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第__話 未来は二人乗り

軽く身支度を終えた俺は、イエナと待ち合わせした魔王城地下駐車場へと降りてきた……のだが、正直それどころじゃない。


昇降機の前で待っていた彼女の格好が、あまりにも刺激的だったからだ。


「あの……イエナさん、その格好で行くの?」


「おうよ」


そこにはキャットスーツばりのピチピチスーツ姿で自信満々に胸を張る彼女がいた。


「衛兵の人も着てた位だから優れものなのはわかるんだけど…」


魔導外骨格装甲(ヴェイルスキン)って言うらしいぞ

 動きやすい、防刃、防衝撃。まさにアタシにとっちゃ運命の一着って感じだ」


それにめちゃくちゃ気に入ってる。


彼女の運命の一着に対して流石にこんな事言うのは野暮かとは思った。


思ったけど……


その姿を俺以外の人に見られるのは少しモヤモヤするので、


「やっぱその服、Hだよ。体のシルエット丸見えだし

 イエナもその……出るとこ出てるし」


そう伝えた瞬間、彼女の毛並みが逆立つと同時に張り手が飛んでくる


「ぶべらっ」


瞬時に浮き、地面に落ちる身体がワンバウンド、イエナは呆れ顔で俺を見下ろす。


「最後のは余計なんだよ。

 でも確かにそうだよな ちょっと思ってたんだ」


(ちょっと思ってたんじゃん)


そして起き上がる間も与えられずに


「いいの着てんじゃねぇか」


「え?」


イエナが俺の胸元、正確には革ジャンを掴み、引き剥がそうとした。

「”あ”ぁ!! ツユちゃんに買ってもらった俺のお気にッ!!」


言い切る前に、ぐいっと引っ張られる。


「うおっ!? やめ――」


「誰だツユちゃんて!! その上着から微かに匂う獣人の事じゃねぇだろうな 脱げオラ」


「地獄鼻!! その人には世話になってただけだよ

 やめてよもう!!」


ばさっ


一瞬で視界が暗転し、次の瞬間には肩が軽くなっていた。


「いぃぃ〜〜ん 酷いよぉ」


「お前が余計な事言うからだ」


そう言いつつもイエナは革ジャンを羽織り、襟を立てて満足げな顔をしている。


「似合うだろ」


「超似合ってるけどもさ!!」


「だろ。それにこれならよ……ほら隠せる」


彼女は革ジャンの裾を引いて、胸元と腰回りを示す。


「……あ」


なるほど、“ちょっと思ってた”の続きか。

確かにさっきまでより露骨な視線は減りそうではある。


「……俺は追い剥ぎにあった気分だけどね 

 Tシャツ一枚は流石に肌寒いよ」


「我慢しろ 命取ってねぇ分良心的だろ」


「そういう事にしとく」


イエナは肩をすくめて、少しだけ声を落とす。


「……それによ」


「ん?」


「お前の匂いもついてるしな

 他の獣人の匂いだって……アタシの匂いで上書きしとかねぇとだし」


(は?)


あまりに強すぎる理由に一瞬、言葉が詰まってしまった。

だが、そこまで言われたら俺も手のひらを返さざるを得ない


「どうぞどうぞ 一週間後くらいに返してくれたらいいよ 

 それまで思う存分着まくって 洗濯とか絶対しないで 

 特によく動く時とか汗かきそうだなって時に着てくれると助かるな

 いや別に変な意味はないんだけれどもその分、イエナの匂いの割合が増えるだろうし

 ほら俺も獣人に比べたら嗅覚そこまで鋭くないからさ その方がお互いWinWinかなって

 湿気の多い時に来てくれてもいいかもね また違ったフレーバーが」



「お前には返さない事に決めた」




「”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ど”う”し”て”だ”よ”お”お”お”お”お”お”ッ”!”!”!”」



反響する魂の叫びを無視して、彼女は駐車されている様々な乗り物の方へ歩き出す。

その革ジャンの背中が、やけに遠ざかっていく様に見えたのは言うまでもない。


ひとしきり叫んだ後、純粋な疑問が湧いたので尋ねてみる


「それで、どうして地下なのさ ここって魔王城居住者の利用スペースだよね」


「例の場所までそれなりに距離があるんだ。

 だから、馬で行きゃ早いかと思ってな」


「馬!? 買ったの!!」


「あぁ。正確には褒美に貰った。だがな」


彼女はニヤリと笑って布に覆われた一台の前に立ち止まる。


「アタシの愛馬だ」


そう言って、被せられていた防塵布の端を掴み、勢いよく引き剥がし、ばさり、と布が床に落ちた。


次の瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは――


黒曜石のような艶を帯びた車体。低く構えた重厚なフレーム。刻印が浮かぶ排気管。そして右側に張り出した、半円形の装甲ユニット。


「……え」


一拍、思考が止まり


「え、やば……」


声が裏返る。


「カッケェ!!」


俺は思わず駆け寄って、車体の周囲をぐるぐる回る。


どの角度から見ても美しい


「これってサイドカー!? 初めて実物見たかも! え、魔王国ってこんなのも作れるの!? 化石燃料は無いから多分、魔導機関で駆動してるんだよね? じゃあこの排気管はフェイク? フェイクでこれ付けるとかわかってんなぁ うわフレーム美しっ……!」


