69 光の涙②
池袋のウニクロで服を見繕っていた霞の異端に着信が入った。
霞はショップのカゴを置いて異端に出る。
「はい、柊です」
「霞君、支店に来てくれ、急がなくても構わん」佐々木はそう言うと通話を切った。
取りあえずかごに入れてあった服をレジに通し、紙袋に畳んで入れた後に店を出た。
「失礼します」霞がそう言って佐々木の部屋に入ると堀田がソファーにだるそうに腰かけていた。
「他の二人もじきに到着するだろう、話しはそれからだ」佐々木は腕を組んでいる。
「よぉ霞君、お買い物の最中だったのかい」堀田がウニクロの紙袋を指さして言う。
「ああ、佐々木さんも急がなくて良いと言うから買ってからここまで来た」
そのような話をしているうちに、緑川、御剣、の順で入室してきた。
「よし、揃ったな、話しは光の涙の一件だ、結論から言うと脳には確かにチップが埋め込まれていた、十円チョコレートほどの大きさだな」佐々木は背後にある液晶ディスプレイを指す、そこにはチョコレートと並べられた電子回路が詰まった物体があった。
「取り出すのは比較的簡単だったそうだ、だが問題は取り外すとどうなるかなのだが、昨日の今日では特に変化は見られなかったらしい、所見としては脳内物質をコントロールする装置で、外してもまだしばらく脳内物質が出続けている状態らしい」
「これで俺たちの出番は終了ですね、異能者ではなくチップのせいだったわけだし」
「ところがそうではない、私も当然そうなると思っていたのだがな、警察側は一度預けた案件はこちらで続行しろと言ってきた、勝手に渡して来たのに返すと受け取れません、反社の手口と一緒だな」
「俺はこのまま続行するつもりでした、どのみちチップを見抜けるのはCTスキャンか電視だけです」
「それで、他に分かったことはありますか」御剣が発言する。
「あくまでも推測の域を出ないが、被害者は強引に連れて行かれたわけではないそうだ、つまりキャッチのような役割をこなす人間がいると言うことで、それは警官二人があっさりと被害者になったことが根拠であるそうだ」
「本当に推測の域を出ないですね、しかし功徳を積み他者を幸せにする僧侶が、穏やかに教えを広めるように、頭の中にガラクタを詰め込んで中毒者を救うと考えている奴らがいるとすれば、暴力や強引さを軸にして活動しているとは考えにくいかもしれませんね」霞がそう発言する。
「なるほど、面白い例えだ」佐々木は指で顎を触っている。
「じゃあ何のためにこんなことをするんです」御剣が誰ともなしに訊ねる。
「本気で人を救う気でいるのでしょう、純粋な純粋な善行なんですよ」霞が静かに言葉を発した。
「で、ではどう言う手段で掃除するんですか」緑川がもっともな意見を言った。
「聞き込みだ、中毒者が出入りしそうな店で、光の涙を知っているか聞き込みを徹底するのだ、そうしていれば恐らく向こうから接触してくるだろう」と佐々木。
「接触したらどうすれば良いでしょうか」御剣がその先を問うて来る。
「まずは接触だけにして、連絡先や接触方法を聞き出すのだ、危なくなったら異能を使え」佐々木はそう指示してきた。
四人は支店のそばにある公園で輪を囲んでいた。
「どれも推測ばかりの掃除だな」堀田が空を仰いで話し出す。
「私は、ほ、本当に拉致や誘拐が無いのか不安で仕方ないです」緑川がそう発する。
「私も同意見です、確度が低すぎます」御剣も賛同する。
「あんなことを言いましたが俺も推測でしか考えていません」霞がすまなそうに口にした。
「下手な異能者相手よりも嫌な掃除だぜ」そう堀田がこぼす。
「明日から聞き込みで、失踪した中毒者が出入りしていた店をマークするか」
霞が手を握り込んで呟いた。
「じゃあ今日は解散と行くか」堀田の一言で皆家路についた。
霞は部屋に戻ると上着を脱いで座禅の体制を取った。
(口八丁手八丁で取り込んでくる光の涙とやらに対抗するには、精神面の強さが必要になるだろう、師匠のような凪の精神をもっと強く持たなければ)霞はしばらく座禅をした後で、イメージトレーニングを長くこなした。
汗が噴き出ているのでシャワールームに入って体を洗うと、スウェットに着替えてベッドに入った。




