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思わず、
ノミ達:「ああ、面倒臭ぇ」
と、天を見上げながら呟きますと、
ノミ達:「一人で仕事をせずに、そろそろ後塵に仕事を任せていくべきだ」
と思いつきました。
今日は初夏の大レース、夏のグランプリ『宝塚記念』の開催日。『ノミ屋』にとっては書き入れ時でございます。ノミ達がフラフラ歩いてカモを探していると、小さな少年が1人、つまらなそうに木に寄り掛かっておりました。年の頃は五つか六つ。「カモにはならないが、丁度良い後塵が見つかった」と、悪だくみを頭に浮かべながら、ノミ達は声を掛ける事に致しました。
ノミ達:「おい、坊主」
少年:「何だよ?あんまり知らない人と話しちゃいけないって、母ちゃんが言ってたぞ」
ノミ達:「そんなに邪見にするもんじゃねぇよ」
少年の真っ直ぐな眼差しに、思わず口がひん曲がってしまうノミ達。しかし、悪い大人の代表として此処で退く訳には参りません。
ノミ達:「小遣い欲しくないか?」
少年:「うん」
ノミ達:「よし、良い子だ。おじさんの言葉をよく聞いておくんだぞ」
此処ぞとばかりに悪い知恵を働かせて、少年を買収する事に成功致しましたノミ達。少年の頭をくしゃりと撫でつけますと、注意事項を並べ始めました。
・競馬と口にしたら、馬券を買ってきてやると声を掛ける事
・小遣いをせびる事
・おじさんがどんなに否定しても、きちんと金を受けとるまでは続ける事
・後で競馬場で合流して、レース後の処遇を決める事
一頻り手口の説明を終えますと、
ノミ達:「さてと、おじさんの後についておいで」
と、少年の手を引きながら、ノミ達は大通りの方へと歩いていきます。暫く歩いていると、定食屋の前で足を止めましたるノミ達御一行様。
ノミ達:「よし、此処でやるか」
看板を見上げると、一回頷きながら胸を張り、定食屋を指差しました。
ノミ達:「おじさんはここに入るから、外で待っているんだぞ」
少年:「おじさん、ご飯を食べるのかい?おいらも食べたいよう」
ノミ達:「働かざる者は食うべからず。おじさんも腹は減ったが、仕事をしないと飯は食えねえんだ。我慢して待ってな」
尤もらしい事を言っても所詮は悪事。折角の格言も台無しでございます。とはいえ、背に腹は代えられませんので、ノミ達も負けじとやる気を表明致しましたる所、
少年:「いつまで待っていれば良いんだよう」
ノミ達:「中を見ていて、おじさんが手を挙げたら入っておいで。入ったら水だけ貰って、少し離れた所でおじさん達の会話をよーく聞くんだ。おじさんが競馬と言ったら手筈通りだ」
少年:「うん、分かったよ」
思いが通じたのか、少年は目を輝かせながら快諾してくれました。
ノミ達は少年の両肩に手をやると、
ノミ達:「嗚呼、素直で賢くて、若い頃の自分にそっくりだ」
なんて、気持ちの悪い悦に浸りながら、
ノミ達:「終わったら二人で何か食べよう。しっかり頼むぞ」
と、男の堅い契りを目と目で交わし、意気揚々と定食屋の店内へと姿を消していきました。