6 座学
電子音が耳につき霞は目を覚ました。
昨晩セットしておいたベッドわきのアラームの音だ。
六時きっかり、もともと霞は早起きな方で普段から六時起きをしていたので身体はすんなり対応してくれた。
部屋を一瞥すると自分が住んでいた部屋とずいぶん違うのに気が付き、自分に起こったこれまでのことを思い出していた。
備え付けてあった洗面具や歯ブラシを持って共同の洗面所に向かう。
洗面所は長方形に長い洗面台に3個蛇口がついていた、手指消毒液と赤い喉消毒液もポツンと置かれている。
共同の設備と言う様子がありありと見て取れる。
彼は洗面と歯磨きを終え、念のために消毒液を手に馴染ませたが、その間には誰も洗面所を利用しに来なかった。皆ギリギリまで寝ているのだろう。
いつも始業ギリギリにオフィスにやってくる同僚を思い出した。
オフィス、同僚、失われたものだ。
ようやく朝食の時間になると彼は急いで食堂へ向かった、配膳コーナーには列ができていた。
食事の乗ったトレーを受け取り、一番端の席に着いた食事をかき込んでいると声をかけてくるものがいた。
「おはよう、新顔さんだね私は東雲香里シノノメカオリ、異能は重力の17歳、お兄さんは」
彼女もまた寛治と同じように女子用ブレザー姿だ。
霞はまた話しかけてくるヤツがいるのか、と思いながら答えた「柊霞ヒイラギカスミ24歳見ての通り半異の水異能と電気」
(女子高生じゃないか、こんな若い娘までつかまえてきて囲っているのか)
「おーー半異の人だ、今まで半異の人は誰もいなかったんだよ、レアだねレアキャラだねSSRだね」
すいぶんと馴れ馴れしい態度の女だなと霞は思ったがそういう態度を出さないようにすることにした。
「じゃあ今日から実習だね、楽しみだねぇ、あっ、しばらくは座学だったかここの所誰も入所していないからセンセとマンツーマンだよ、おっさんとマンツーマンだよ甘美だねぇイシシシ」
しばらく香里と会話しながら食事をし、食事がすんだあと部屋に戻り再び洗面所に向かった、洗面台は二つが使用されており残り一つしか空いてい無かった。
やはり朝のルーティンはみな同じ時間帯で、多少混むのだなと霞考えながら霞は歯磨きを終えた。
ベッドの上に座した霞は、思案していた(山田さんは欲しいものがあれが手に入るようなことを言っていたが、どの程度のものが手に入るのだろうか、多分情報が仕入れられるような、スマホやテレビはダメだろうな、他にも欲しいものがいろいろあるが駄目だろう、ゲーム機ぐらいはいいのだろうか暇で仕方がない)
そのようなことを考えていたところに部屋に音声が響いた。
「柊霞さん、柊霞さん、九時までに第一学習室にお越しください」
いきなり響いた音声にビクリとした霞は、傍らにあるパンフレットに目を通した「第一学習室は、ここか、しかし本当にいろいろな設備があるもんだな」
時計を見ると八時半を過ぎたころだった。
やることもないので、即座に部屋を出て第一学習室に向かった。
第一学習室の扉をノックして「柊霞です失礼します」と発して部屋に入った。
「おお、存外早く来てくれたね」ジャージを着た中年男性が教卓に持たれて足をブラブラとさせていた。
「俺は佐藤たかしよろしくな」
「柊霞です、水と電気の半異能です」
「ふん、自己紹介で異能を述べるとは早速誰かと仲良くなったな」
「ええ、はい」
「今日は異能についての座学だ、と言っても堅苦しいものではない、なにしろ異能にはまだまだ謎の部分が多いからな」
「それとこれは君に渡すものだ」
佐藤は霞にトートバッグを手渡して来た、中を見ると真新しい文房具が一通りそろっていた。
「さて、席について早速授業だ」
「と言うわけだ、ちゃんとノートに書いたか、水、木、土、風、火、電気、光、重力だ」
「ここからが重要な話だ、ゲームとか漫画であるだろう、相性ってヤツだ異能にもそれがある」
「お前の異能、水は土、風、火に強い、逆に木、電気、光、重力に弱い、と言っても重力は反則的な異能でな、能力者の資質にもよるがほとんどの異能に強い」
「ちょっと待ってください、水は電気に弱いなら俺の半異能は反発しあっているじゃないですか、なんですかそれ」
「気付いたか、山田先生も行っていたがまれなケースでな、俺も初めてのケースで驚いている正直なところ訓練はやりにくいだろうな」
「思ってはいたけれど本格的に外れじゃないですかどうなるんです?」
「正直に話そう、君は現場に出たとして使い物にならんだろう、前衛をサポートするか地味な後始末程度の作業にあてられるだろう」
「使い物にならない...無理やり連れてこられて足手まとい扱いですか、ひどすぎる、なら俺を放逐、元の生活に戻してくれてもいいじゃないですか」
「駄目だ、一度異能を発現したものは死ぬまで囲われることになる、それにな、君は世間的に死亡扱いになっている、存在しない人間だ、就職しようとしても手が回りどこも雇ってくれない、病院に行っても手が回っているため追い出される」
「ははは、死亡扱い...でも前衛に出られないならマフィアとかと戦わなくて済むんですよね」
「そうだと良いんだがな...」
佐藤は床を見つめたまま黙ってしまった、霞にはそれが最・悪・な・立・場・を意味することを理解するのに十分な態度だった。