66 土異能
「支店」の一室で、霞と御剣はソファーに座っていた。
佐々木が液晶パネルを背に何事か話している
「と言うわけで今回の掃除はこの、カチコミを阻止することにある」
「ヤクザどうし潰しあってくれた方が世の中平和なのでは」
「霞君、世の中そううまくはいかんのだよ、カチコミが成功するか誰かが死ぬかすれば均衡が崩れ、抗争状態になる、そうなると市民の安全が脅かされる」
「銃器などの武器を扱う組織に金が流れることになって良いことは一つもない、ですね」と御剣。
「その通りだ、だからカチコミを阻止して均衡を保たねばならん」
「丸ごと潰してしまうのはダメなんですか」
「そこが頭の痛いところでな、一つ潰してもまた別の反社が顔を出してくる、そう言う手合いは前に仕切っていた輩よりもタチが悪い場合が多い。
そう言って、レーザーポインターをくるくると回した。
霞と御剣は「ニコニコ人材センター」の前で会話している。
「カチコミなんて漫画か映画でしか聞いたことなかったですよ」と霞。
「たまにあるんですよ、最近は外国人も顔を聞かせていますし、いわゆるシノギに影響するからだそうです」
「御剣さんよくご存じですね」
「掃除屋を初めて三年目ですからね、先輩ですよ、先輩」
「じゃあ、今回の案件はお任せします」
「先輩であると同時にバディですから、共同作業です」
「わかっています」
二人は笑って歩き出した。
翌日の二十時ごろ、護国寺の繁華街から離れた場所に二人はいた。
目標がカチコミをかける事務所「閑々工業」を見渡せる、コインパーキングの敷地内に二人で座り込んでいた。
そばにはアルコール飲料の缶が何本か転がっている。
路上飲みをしている男女に偽装するためであり、缶は霞の自宅周辺に転がっていたのを拝借してきたものだ。
しばらくして二人組の男がそわそわした感じで歩いてきた。
「芥を確認」と霞。
「同じく芥を確認」と、御剣が言うと二人は男たちの後ろをついて行く。
男たちが「閑々興行」のそばまで行くと片手をジャケットの中に入れた。
次の瞬間、コンクリートの壁が二人の前に立ちふさがった。
男たちはうろたえている、その隙にと霞が片手を上げようとした時だった。
「てぇ上げて後ろを向け、お嬢ちゃんが死ぬぜ」と声が聞こえる。
霞は両手を上げて後ろを向く。
「カチコミってのは見張り役がいるんだぜ、異能のカップルさん覚えときな」と男が言った。
御剣のこめかみに使い古されたコルトガバメントが付きつけられている。
霞が御剣の目を見ると、力強い目つきで、かすかに顎をさげた。
次の瞬間コルトガバメントはぐにゃりと形を変え男の手を包み込んだ。
「なんだこりゃぁ」
霞もまた、瞬間に振り返っていた。
カチコミをかけようとした二人が銃口を向けてくる所だったが、そのままの形で地面に崩れ落ちた。
水糸と電撃の複合技である。
周囲を確認すると「閑散興行」が気付いた様子はない。
御剣の様子を見に彼女の元に駆け込む。
男は倒れており、手足を鉄で、口をコンクリートでふさがれた状態だった。
さすがに三年「掃除」をしているだけのことはある。
「いま回収に連絡を入れました」
それから一分も経たずに「東京公衆衛生局」のバンがやってきた。
降りて来た白衣の男たちは、てきぱきと男たちを乗せて、そのまま走り出した。
「閑散興行」に変化はない。
「大丈夫でしたか」
「はい、異能を知りさらに土異能だと知りながら、金属を私の肌に触れさせる愚か者でしたので」
「すごいですね、銃口を突き付けられているのに、度胸と言うか」
「少なからずこう言うことがありましたから」と御剣は言った。




