68 光の涙①
「今回の案件は警察から渡されたものだ、つまり異管でなければ対処できないことだ」
佐々木は背後に液晶ディスプレイ出現させる。
何名かの顔写真が映し出される。
「マトリが捜査をしている最中に、麻薬中毒者と思われる人物の失踪が増加しているのを発見した、同時に行方不明者が見つかり、念のために聴収したところまるで別人のようになっていたと言う奇妙な案件が浮上してきた」
「まるで別人とはどのような」御剣が声を出す。
「うん、話の肝はそこだ、妙に明るく薬物をやっている痕跡もなく、ゴロツキだった者が職業訓練校に通っているといった具合だ、そして全員が共通して光の涙のおかげで人生が変わったと話していたそうだ」
二名の男の画像を指し「結果的に言うと光の涙の捜査を担当していた二名の捜査員も、光の涙のおかげで人生が変わったと警察を退職したそうだ」
「宗教かなんかですか、洗脳されたってことで」堀田が腕を組みながら発言する。
「うむ、当初はそう考えていたのだがな、専門家に見せるとどうもそうではないらしいと言うことが分かった、そこで話は警察の上部まで行き、捜査員を取り込まれたのでは手が出せないし、これは未発見の異能ではないかと結論付け、冲田さんの所に話が回されてきたと言うことだ」
「洗脳の異能ってことですか、あり得るんですか」霞が質問する。
「無くはない、程度の話しだが異能にはまだ未発見の部分が多い、霞君、君が二つの異能を同時に展開できるようにな」佐々木は霞を指さす。
「じゃあ俺らも洗脳される可能性もあるってことじゃないですか」堀田が指で頭をつつきながら言う。
「それでも、それでもだ、君たちは掃除をしなければならない」
沈黙が続く中霞が声をあげる。
「とりあえず、その洗脳されたとみられる人たちに会うことはできますか」
「あ、ああ、出来るがもう何も出てこないと警察は言っているぞ」佐々木が霞に答える。
「俺たちは異能者ですよ、違う視点で見ることが出来ますから」霞は少し笑った。
霞たちは東京湾岸警察署に一時拘留されていると言う元麻薬中毒者に会うために「東京公衆衛生局」のバンに揺られていた。
「確かに俺たちは見て来たものが警察と違うしな、別の視点に切り替える必要もあるな」と湾岸沿いを見つめながら堀田が言う。
「私はあまり自信ありません」と緑川。
やがて比較的大きな建物が見えてきて、ローマ字で東京湾岸と書かれたのが目に入った。
バンを駐車場に停め自動ドアから入ると担当者とみられる男がすでに待ち構えていた。
「あなたたちが名前が無い部署の人たちですか」と声をかけてきたので、そうだと返答する。
「とにかく早くその男を見せてください」と霞が前に出る。
担当者は狼狽したものの、取調室に案内した。
マジックミラーの向こうではスーツ姿の男二人が談笑している。
「どっちが元薬中なんですか」と堀田が訊ねると担当者はムッとした顔で向かって左側の男を指さした。
「霞君、左だって」と堀田が指さしながら言うと霞は目を閉じていた「聞かなくてもわかるよ、左の男、頭に何か入っている」とつぶやきこう言った「堀田も見えると思うぞ、電視だ」
ハッと気づいたように堀田も目を閉じて声をあげる「ほんとだ、なんか光るものが頭に入ってる」
他の三人は狼狽しているが、霞は担当者に声をかける。
「あの人を脳のCTスキャンにかけてください、多分何か電子部品とか回路のようなものが入っています」
担当者はその場で電話をかけ、何事か話している。
「上の方に伝えました、他に何をすればいいですか」と聞い聞いてきたので霞は何もないと返答して退室しようとすると、担当者は慌ててドアを開けた。
そのまま四人の支店メンバーは東京湾岸警察署を後にして「東京公衆衛生局」のバンで支店まで戻り、佐々木の部屋に入室した。
「で、どうだったかね、やけに早かったが」と佐々木は手を握り込みながら四人に聞いた。
「バッチリですよ、頭に異物が混入されてますよ、多分それで脳をなんか、こう、洗脳してるんじゃないかと」堀田は空中でくるくると人差し指を回して答えた。
「柊さんが気付いたんです、頭の中に何かあるって」と緑川。
「ほう、なぜわかった」
「電視のスキルです、脳の中にある異物がはっきり見えました」霞は佐々木の方を向いて話す。
「そうか、例のスキルか、しかし事前に分かっていたような態度だったが」佐々木は疑問符を投げかける。
「うーん、映画なんです、昔見た映画で、亡くなった女の子の脳に回路を埋め込んで蘇らせるチープなホラー映画を思い出して」霞がそう言うと、その場の空気が妙な感じになった。
「霞君、そんな映画見てたの」と堀田が言う。
「昼過ぎの映画でさ、ボーッとしてたら流れて来て、そのまま最後まで見ていたんだ」
「昼間からそんな映画流しているんですか」と御剣が微妙な顔をして聞いてくる。
「まぁまぁ、その映画のおかげで一つ解決したんだ、喜ぶべきことだろう」
佐々木は軽く手を叩いてそう言った。




