72 テロリスト①
支店にある佐々木の部屋では、液晶ディスプレイに炎上している建物の画像が三枚映し出されている。
「君たちは十年前にあった交番連続爆破事件を覚えているか」佐々木が画像を示して話し出す。
「私は小学生だったので、お、覚えていませんが知識としてはあります」緑川はすまなそうに発言した。
「俺は事件自体知らないです」堀田が画像を見つめながら言う。
「私は覚えています、両親が騒いでいたので」御剣は知っているようだ。
「事件の知識はあります」と霞。
「ふむ、まぁそんなところか、このテロはな、赤い薔薇と称される極佐組織でな、前身となる組織は軽井沢静寂荘立てこもり事件を起こした輩だ、全員検挙とはいかず何名か取り逃がし、地下に潜りメンバーを集めて再起を図っていたらしい、そのリーダー増田浩二は東南アジアに一時的に身を潜めていたのだが先日身柄を確保され、近日中に帰国させる予定らしい」
「こうして四人が集められたと言うことは、異能絡みと言うことですか」と堀田。
「そうだ、だが問題があってな、交番爆破と言う件と警察が躍起になって捜査して、確保も警察がした、そのように警察が大掛かりにかかわった事件だからな、異管はこのヤマには首を突っ込むなと警視庁からお達しがあったそうだ、だが冲田さんは必ず異能者が絡んでくると考えていてな、なかば強引に異管を押し込んだのだ」
「強引に、どういう立場で動けば良いのです」霞が発言する。
「空港警備も何もかも警察の権限なので、見学と言う立場での立ち回りになる。
「見学、どういう風にですか」御剣が発言する。
「警官隊、機動隊の後方で突っ立っていろと言うことだそうだ」
「ほ、本当に見学ですね」
「警視庁はかたくなでな、これでもかなり無理を通したのだと冲田さんは言っていた」
「小学生の社会科見学かよ」堀田は渋い顔をしている。
「しかし、だ、異能を使用するな、とは言われていない見学していたらたまたま異能者が現れたと言うことがあれば、そこは我々の管轄だ、釈明はどうとでも言える」
「いつも通りやれと言うことですか」霞が佐々木に尋ねる。
「まぁそうなるな」佐々木は霞の方を見つめて言った。
「どういう経路で、せ、攻めてくるのでしょう」と緑川。
「いつも通りとは言ってもこちらには一切情報が無いのが不安ですね」御剣がこぼす。
「何でも大きなテロ組織なんだろ、そんなの異能者がいるに決まってるだろ、警察はアホなのかね」堀田はあきれた様子でつぶやく。
「面子、過去のしがらみ、感情論、そう言ったものが大きいのだろう」霞は堀田に言った。
そこで話は途切れ、支店の前からそれぞれ家路についた。
一週間後、霞たちは羽田空港にいた。
羽田空港は一時的に閉鎖され、空港機能も全面停止、報道も締め出されている。
「警官だらけじゃん、これはこれでなんとかなるんじゃねぇの」堀田は滑走路を眺めて言った。
「はぁ、何度もお前らどこの管轄だって睨まれるのは嫌ですね」御剣は首から下げた札を取って言った。
そこには「特別警備許可証」と文字が記されている。
しばらくすると一機の飛行機が遠くに見えてきた。
「あれか」と霞。
「でしょうね」御剣が答える。
やがて滑走路にドスンとその機体を降ろし、飛行機は減速し警備の前にそろそろと近寄ってきた。
完全に停止するとタラップが接続され、しばらく後にドアが開きスーツ姿の男二名が最初に降りてきて、続いてよれたジャケットを着て、手錠をかけられた増田浩二が、後ろを警備していると思われるスーツ姿の男が二名タラップを降り始めた。
その刹那、轟音と共に空港建屋が爆発炎上した。
増田は手錠を前の男の首に絡みつけ、同時にその男のジャケットの内側から拳銃を取り出し頭に付きつけて走り出した「この男が死ぬぞ」と叫んでいる。
警官隊も機動隊も爆発で気が動転しており、増田をどうにかしようと行動した者はわずかだった。
増田は自分を輸送するために用意されていたヘリに乗り混もうとすると、同時にヘリの中から警官隊に向かって火炎が数発噴き出した、警官隊は炎に包まれ阿鼻叫喚の地獄絵図である。
火炎の次はコンクリート壁が立ち上がりヘリを覆う。
霞たちは爆風をモロに浴びて吹き飛ばされ、コンクリートに叩きつけられていたが、霞は何とか立ち上がりヘリを見るともう飛び立とうとしていた。
(警官隊が邪魔で水糸が出せない)
そうこうしているうちにヘリはどこかへと飛び去って行った。
「操縦士と副操縦士、火と土の異能者だぜ、完全にしてやられた」堀田が地面に座り込みつぶやいた。




