79 パワードスーツ⑥
支店メンバー四人がソファーに座り液晶ディスプレイの画像に見入っていた。
そこには地図と建屋が表示されている。
「パワードスーツの件だが確度の高い情報が上がってきた」
佐々木はノートパソコンを操作して画像数点を追加した
「この画像は量産型パワードスーツの部品と思われる写真だ、AIによる画像マッチングも九十八%一致している、本部では以前から光異能者をWebに潜らせ、鹵獲したパワードスーツのあらゆる部品番号をさらったところごく平凡なパーツのみ一致を確認した」
「個人や機密性の高い部分も潜らせたんですか」と御剣。
「光異能者に潜れない場所などない、それも痕跡も残さずにだ、しかし今回あまりにも成果が上がらなかったため画像そのものも当たらせた、これが困難な作業でな、AIも導入したが雑音が高くこの数点の画像しか上がらなかった、おそらくスタンドアローンでデータを管理して、ごく古典的な紙媒体でのやり取りで工程管理をしているのだろう」紙媒体を特に強調して佐々木が答える。
「それで、その数点の画像は、出所はどこです」霞が佐々木に問いかける。
「愛知県豊田市だ、地図と画像はその豊田市のものだ、豊田市はタヨト社とその関連企業が過密と言っても良いほど集中していてな、部品ごとに分けて隅の方で作業をさせても誰も気が付かん、作業者さえ何を扱っているのか知らない可能性さえある」
「じゃあ自動車工場で部品を制作して豊田市のどこかでスーツの形にしているってことですか」堀田が驚いたように聞いた。
「そこが難しい所でな、書面でスーツの発注が来ると何点かに分けて送付し、受け手側で組み立てている可能性も考えられている、だが試作試験などは必ず行われていると言うことで的を絞ったのがこの建屋だ」と、佐々木
「え、通常の建屋に見えますがどこが違うんですか」と緑川。
「うむ、まず完成した時期だが、君たちがパワードスーツと接触した時と建設が一番近い建物がコレなのだ、さらに周辺地域の建屋より壁面が頑丈で、監視カメラの数も多い、付け加えてタヨト社のデータベースには記載されていなかった建物がこれだ」佐々木が画像を指す。
「タヨト社内部も騙していると言うことになると」霞は建屋の画像を指さして言う。
「その可能性がある、社内のあるグループがスーツの制作プロジェクトを勝手に立ち上げたと言う線だ」佐々木は空中を指さす。
「無茶な、さすがにイントラネット操作で気付く人物がいるのでは」霞が指摘する。
「自動車部品は約一万点以上になる、隣の部署が何をしているのか、何の図面なのか知らないなどと言うことは容易に起こりえる、さらにこの企業では機密漏洩を危惧して、未だに紙で管理をしている部署が少なくない、書庫の鍵もバイトが管理している可能性さえある、差し替えは容易だ」と佐々木。
「で、いつ掃除に入るんですこの話をすると言うことは俺たちが行くんですよね」堀田が手を頭の後ろにまわして発言する」
「今回の掃除は沖縄を除く関東以西の全支店が当たる、大掃除だな」
室内にざわめきが漏れる。
霞たちは地下鉄鶴舞線に揺られていた。
「東京ほど混んでねぇな」と堀田がつぶやく。
「ち、地下じゃないですねこれ」
「どうも途中から路線が切り替わっているみたいだね」異図を見ながら霞が答える。
「豊田って言うから都会を想像していたんですが、なんだかのどかですね」御剣は車窓から景色を見ている。
豊田市駅で下車して辺りを見回す。
「自動車のモニュメントとかあるかと思ったけど何もないな」堀田が階段を降りながらつぶやく。
駅前は良くある地方都市のそれで、にぎやかでもなく殺風景でもなくと言う具合だった。
霞たちは指定された立体駐車場に入り「大阪公衆衛生局」のバンを探した。
ほどなくバンが見つかり、近づくと助手席のドアが空き「何支店さんですか」と運転手が聞いてくるので、池袋支店と答えると「どうぞ」と声があり全員中に乗った。
程なくバンは発車し運転手は何事か無線連絡をしている。
「田んぼと畑だな、でも所々工場があるか」堀田は窓の外を珍しそうに眺めている。
「豊田市と言っても奥まで行けば山の中のような市らしい、吸収合併して巨大化したんだろう」霞が異端で何か調べている。
