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ノミ達:「ああ、そうだ競馬なんかどうだね?一番メジャーでお薦めだ。馬も可愛いしな」
サラリーマン:「競馬ですか…」
少年:「待ってました」
とばかりに少年は鋭く反応すると、
少年:「ちょっと、おじさん達、競馬がどうとか言ってなかったかい?」
と、ちょこちょこ小走りでサラリーマンに近付いていきました。
ノミ達:「ガキはとっとと帰んな。大人の世界だよ」
しかしノミ達、手で払う素振りを見せますと、何とも冷たい態度であしらいます。
少年:「そんなに邪見にするもんじゃねぇよ。買いたいレースがあるなら、代わりに使いを頼まれてやるよ」
ノミ達:「ガキなのに馬券が買える訳ねえだろうが」
少年:「違うやい。知り合いの大人に買ってもらうんだい。その代わり駄賃は貰うよ」
ノミ達:「それ見ろ。金目当てだ」
此処もノミ達の凄い所。敢えて否定する事でサラリーマンの信用を得ようという魂胆でございます。成程、
・おじさんがどんなに否定しても、きちんと金を受けとるまでは続ける事
とはこういう事か、と、思わず感心してしまいそうではありますが、所詮は犯罪でございますから、まあ最低と言えば最低。
サラリーマン:「まあまあ。それで、次の大きなレースはいつなんですか?」
ノミ達:「そりゃあ、今日の『宝塚記念』だが」
少年を哀れに思ったサラリーマン。しかし、少年からしましたら哀れなのはサラリーマンでございまして、自分が餌に食い付いてしまった事に全く気付いておりません。これにはノミ達もニンマリ。しかしながら、生き馬の目を抜くと申しますか、何とも嫌な世の中でございます。
サラリーマン:「お薦めの馬はいるんですか?」
ノミ達:「おうよ。やや穴だけど、『アジャラカモクレン』て馬の『単勝』が良いな」
ところが、この『アジャラカモクレン』。16頭中12番の人気であり、殆ど望み薄。いつもながらのノミ達得意の手口でございます。
サラリーマン:「それにしても、変な名前の馬ですね」
ノミ達:「そ、そんな事言ったって俺にはどうする事も出来ねぇよ。新聞に書いてあるんだから仕方ねえだろ」
楽勝と思って油断した所で、馬ではなく馬の名前にケチが付くという、いつもとは違う展開にやや焦り気味のノミ達。ちなみに競馬をやる人間は、当たった後の皮算用で頭が一杯な為、大体が馬の名前なんて気にも留めません。
サラリーマン:「ところで、『単勝』って何ですか?」
ノミ達:「一位になれば当たりって事」
サラリーマン:「成程、『宝塚記念』の『アジャラカモクレン』の『単勝』をこれで」
そう言うと、サラリーマンは長財布から壱万円を三枚取り出しました。これにはノミ達、びっくり仰天。三万円も一点につぎ込む奴はそうはおりません。小僧に駄賃を払って、二人で飯を食っても二万円以上は懐に入ってくる訳ですから、日当としては上等というもの。
ノミ達:「こりゃあ、ハナから仕事納めだ」
と、思わず舌舐めずりを致しました。