地でござる!!」
沈黙。
三秒。
五秒。
そしてイエナが口を開いた。
「……廃墟じゃねぇか」
うん。だよね
『廃墟で草』
『ガチ廃墟』
『居城とは』
相反してモチャルカは胸を張ったままだ。
「失礼な!!」
触腕で校舎を指差す
「元は英雄、魔勇者、王子が同時期に在籍していた由緒正しき魔導学園でござるよ!!
六年前の一件でこんな有様ですがな!!」
(六年前の一件?……って事はこの街が廃棄された理由もそれなのか)
『魔王国皆知ってる定期』
『何気にタコの住所バレ……誰も凸しねぇけどな』
『戻れ英雄』
イエナはゆっくりと額を押さえながら尋ねる。
「おいタコ」
「はい?」
「呼び出してここまで連れてきた理由……今すぐ三行で説明しろ」
「了解ござる」
モチャルカはにこやかに頷き、指を一本立てた。
「まず一つ」
「拙者と友達になって貰う為」
思わず、イエナと顔を見合わせる。
「二つ」
モチャルカの笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。
「英雄として、今は亡き友が何を成し、何を失ったかを知って貰う為」
風が、校舎の奥から吹き抜けた。
どこか遠くで、錆びた扉が軋む。
「そして三つ」
モチャルカはくるりとこちらに向き、先程のテンションで、触腕で俺達を指差しながら言い放つ
「一緒にいっぱい配信してスパチャを稼いでもらう為!!」
『草』
『途中までいい話だったのにな』
『タコ、そういうとこやぞ』
「帰ろうか」
「あぁ」
二人同時に踵を返したその瞬間。。
ぺたっ。
「……」
「……」
腕に、何かが貼り付いた。
ぺたぺたぺた。
振り返ると――
モチャルカの触腕が、俺とイエナの腕に吸盤ごと吸い付いていた。
「ちょっと待つでござるよぉおおおお!!」
皮膚がずるずると引っ張られて……
「離して地味に痛い!!」
「おい離せタコ!!」
「いやいやいやいや!! 理由聞いた上で即帰宅は酷いでござる!!」
触腕がさらに増える。
一本は俺の顔、一本はイエナの肩、さらに一本は背中にまでぺたり。
完全にタコに捕獲された状態。
『草』
『捕獲成功』
『釣れました』
「せめて!! せめてお茶だけでも飲んでいってくだされぇええ!!」
「断る」
イエナは即答。流石のモチャルカも触腕がしょぼんと垂れる。
「拙者のおウチ……誰も来てくれた事なくって……」
「知らねぇよ」
「そうだ お茶菓子もあるんでござるよぉ?……」
「いらねぇって」
「拙者……こうして誰かと直接話すのだって久しぶりで……」
触腕がさらに弱々しく腕に巻き付き、ついそんな彼女の様子に呼びかけてしまう
「……イエナ」
「……」
ドローンも静かにコメントを読み上げる。
『タコかわいそう』
『これは断れない』
『英雄の心が試されている』
「……はぁ」
盛大なため息。
「ったく」
モチャルカの触腕がぴくっと動く。
「誠一郎……いいんだな?」
「勿論」
彼女は校舎をちらりと見上げる。
蔦に覆われた煉瓦壁。
割れた窓。
風に揺れる鉄柵。
そして静かに言った。
「三つ目は無し。
叶えてやれんのは一つ目と二つ目だけだ。」
腕を掴む触腕を、軽く払う。
「聖剣を継いだ以上、お前のダチの話位は聞いてやる」
「うん。俺も聞かせてほしい。モチャルカ」
彼女の表情はたちまち明るくなり触腕が、ぶわっと広がる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「静かにね」
「はい。
では早速、配信終わります。さよなら」
即座に小声になり、ドローンからは視聴者の声が最後に流れた
『俺達蚊帳の外かよ!!』
『メン限もなしか?』
『おい急に終わるなww』