しばらくすると前方に「大阪公衆衛生局」の車両が二台見えてきた、後方にもいつの間にか同じ車両が走っている。
しばらくすると小高い丘の上に写真にある建屋が見えてきた。
「目的地に到着します」運転手が言うと全てのバンが工場横に停車した。
堀田が最初にバンから降りて次に緑川と続いて行く。
他の車両からも続々と異能者が降りてくる。
堀田が先頭を歩き警備員に声をかける「岡山の総社市の件で聞きたいことがある、と工場長に知らせてくれ」
「細かい御用件はどのような」と警備員が答える。
「岡山の総社市の件、これで工場長わかるから」堀田は同じことを言った。
ただ事ではない様子に警備員は電話をかけて何事かやり取りしている様子だ。
やがて「中へどうぞ」と警備員が壁内へと案内する。
異能者全員がそれに続く。
作業着を着た数名がそれに気付き驚いた顔を見せた。
建屋の中に入ると初老の男性が作業着にネクタイ姿で立っている。
「私が工場長の瀬見川です、どういったご用件で」
明らかに狼狽している。
堀田は二枚の写真を取り出して瀬見川の前に突き出した。
「これ、聞いてるよね、ここ映っているの銃ね、俺の肩に当たったんだわ」堀田は凄みを利かせる。
「そのようなことは聞いておりませんが」
「じゃあもっとわかりやすく言うわ、お前んとこ対異能者用パワードスーツ作っているだろ」堀田がそう言うと、霞は工場内を覆うシートを引きはがし始めた。
他の者もそれに続く。
やがてパワードスーツが何事かの検査にかけられているのが見えた。
「おじさん、あるじゃないですか、正直に話してくださいよ」霞がスーツを指さすと、堀田が左手に電撃を浮かべた。
「い、異能者」瀬見川は後ずさりする。
他にも何名かが自分の異能を手に浮かべている。
周囲には作業服の人間が集まってきており、驚きの表情を浮かべている。
「はい、スーツを制作しております」と瀬見川。
「反社に流した」堀田は確信となる話を聞く。
「は、はい」瀬見川は観念した様子で頭をたれている。
「じゃあ、あんただけで良いわ、来てくれない、ここの連中は医療機械とか土木用とか説明してるんでしょ」堀田は親指で外を指さす。
瀬見川は頷いて堀田に肩を固められながら「大阪公衆衛生局」のバンに乗せられた
全員唖然とした様子でまた建屋の外に出た。
「掃除は終了、解散ですよ皆さん」堀田は道化じみて両手を広げた。
「ねぇどういうことですか」御剣が霞に問う。
「俺もさっぱりです、とにかく帰れるんでしょう」
霞は「大阪公衆衛生局」のバンに乗車した。
全員が納得できないと言う空気の中、堀田は「帰ったら支店長に聞け」とだけ全員に言い残して、バンに入って行った。
「わ、わけを話してください」緑川が堀田に聞く。
「佐々木さんに報告するまでまてよ」堀田はそう言って面白そうに笑った。
釈然としない空気の漂う支店メンバーは、池袋支店に戻ってきた。
「戻りました」堀田が佐々木の部屋をノックし、中に入る。
「指示された通りのことが起こりました」堀田がソファーに座りながら佐々木に言う。
「うむ、無事ならそれでいい」
「あのあの、何の説明も聞いていないのですが」と緑川。
「そうですよ、てっきり銃撃やパワードスーツでの攻撃があると思っていたのに」御剣も続く。
「冲田さん、ですね」霞は苦笑いしながら佐々木に問いかけた。
「そうだ、冲田さんの指示だ、まず報告をあげたら本部に呼ばれてな、おそらく反撃も銃撃もないと言われてな、さすがに私も狼狽したがな」佐々木は呼吸を置く。
「冲田さん曰く現場のトップは白くなければならない、あくまで公共福祉に寄与した活動だと思わせること、だから武装はない、作業員は作業土木用のスーツと完全に思い込んでいる必要がある、すなわち危険は少ないと判断する、そう言われた」
「さすが冲田さん」と霞。
「で、ではあれだけの人数を集めたのは」緑川が問う。
「威嚇だ、あれだけの数の異能者が行けば観念する、次に危険な掃除になった場合だ、これに対応する意味が強かった。
「なんだか拍子抜けですね」と御剣。
「それだ、我々掃除屋は拍子抜けするような案件が多ければ多いほど良いのだ」
佐々木はにこやかな笑顔でそう言った。




