62 救出作戦①
いつもの様に六時に起床した霞は、シャワーを浴びて朝食を取っていた。
すると、異端に着信があり、佐々木と表示されていたため、急いで異端を手にした。
「はい、柊です」
「緊急の掃除だ、出来る限り早く支店まで来てくれ」
そう聞こえると通信はブツリと切れた。
相当なことだろうと、霞は掃除用の服に着替えてバックパックにスポーツドリンクとエネルギーバーを乱暴に入れ。
部屋を出て支店に走った。
支店のドアを開けて佐々木部屋のドアをノックする。
「入りたまえ」と返事が来たので中に入る。
「なにがあったんですか」と霞。
「もうすぐ御剣が来る、話はそれからだ」
佐々木の顔がいつになく厳しい、室内を無言が支配する。
「御剣です」の声とノック音が聞こえると、佐々木がそれに答えた。
「遅くなってすみません」
息を切らせている。
「時は一刻を争う、単刀直入に言おう、米軍からの依頼だ」
「米軍」
霞がそう言うと同時に御剣の顔も、驚きの表情に変わった。
「日本は米国と日米安保を締結している、そのため要請があれば動かなければならない、今回は君たちが動くことになった。
なぜと霞が発言するのを遮って佐々木が続ける。
「今から18時間前米軍の潜入任務中の二名が中東で、捕獲されたらしいとの情報が米国の諜報機関に入った」
「すぐに作戦行動に移すため米軍は作戦を立てたが、捕獲された地域の民兵の村が想定よりも大きなもので、部隊の投入が難しく、また少数精鋭を投入してもまた虜になる可能性が高いと判断された」
「日本と米軍は上の方で常に情報共有をしており、ハァ、これが腹の立つことに我々「異管」の情報も共有されていて、情報が捻じれていてな、忍者部隊のようなとらえ方をされているのだ、ヤンキーらしい考え方だ」
「つまり異能者を投入して欲しいとの、話があったのだ、当然断ったが日米安保を盾に、それと日本と米国との関係性をちらつかせて押し切られた形になったらしい」
「質問良いですか」
「なんだ」
「米国の異能者を使えないんですか」
「君は施設で何も習わなかったのか」
「逃走しましたので」
「そうか、異能者は日本国内でしか確認されていない、最も国外へ出て中国や東南アジアで幅を利かせている者もいる」
「ああくそ、つまり君たち二人に現地に潜入して米兵を救出して欲しい」
「え、何でですか」
「いつもの掃除だ、断れないぞ」
「俺は良いとしても御剣さんは外してあげてくださいよ、それに米軍も何人か出してください」
「駄目だ、米軍は自国の兵より異能者の命を軽く見たのだ、掃除屋はバディで動く、それに宣誓書にサインしただろう」
「してないですよ」
「嘘を言うな、ああ、そうか脱走か」
「施設、を卒業するときに、与えられた掃除は必ず受ける、そうでなければ首枷の爆破だとの内容にサインをするのだ」
「ひどすぎる、異能者に人権は無いのですか」
「そうだ、異能者が確認研究された時点でこの国はそう判断したのだ」
前を見ると御剣が下を向いている。
「じゃあなぜ俺たち二人なんですか」
「冲田さんの命令だ」
霞はあの底のしれない冲田の顔を思い浮かべた。
「東京公衆衛生局」
のバンに二人は揺られていた。
御剣は下を向いたままであり、霞もまた同じように下を向いていた。
だが、霞が下を向いている理由は御剣とは違った、生き延びるための手段を何度も繰り返し考えているのだ。
やがてバンは一度停止し何かのやり取りをしたあと、再度動き出し再び停止した。
「降りてください」
運転手から声がかかり、二人はバンのドアをスライドさせて降車した。
広大な見通しである。
いくつかの飛行機が見える、振り返るとオリーブドラブ色をした、巨大な航空機がそこにあった。
つなぎ服とマルチカム迷彩服を着た外国人二人が近づいてきた。
二人とも霞たちを見て困惑した表情になる。
「救出チームの方ですか」と流ちょうな日本語でマルチカム迷彩の男が言葉を発した。
霞がそうだと答えると、彼は自分とつなぎ服の男の自己紹介をした。
マルチカムの男は通訳だった。
「ついてきてください」
そう言われて霞たちはついて行く。
滑走路に銃を持った米兵と思われる集団に、机と椅子が並べられタブレットやノートパソコン、雑多な布切れや雑脳が置いてある。
通訳の男がサングラス姿の男に何事か話したら、明らかに不服そうな表情を浮かべた。
「民間人を連れてきてどうするんだと不機嫌になっています」
「俺たちは民間人じゃない、異能者だ」
「イノウシャとは何ですか、わかりません」と通訳。
「エスパーみたいなものだよ」
それを受けて通訳がまた話しかける。
サングラスの男がフフフッと笑って何事か話している。
「コミックじゃないのだからふざけていないで、本物を連れてこいと言っています」
「じゃあこう伝えてくれ今見せてやると」
通訳はそれも伝えた。
「御剣さん、見せてやってください壁を」
御剣は、はいと答えてくるりと後ろを向き片手を前に出す。
米兵が銃を少し上げた所で、サングラスの男に制止された。
その時、ゴォンと言う音とともに滑走路の上にコンクリートの壁が大きくせりあがった。
その場が凍り付く
「ニンジャ」「ニンジャ」と米兵たちが声を漏らす。
「これがエスパーの力だ」
通訳が伝える。
「それとおれの力も見せてやる」と霞は、通訳に向かって言った。




