61 引退
支店メンバーが全員揃ったところで佐々木が口を開いた。
「君たちに集まってもらったのは、異能の消失に関しての最終的な結論報告があったからだ」
「どういう事ですか」と堀田がそれに返す。
「そのままの意味だ、と言いたいところだがひとつ歴史のお勉強といこう」
部屋が薄暗くなり佐々木の背後に液晶ディスプレイが現れる。
「まず最初の異能者が発見されたのが1998年のことだ、記録によるとコンクリートを空中と言わず地中と言わず、自在に操作する者あり、との一文からだ」
「そして2000年代になると、その存在が政府内で認知されるようになり、形ばかりだが名前のない部署が設立された、そこで当時の国土交通大臣がその部署のトップに座ることになった。
「なぜ国土交通省なんですか」と霞が問う。
「まぁ当然そうなるな、先に述べた一文をしたためた本人こそが国土交通大臣だったからだ」
ディスプレイに人物像と走り書きメモや写真の切り抜きが表示される。
「彼は1998年当時、工事現場の視察に赴いたとき、用をたそうとトイレをかりに行ったところ、プレハブ裏でコンクリートの塊を両手を上げて操作する作業員を発見した、暫く見ていたがどうやら仕掛けなどが無いらしいとわかると、作業員に声をかけた」
佐々木はレーザーポインターで走り書きを示す。
「会話してみるとここ一年くらいで能力に目覚め、人の目を盗んで使っていることと、誰にも言わないで欲しい旨を話して来た、その後、彼は新聞やゴシップ紙を集め出しこれは、と言うものを記録した、まぁオカルト趣味だったんだろうな」
ふぅと息をつく佐々木。
「そして2000年代、名前のない部署を改編しようとしていたところに当時、国土交通大臣だった彼がファイルを持って現れ、名前のない部署のトップとして配属されたのだ」
話を続ける佐々木が言う。
「そこからの展開は早かった五年もすると、脳波測定方式や、異能分類の類が確立してきた、そこで出てくるのが異能者の活用だった、これは相当協議が繰り返されたらしい、少なくとも公にすることはできない点は一致していた」
液晶ディスプレイの画面が切り替わる。
「その時点で現在の異管と呼ばれる部署が誕生したと思ってもらっていい、全国規模での異能者発見ネットワークが設立され、施設も建設された、だがそこで警察が横やりを入れてきて、異能者を自分たちが扱うと言うのだな、だが当時の総理がそれに反対した、理由は二つの異なる治安維持組織を設立し柔軟に対応できるようにせよ、と言うことだ、理屈としてはしごくまっとうな物だったため、警察はそこで折れたらしい」
佐々木はそこで液晶ディスプレイの画面を拡大した、そこには「異能者の能力における発現と消失について」と書かれたファイルがあった。
「ここからが本題になる、画面を見て欲しいが、ここの一文だ、異能者は十代から二十代でその能力を発現し、四十代初頭には消失する」
全員がざわめく。
「つづけるぞ、これは設立当時の異能者が近年能力を失う事例が多発してきたことに端を発し、対象人物を脳波測定にかけると、設立当時に顕著に見られた反応が一切消失していたと言うのだ、これは全員一致し母数は少ないが百パーセントと言う数字が出た」
「あの、その人たちは今何を」と御剣。
「一部は施設にそのほとんどは各支店にそのまま在籍となっている」
「まさか、掃除させられてるんじゃないでしょうね」堀田が驚きの声を上げる。
「ことが決まるまでは軟禁、と言うことですか」霞が佐々木に問う。
「そうだ、だが現在、可及的速やかに異能を消失した者たちをしかるべき手段で開放することを検討中だそうだ、例えば住居や職場の凱旋、仮身分ともいえる現在の立場からの脱却などが検討されている。
「異能者は死ぬまで管理されるのでは」と霞。
「だがそれが覆される事態が進行中なのだ」
部屋がシンと静まり返る。
そのような中で佐々木が衝撃的な一言を言い放った。
「首枷も当然外される」




