80 臓器売買①
「まぁそう言うわけで今回は臓器売買の案件だ、これには異能者も関わっているらしい」
「らしい、とは、なんですか」霞が声をあげる。
「警察側で遺体が三体上がってな、どれも焼死体だった、司法解剖した所見では可燃性の薬物や、墨、木材の成分が一つも上がらなかったらしい、そんなことが出来るのは火の異能者だけだ、おそらく用心棒なのだろう」
「ほかに詳しいことはわからないんですか、警察が捜査した履歴とか」御剣が訊ねる。
「今回も信用できんのだ、どこかから情報が漏れている可能性が高く、スカをつかまされる可能性が高い」
「本当に異管じゃなきゃできない世の中なのかよ、俺たちは暇なほどいいってのに」堀田は脚を組み替えて言った。
「他に、し、資料は無いんですか」緑川が声をあげた。
「あるにはある、だが覚悟して見ろ」
佐々木はそう言うと液晶ディスプレイの画面を切り替えた。
そこには体のほぼ全面を黒潰しされた少女の画像があった。
「臓器を根こそぎ抜き取られた跡だ、発見出来た物と言えばこの遺体だけだ」佐々木は腰に手をやってため息をつく。
画面を見ていた霞がいきなりソファーから立ち上がり佐々木のデスクに詰め寄った。
「な、どうしたのだ霞君」
霞には佐々木の言葉が耳に入っていない様子である。
「こ、この娘、前にあった人身売買で確保した女の子だ、間違いない、目の傷も同じだ」霞が叫んだ。
「嘘、うそでしょ、そんな」と御剣もデスクに歩み寄って来る。
「そんな、なんで」霞はつぶやき、御剣はその横で泣いている。
「こう言った子供のケースはな、ほとんどが不法入国なのだ、親に売られて反社がそれを買い取る方程式だ、前回のケースのように開放したとして、国に強制送還されるのだ、親元にだ、そうするとどうなる、もう一度子供を売るのだ」
「ケッタクソわりぃ、今すぐ反社をぶち殺してやりてぇ」堀田が叫んでテーブルを蹴り上げる。
緑川は下を向いて静かに涙をこぼしている。
「反社を、処理しても、別のヤツが出てくる、貧困国でもどんどん子供を売り飛ばす、クソみたいな方程式が崩されないままなのだ」
佐々木は手を握りしめている。
「出てきても出てきてもこの娘をこうした奴らをつぶしてやる」霞は床を見つめて呟いている。
「霞君、ていねいにていねいに掃き清めても芥は無くならない、すぐまた部屋の隅に溜まってしまう、我々が掃除屋だと、笑わせるな」
佐々木も目を潤ませながら額に手を当てている。
「この件だけでも、絶対に処理してやりましょう、ねえ佐々木さん」堀田はそう叫んだ。
「もちろんだ」佐々木は堀田に返した。
「では掃除の内容に入る、今回は噂程度の話しでカギになる情報は皆無だ、そこで聞き取り捜査に焦点を絞る、霞君と堀田の二名が臨時バディを組み片っ端から臓器売買に興味があるとそれらしい輩に聞き込みをしてくれ、しつこいくらいにだ、それで本命が出てくるのを待つ塩梅だ」
「臨時バディを組む根拠は」と霞。
「案件が案件だけに男だけの方が自然になるからだ、なるべく反社らしい態度で臨んでくれ」佐々木は頬を指先で撫でながら言った。
「なぁ霞君、反社らしい態度ってどんなだと思う」と堀田が公園の椅子に反り返って話す。
「堀田はそのままでも良いんじゃないか」と霞。
「ヒデぇ、そりゃねぇよ霞君、俺が反社みたいだってのか」堀田は怒りだした。
「いや、そうじゃない、いかにも反社のようだと相手が警戒するし、シノギの取り合いになる、それがひよっこみたいな若い男だと、それに付けて上納金をせしめたり、だましたり、トカゲのしっぽ切りに使える」
「なるほどな、素人臭さが相手を油断させるってワケか」堀田は合点がいくと言うような表情をしている。
「問題はどんな場所で聞き込みをして回るかだな」霞は鼻に人差し指をあてて考え込む。
「そこが一番問題だな、宛が多すぎる」堀田は渋い顔をした。
「こんなのはどうだ、佐々木さんはどうにも警察からデータを取れると言っていた、だがそれは信用がならない、まぁフェイクがカマしてあると言っていた、逆に言えば、何も見つからなかったとされる場所こそ手を出して欲しくないところなんじゃないかな」霞は堀田に話し掛ける。
「それ、それ良いかも、それで行こうぜ」堀田が喜びの表情を見せる。
「うん、だが一度佐々木さんに相談した方が良いだろうな」霞は頷いて答えた。
「善は急げだ、支店すぐそこだから今すぐ行こう」
堀田は歩み出した。
「一理ある、だが信憑性と言う点ではいまいち決定打にかけるな、それに本当に偽装工作として白に見せかけているかどうかも確定的ではない、だが膨大な数の中で絞り込めるのはこの案だけだ、まずはそれでやってみろ」
佐々木の一言で方針が決まった。