テンションはもう臨界点を超えてしまっている。


「興奮する……!」


「おい、落ち着け。子供か」


イエナは呆れたように言いながらも、どこか誇らしげだった。


「正式名称は《ヴァルグ・ホルン型地上走行魔導機》って言うらしい。側車付きの試作機だとさ」


「試作機でこのクオリティ!?」


「元は魔王の私物らしくてな ここに来て直ぐの頃、

 お前探しに行くのに馬が欲しいっつったら、褒美にって押し付けられたんだ」


押し付けられたのレベルが違う。


俺はサイドカーの縁に手をかけ、しげしげと内部を覗き込む。


座席は一人分。前には小型収納庫までついてる



「ねぇねぇ!! 俺、運転してみてもいい?」

「片目覆ってる奴に任せられるわけねぇだろ」


正論。


「ですよね」


イエナはバイクに跨り、革ジャン越しに振り返る。


「ほらさっさと側車に乗れ。置いてくぞ」


「そもそも運転できるの!? 馬しか乗った事ないでしょ?」


言いながらも、俺はサイドカーに乗り込む。

座面はベルト付きで想像以上に座り心地も良く、これむしろ側車で正解だった説あるな。


「舐めんなよ誠一郎!! アタシは既にこの魔王国に適応済みだ。

 女子三日会わざれば、刮目して見よ。だ」


「慣用句TSしちゃってるけどもまぁいいか!!

 なら、お手並み拝見と行きましょうか」


正直、既に少年心とテンションが限界突破している


イエナはどこからか取り出したキーを回し、エンジンに相当する魔導機関を起動する。

低く唸る振動が地面を伝ってきた。


「じゃ、行くぞ。落ちるなよ」


魔王城地下駐車場に、獣が吼えるような重低音が響き渡り、軽快な音共に地下駐車場入り口のシャッターがゆっくり開いていく


「レッツゴー」


そう叫んだ瞬間、視界が後方に吹き飛ぶ。


「”う”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”おおッ!?」


サイドカーが地面を削るように飛び出し、同時に身体が座席に叩きつけられた。

ベルトが無かったら普通に射出されていたぞこれ。


「ちょっ、ちょっと待って!! 発進荒すぎ!!」


「コイツはこう乗るもんだろ!!」


「どこ情報だよそれ!!」


地下通路を抜けた瞬間、景色が一変する。

真っ青な空、朝日に照らされたビル群がキラキラと反射してと語れる程の余裕も風情も今は無かった。


信号――無視。

交差点――減速ゼロ。

路面の段差――ジャンプ。


「イエナ!! イエローカットって概念覚えて!!」


「イエローは行けって意味だろ!!」


「違う!! 警告!! 警告色!!」


横Gで内臓が置いていかれそうになりながらも俺は必死に叫んだ。


「イエナ……路肩止めて……!」


「ろかた?」


「道の端に止めて下さい!!」


「んだよ面倒くせぇな」


ギャギャギャギャッ、と意味の分からない減速をして、ようやく停止。

俺は側車から転げ落ちるように降りた。


「……また死ぬかと思った」


「大げさだな。慣れりゃ楽しいだろ」


「バイクは慣れた時が一番危ないんだよ。もう」


俺は地面に手をつき、深呼吸する。

肺が焼ける。


「ねぇ……やっぱちょっとだけ運転代わって貰ってもいい?」


「はぁ? お前、その目で操縦出来んのかよ」


「……多分」


「多分ってなんだよ 事故ったら承知しねぇからな」


席を交代し、俺はハンドルを握った瞬間、静かに確信する。


「あぁ……やっぱり そうか」


操縦方法は覚えてるしわかる。けどそれより前の記憶が追いついていない。


「行くよ イエナ」


キーを回す。

再び魔導機関が低く、穏やかに唸った。


軽くアクセルを吹かしながらクラッチをゆっくり離して繋げるとサイドカーは滑るように走り出す。


速度を上げる。

だが急加速はしない。

ブレーキも、曲がる前に余裕をもって踏んでシフトペダルを踏み落とす。


風景が“流れる”のではなく、“進む”。


「……」


先程まで騒がしさが嘘の様に横から、イエナの声が消え、信号で停止した時、横を見ると彼女は黙って前を見ていた。


「……やるな」


ぽつりと、そうこぼす。


「英雄の時の記憶……戻ってんのか?

 その……上手いなって思ってよ」


俺は少しだけ笑う。


「まさか、違うよ。これはただの俺だった時の応用。

 これによく似た乗り物に乗ってたんだ。多分」


「それも多分なのかよ」


「うん、運転してわかった。その“ただの俺”も、今の俺とも違うんだなって。」


「……誠一郎。」


「多分俺は俺に似た誰かと俺だと思ってた他人の記憶が入り混じった存在。

 つまり何者でもない空白が、俺だと思い込んでるだけなんだ」


(だから家を出てキャンプ場に着くまでの記憶しか無い 運転は出来るのに教習所に通った記憶もない 

古い記憶は勿論、思い出せず、常識やかつて得たであろう知識だけがただただ流れ込んでくる)


そう自分で口にしながらもハンドルを握る手に、妙な力が入ってしまった


「それって……なんか悲しいな」


イエナの声は、静か続ける。


「つまり、お前自身の思い出が無いって事だろ?

 その時の感情だったり、想いがよ」


俺は首を振る。


「それは違う。悲しくはないんだよ。

 今の俺には君に拾われてからの思い出が沢山あるから」


ミラー越しに、イエナを見る。


「だから過去がどうだとか、記憶がどうだとかは受け止めはするけど――

 それを未来には連れて行かないって決めたんだ」


信号が青に変わる。

俺は静かにアクセルを握り、クラッチを離した。


「……なら、アタシはその未来に乗るだけだな」


「嬉しいよ……後でチューする?」


「しねぇよ」


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