70 光の涙③
御剣はドリンクを飲みながら、霞に話し掛けている。
「だからですね、CCDはすごいんですよ、ありそうな未来と言うのか政治と戦争を絡めたと言うのかですね」
御剣は自分の好きなゲームの話を熱く語っている。
彼女の好むゲームはFPSと呼ばれる一人称視点のゲームで、その中でも人気が高い「コールコールデューティー(CCD)」と呼ばれるミリタリーゲームである。
「だからですね、マクメラン大佐と、ブライズ大尉がもう最高なんですよ」御剣がろれつのまわらないしゃべり方をする。
彼女は下戸であるが、間違えて出されたアルコール飲料を飲み酔ってしまったのである。
「なるほど、それでどう最高なんですか」霞が半笑いで答える。
「狙撃、狙撃ですよ、あと観覧車のステージが熱くて」
(まずいな、今日は光の涙の聞き込みに来たのにこれじゃ話にならない)霞が御剣から視線を外すと、カウンターにいたドレスを美しく着こなした女性と目が合った。
あまり品の良いバーではないのでかなり目立つ存在だ。
男たちも気にはなっているが手を出しあぐねていると言った雰囲気になっている。
「気持ち悪いです、柊さん」と御剣が口を押さえているので、霞は慌てて御剣をトイレに誘う。
げんなりした顔で霞がテーブルに戻ると、先ほどのドレスの女性がそこにいた。
「あの、何か御用ですか、俺、連れがいるんですが」霞は驚いて話し掛ける。
「用があるのはあなたたちだと思いますよ」彼女はそう言ってほほ笑む。
「どういう事です」霞が疑問符を投げかける。
「光の涙」女性はそう言って笑った。
「その光の涙がどうしたんです」霞の頭が覚醒する。
「救いをお求めならこちらへ」そう言うと名刺を差し出して去って行った。
(いま処理した方が良いのか、泳がせるべきなのか、どっちだ)霞は判断しあぐねていたが階段を登り通りに出た。
見回してみるとさっきの女性は影も形もなかった。
「クソ、判断を誤ったか」
霞がそう言っていると後ろから声がかかった。
「あんた勘定はらってよ」とバーテンが睨んでいた。
「ああ、すまないすまない、知り合いに似た女の子がいたから追っかけてさ」
「女連れで女追っかけるとはいい身分だね」とバーテンはニヤリと笑った。
テーブルに戻るとまだ御剣は戻っていなかった。
トイレまで見に行くと入ってすぐの所で寝息を立てている。
「あーあ潰れちまったかぁ」と言いながら霞は御剣を抱き上げて店の隅に座らせた。
「マスター勘定」そう言って金を支払い御剣を背負って店を出た。
駅前の「ドニーズ」に入り御剣を椅子に座らせる。
霞はピザ、ドリア、ハンバーグセットを注文した後、胸ポケットから名刺を取り出してテーブルに置いた。
名刺には「光の涙」と書かれており電話番号も記載されている。
(罠のたぐいか、全く身構える様子もなく向こうから接触してきた、しかし向こうからの接触を待つと言うのが今回の流れ、成功したと言ってもいいんじゃないか)
腕組みしながら名刺を見つめていると、店員が注文の品を運んできた。
取りあえず端から手を付けていく、バーではほとんど何も食べていなかったので腹が減っていた。
最後のハンバーグセットに手を付けたあたりで御剣が目を覚ました。
「あれ、どこですか、私達バーにいたんじゃ」
「御剣さんが寝てしまったので、とりあえずドニーズに連れてきました。
と霞は租借しながら言う。
「えっ、すいませんすいません、私覚えてなくて、ご迷惑をおかけして」
と頭をさげている御剣の前に例の名刺を差し出した。
御剣はしばらくぽかんとした後「これって」と叫んだので霞は口に人差し指をあてた。
「これって光の涙の、名刺なんですか」御剣が名刺を裏返しながら聞いてくる。
「わかりません、バーにいた女性が接触してきて、コレを出して去っていきました、突然のことで迷っていて取り逃がしましたが」
しばらく考える風を見せた御剣は「いえ、これで正解だと思います、急がばことを仕損じると言いますし」と霞に答えた。
「今すぐ佐々木さんに連絡しますか」と霞が御剣に尋ねる。
「いえ、もう遅いですし明日一番で支店に集合しましょう、これは柊さんが持っていてください」
そう言うと御剣は「光の涙」の名刺を霞に手渡した。




