3
カウンターに腰掛け、とりあえずグラスに水を注ぎましたる所、隣にスーツ姿の若いサラリーマンが座って参りました。日曜日なのにスーツとは、如何にも遊びを知らない朴念仁。ある程度は貯金がある事だろうと、ノミ達の食指が動きます。
若いサラリーマンは余程喉が乾いていたのか、波々とグラスに水を注ぎますと、ゴクゴクと喉を鳴らしながら、一気に全部流し込みました。
サラリーマン:「プハァー」
と大きく息を吐き出しまして、ドンとグラスをカウンターに叩きつけますと、ノミと掛けて
ノミ達:「これは中々に風情があるな」
なんて、その豪快な飲みっぷりに思わず感嘆のノミ達。
ノミ達:「随分と美味そうに飲むじゃないか」
それを聞いたサラリーマンは
サラリーマン:「水ですけどね」
と、会釈がてらに苦笑しました。
ノミ達:「ビールならなぁ」
サラリーマン:「ビールならねぇ」
二人とも肩を落としますが、仕事途中の休憩でございますから、酒を入れる訳には参りません。
ノミ達:「外回りの仕事だから、暑さが堪えるよ」
自然に振る舞いながら、ノミ達は徐に手を挙げると、硝子越しの少年に向かって合図を送りました。
サラリーマン:「奇遇ですね。日曜ですが、僕も外回りの営業なんですよ」
ノミ達:「客の前でベロベロになる訳にはいかんからなあ」
サラリーマン:「そうですよね、職務怠慢ですよね」
適当に会話を続けながら、少年が店内に入った事を確認すると、
ノミ達:「ところで、お前さん。賭事はおやりになるのかい?」
と、ノミ達は本題へと入る事に致しました。
サラリーマン:「いいえ、酒なら少したしなみますよ」
ノミ達:「女の方は?」
サラリーマン:「とんと音沙汰無しです」
ノミ達:「そいつはいけねぇ。つまらない人生を送っちゃ勿体無いよ、まだ若いんだし」
見立て通りだとはいえ、いざサラリーマンの話を聞いてみると、ノミ達も何だか少し可哀想な気分になってきました。しかし、そんな甘い事を言っていたら悪事で生計を立ててはいけません。此処はグッと良心を押し殺して、仕事に徹する鬼と化す覚悟を決めました。