82 臓器売買③
霞と堀田はバーBOBの店内で「兄貴」と話をしてきた。
「ほう、本当に手に入れてくるとはな、大したもんだ、だがどうやってか、までは聞かない」
「話が分かるぜ兄貴」堀田が喜んで見せる。
「問題は使い方なのですが」霞が問いかける。
「なに、ここに書いてある電話番号にかければすべてはスムーズに進む」
「じゃあこの変な文字列は、なんです」堀田が兄貴に問いかける。
「それはいつどこで何を取引きしたかが書いてある」
「でもこれでは自分たちが何を書いたらいいのかわかりません」霞が話しを進める。
「ん、これは向こう側が描き込んでくるものでな、お前たちは何もしなくてもいい」
「一番重要なのはこれでな」と兄貴が表紙の後ろに押された鳥の意匠のような印を指さす。
「これが符丁なんですか」霞が問う
「そのとおりだ、これが無いと取引ができない」
「なるほどねぇ、面白いな」堀田が笑いながら言う。
「まぁとにかく電話してみろ」と言葉を残して男は去って行った。
翌日の昼頃、霞と堀田は支店の中にいた。
「なるほど、これがパスポートか」佐々木は手帳をめくりながら言った。
「では早速通話してみようではないか」佐々木はそう言いだした。
「いいや、もうちょっと時間を置いた方が良いのでは」堀田は狼狽している。
「今も後も同じだよ、やることも変わらないだろう」霞が言った。
霞は電話番号をタップしてコールした、スピーカーモードである。
「はい」と返事がある。
「取引をしたいがどう言うやり方が良いかな」と霞は相手の出方を見る。
「ご新規さんか、ならファーストパックがいいぜ、何とでも捌ける」相手は手慣れた様子だ。
「じゃあそれで頼む、取引場所と時間は」霞が訊ねる。
「そうさな、今ちょうど出物があってな、今日の夜、うん、二十時に新木場二丁目に大きく看板が出た売り物件の倉庫がある、その前で取引だ」
「わかった」霞が返事をしたとたんに通話が切れた。
「ほ、話しが早いね」堀田が言う。
「異能者がいる可能性がある、くれぐれも用心しろ」佐々木が念を押して来た。
その夜、新木場二丁目に異管のプロパックスで霞たちは待機をしていた。
しばらくすると反対側から自動車が現れランプを二回点灯させた。
「合図だろう、出るぞ」
「ああ」堀田が返事をする。
プロパックスから降りると、向こうも下車してきた。
作業着を着た二人組である。
「待ってたぜ、早く取引しようぜ」堀田が言う。
「いいだろう、ちょうど真ん中あたりで金と交換だ」作業着の男は大きな保冷ボックスを持って歩んできた。
堀田もそれに合わせて歩み、金の入ったケースを保冷ボックスと交換し、互いに後ろ向きになって距離を取った。
堀田がケースを開けると、そこには何も入っていなかった。
「騙したのか」堀田が叫ぶ。
「それはお互い様だろう、お前たちは警察だろうが、死ね」
そう言うと右手を上げ火炎を三発放ってきた。
火異能者だ。
堀田がとっさに反応できないでいるところに、霞が体当たりを当てて地面に倒す。
霞は素早く背を向けながらかがみ込んだ。
三発のうち二発が霞の背中に当たったが、炎上することなく鎮火していった。
霞は振り向くと「縮地」を使い火異能者の目の前に一瞬で移動し、首に手をかけて電撃を流し昏倒させ、もう一人は顔面に蹴りを入れて足から電撃を流した。
二人とも昏倒したことを確認した後霞は、異端を取り出して回収をタップした。
堀田が後ろから声をかけてくる。
「霞君は炎をどうやって防いだのさ」
「ああ、これは高品質な耐火コートでね、熱いことは熱いが炎上を防いでくれる」
「へええ、そのコートはそんな素材だったのかよ」堀田がコートをつまみながら言う。
「今回は火の異能者が想定されたから着ていたんだ、正解だったよ。」と霞。
「でも、霞君は水異能だろう、属性的には勝ってるじゃん」もっともな疑問を堀田がぶつけてくる。
「俺は半異だからね、火属性と対峙した場合互角か少し負けるぐらいなんだよ、それに直前で防ぐと水蒸気が一気に上がって危険だからね」
「そっか、そうだったな、色々考えているんだな」堀田は顎に手をやっている。
そうこうしているうちに「東京公衆衛生局」のバンが到着し、芥を運び込みだした。
運転手の一人が声をかけてきて「乗車してきた自動車はこちらで回収して本部まで戻しますので、公共交通機関で御帰宅ください」と言ってさって言った。
「駅まで歩くか」と霞。
「そうだねぇ」堀田がそれに答える。
「バレてたなあ」と霞が話し掛ける。
「警察だろう、だって、違うっての」と堀田がおどけて見せる。
「どこでモレたんだろうか」霞が疑問符を投げかける。
「俺も考えていたんだけどさ、兄貴じゃないかなと」堀田はそれに答えた。
「なるほどな、取引する上での通過儀礼があの人で、警察が引っかかった場合は今回みたいになるってコトか」
二人は新木場の倉庫街を歩いて駅まで向かった。




