75 テロリスト④
池袋支店が爆破され、支店メンバーが無期限自宅待機となって一週間が過ぎた。
霞が駅前に出るのには必ず「ニコニコ人材センター」の前を通らなくてはならないので、かれはそれを迂回する形でしんいち食堂に向かった。
「しんいちランチ」を食べていると、客の中には「ガス爆発ではなくてテロだ」とするものや「何もない所だからガス爆発じゃないのか」と言う者が大きな声で話しあっていた。
気分がそがれたのでおかわりはせずに会計に向かった。
「あら、おかわりいいの」と店のおばさんが聞いてくるので「調子が悪いから」と返して店を出た。
しばらくすると異端に着信があり「異共」のグループ会話の所に佐々木からのメッセージが入っていた。
「本日十九時リーダス池袋ビジネスセンター四階の二〇五に集合」
との内容だった。
霞は部屋に戻り、瞑想を長い時間をかけて行い、エネルギーバーを数本食べ、駅前の「リーダスビジネスセンター」に向かった。
目的の部屋をノックすると佐々木の声が聞こえたので中に入った
中には横浜支部の菅藤と東雲、他には見たことない男女がいた。
「あっ霞君、久しぶりー」と手を振っている。霞も手を振り返すと、菅藤は霞の方をジッと見つめていた。
(例の決闘の件をまだ根に持ってるのかな)霞は苦笑いをして菅藤の前に当たる席に着いた。
程なくして池袋支店のメンバーも全員揃い、佐々木が声を出した。
「今回の池袋支店の爆破事件では一人の犠牲者が出た、まずは黙祷をささげよう」
佐々木の開口一番、全員が下を向き目をつぶった。
その時前の席に座る菅藤のバックパックに何か大きな光るものが見えた。
(ああ、クセで電視を使っちまったか、にしてもなんだ、けっこうでかいぞ)細かく見て行くと何かコードと四角いパーツがこまごまと光っているのが見えた。
「霞君、もう黙祷はいいぞ、居眠りじゃないのか」と佐々木の笑い声が聞こえ、その場が和やかになった。
「ノートパソコン一台あればまぁ取りあえずの仕事は出来るからな」と佐々木はノートパソコンを開いてこちらに向けた。
「正直に言えば、何の進展もない、証拠と言えるのは犯人の動画こっきり一つだ、それもマスクと帽子でほとんど顔が分からない状態だ」
佐々木はその後、他の支店のチェック状況やそれぞれ二十四時間体制で異管の者が待機していることなどを話し出した。
霞は先ほど菅藤の鞄の中に見えた光るものが気になり、もう一度「電視」を使い精査してみた。
つぎの瞬間、霞は右手を伸ばし水糸を菅藤の首に絡ませ電撃を流した。
菅藤は椅子からずるりと床に崩れ落ちた。
「菅藤君!ちょっと霞君何で異能使うの」東雲は叫び、それにつられるように横浜支店のメンバーが怒りの声をあげた。
その間、霞は東雲の後ろを通り菅藤のバックパックを持ち上げて机に置いた。
「ちょっと、本当に何なの霞君」東雲は本気で怒っているようだ。
それに耳を貸さず霞はバックパックを開けて中の物を取り出し、机の上に置いた。
全員がぽかんとしている中で霞が声を出した「爆弾ですよ、コレ、でも大丈夫ですよ、カウントはしていない」
霞が言い終わるとほとんどの者が壁沿いに避難する。
佐々木、堀田だけはそのままの体勢であり、堀田に及んではニヤニヤ笑みを浮かべていた。
「電視でしょ、霞君」
「良くわかったな堀田」
「そりゃあ師匠と弟子だもんよ」
とやり取りする。
「つまり、爆弾を仕掛けたのはコイツと言うことだな」佐々木が静かに言った。
「嘘、菅藤君がそんなこと」東雲は倒れ伏している菅藤を抱き起そうとした。
「東雲、ソイツの上着のポケットに異端ともう一つスマホがあるから取り出してみろ」
そう言われて東雲はおそるおそる上着のポケットから異端と白いスマホを取り出した。
「その白い方を何かよからぬことに使っているんだろ」霞は指さした。
「私たちは通常のスマホを使えないはず、登録しようとしてもハジかれるんでしょ」
横浜支店の女が声をあげた。
「そんなのどうとでもなりますよ、代理購入とかちょっと怖いお兄さんにもらうとか」
場は静まり返る。
「実はな、冲田さんも私たちも内部の犯行ではないかと少し疑っていたのだ、特に冲田さんは話を聞いた時点で内部の犯行だと返して来たそうだ、図らずも実証されたわけだ、いま爆発物処理班と回収を呼んだじきにここに着くだろう」佐々木は冷たく言い放った。
「動機は、動機は何でしょう」東雲は震えながら言った。
「東雲さん、動機なんてどうとでも与えることが出来るんだよ、コイツもまぁそうだね、踊らされていただけとかそんな所じゃないかな」霞は東雲を見つめて言った。




