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7 懊悩

座学を終えた霞はよたよたとした歩みで、自室に戻ってきた。


ベッドに腰かけ床を見つめている。


「死ぬってことか」


佐藤の言葉と態度からそれは理解できた。


そのまま彼は思考に沈んでいった何分経過しただろうか。


「水の異能とにかく...強く...死なないように死なないように死なないように」


喉奥から洩れる嗚咽のような言葉だった。




気が付くと昼食の時間になっていたので食堂に向かった、猛烈に何か食べたかった。


カウンターでトレイをもらい器にこれでもかとご飯を盛り付けた。


そのまま空いている席に座り飯をガツガツと食らった、最悪な気分だったはずなのに飯はうまくどんどんと食が進んでいった。


「おつかれー、座学どうだった?楽だったでしょう」


東雲香里シノノメカオリだ。


香里はガガっと椅子を引き出してぽんと座り込んだ。


「座学は楽だったけど、半異のハンデを教えられて腐ってたよ」


「ああ...そうだったね、忘れてたよ半異の特性を、ごめんね」


「いいさ、それはそれで自分の腹をくくったような感じだよ、だからこうして大食いをしているところだ」


「そっかー、食べるのはいいね、幸せになれるよ」




香里は霞にならうように飯をガツガツと食べ始めた


「ふむほふふ、まにぇ、まねしてガツガツ食べております」


「ふふっふふふふ、勇気づけられるよ、君はいい娘だな」


そう言われた香里は下を向いてしまった。


霞は高校生の頃に親しくしていた女友達を思い出した、恋人ではなくただの友達、しかし馬が合って一緒に下校したり公園でスマホゲーをする、そんな間柄だ。




香里と別れてトレーを棚に置くと、自室に戻りすぐ歯磨きを始めた。


(実習だ実習、そこから始まるんだ)


自室に戻った霞は午後はなにをするべきなんだと椅子にもたれて天井を見つめていた。


その折にアナウンスが聞こえた。


「柊霞さん、柊霞さん、第三研究室までおこしください」


(やれやれちょうど図書室に行こうと思っていた時にこれか、研究室って確か別棟にあったよな)


パンフレットをめくり研究室棟を調べ第三研究室の場所をつきとめそこに向かった。


第三研究室には「山田」とプレートが表示してあった。


(山田ってあの山田太郎おじさんのことか、二度と会いたくないと思っていたが)




「柊霞です、入ります」


霞はそう言ってノックをし扉を開ける。


「よく来てくれたね、調子はどうだい」


「飯はうまいね、ベッドも良い、これも税金?」


と霞が問いかけるとそれを言うでないと山田は返して来た。




「それで何の用で、解剖でもするのかい」


「君はどうも私にはキツくあたるね、そんなことはせんよ、これだよ渡すものがあるんだ」


そう言って山田はトートバッグを霞に手渡した。


中を見ると霞が今着ているスーツと同じものが畳まれて入れてある。


他にも冊子が入っていた。


「分かると思うが一つは君のスーツの着替え、もう一つは明日から君が参加する実習に関する概要だ、プログラムが書いてあるから漏らさず全部読みたまえよ」


「着替えって今着ているのはどうすりゃいいんだ」


「そのバッグに入れて部屋の前に置いておけば係の者が回収するよ」




夕闇が迫るまで霞は図書室にいた、以前よく読んでいた「ギアーゼ」と言うアウトドアギア専門の雑誌があったのでそれを読んでいたのだ。


食事の時間となり食堂へ行き香里と夕食を取りその後風呂に入った。


(風呂は良いよな...とてもいいデカい風呂も良い)


そのようなことを思いながら霞は、明日の実習に向けて足をもみほぐす。




「よぉ霞君、キミけっこう良い身体してるね、となり入っていーい」


斎藤寛治サイトウカンジだ。


「おれはノーマルだぞその気もない」


「はははっそんなんじゃないって親睦親睦、香里に聞いたよ座学で落ち込んでるんだって」


「そうだよ...死ねって感じのことを言われたさ」


「...ワリぃ、デリカシーなかったな、香里とさぁ佐藤のおっさんに霞君のこと聞きに行ったんだよ、そしたらプライバシーだって何も教えてくれないでさ、まぁそうなんだけどさ、だけど(半異のことをもっと調べてみろ)って言われて調べてさ...まぁなに?ううん...大変なんだなって思ってさ」




香里と言い寛治と言いなぜこうも人が良いのか、異能としてここに囲われいずれは反社会勢力と争わねばならないのに、この状況で。


霞はそんなことを考えた後風呂を出て、明日の実習のために早めに床についた。

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