57 能力開発④
博多に来てから四日目、霞は博多駅のすぐそばにあるビジネスホテルで朝食をとっていた。
(博多支部も良い所押さえてくれたな、なんか特別扱いされている気がするんだよな)
それもそのはずである、首枷を自在に外してしまうことから「枷無しの霞」と呼ばれており、今度は新しいスキルを発見したのだから、特別視されるのは当然のこと。
だが霞自身はそのことに気付いていない。
食器トレイを棚に戻しホテルの部屋へと戻る。
博多支部は九時から業務が開始されるため、霞はフロアで座禅を組み瞑想を始めた。
目を開けて時計を見ると八時過ぎだったので、シャワーを浴び、バスタオルで頭を拭きながら考えていた。
(あの人たち、家でも座禅組んでいるかな、堀田の例を見るからに自主練みたいなのが効果が高いんだよな)そう考え、下着とシャツを着て着替えを終えた。
「でもなぁ、堀田はあんがいまじめで人がいい所あるからなぁ」とつぶやき部屋を出た。
ロビーで異端をめくりニュース速報を見て暇をつぶす、が本を持って来なかったのが悔やまれていた。
しかし、よく考えたら博多でも書店くらいあるので、そこに行けばいいと思い当たった。
異端を操作して本屋を探すと、紀伊の国屋書店が近くにあることが分かり、訓練を終えたら行ってみようと考えてホテルを後にした。
「おはようございます」博多支店に集まった電気異能者の三人は大きな声で霞に挨拶してきた。
「じゃあ型通り座禅を組め、目を閉じて自然体になれ、額に第三の目があると思って感じ取れ」
霞もまた大きな声を出す。
「いいぞ、自然体の座禅に少しだけ近くなってきた、維持し続けろ」
そう言うと三人のうち一人に目をとめた。
その男は壁と天井をぼんやりと眺めている。
霞はその男に近づき肩に手を置く。
「おい、何が見えた」そう呟くと、男はびくりとして「壁と天井に光っている線が見えます」とぽつりと漏らした。
コートのポケットから異端を取り出し、霞はその男の前に置いた。
「異端を目を閉じて見てみろ」
「異端が光って見えます」と男は言う。
「良くやった、電視のスキル獲得だ」霞がそう伝える。
とたんに男は大きな声を出す、それに驚いた他の二人は目を開けて霞たちの方を見る。
「静かにしろ、喜ぶのはまだ早い、お前は全員が電視のスキルを得るまで同じように訓練を続けるんだ、電全員聞け、電視を獲得した後も毎日十分だけでも座禅を続けろ、当たり前になるように落とし込むんだ、そうでなければパワードスーツと対峙した時に死ぬぞ」
その場が静かになる。
その日はその後も訓練を続け午後はやくには終了した。
訓練を終えた霞は駅向こうにある紀伊の国屋書店に足を運んだ、このさいだからと気になっていた本を手当たり次第に選び、合計八冊の本を持ってレジに並んだ。
会計が終わりバックパックに本を入れ、ホテルへの道を急ぐ。
翌日は雨で、モッズコートのフードをかぶり博多支店へと走る。
この日も全員の大声のあいさつで訓練が始まった。
霞はもうほとんど声をかけることが無くなっていた。
(この子、なんとなくもうすぐ電視を獲得しそうな気がする)
そう思いこの日はほとんどその女の子を見ている状態になった。
今日の訓練も終了間近と言うところでその子が声をあげた。
「あっあっ見える、光ってる」と驚いたような声をあげる。
その様子を見た霞はコートのポケットから異端を取り出して、彼女の目前に差し出した。
そのとたん声をあげて飛びのきこうつぶやいた「みえました」
「良くやったな、電視スキル獲得だ」
その子は身体を前面にくにゃりとまげて額を床に付けた。
それから二日後、最後の一人が電視のスキルを獲得し、特訓は全て終了した。
「いいか、毎日十分で良いから座禅と電視を続けろ、このスキルはあまり使う場面が無い、だがいざ使う場面となると死がそこにある状態だ、生き延びるために毎日やれ」
霞がそう言うと全員が大きな声でそれに答えた。




