56 能力開発③
「霞君、君には九州支部へ行ってもらう」佐々木が開口一番そう言った。
「九州支部ですか、何か合同掃除でもあるんですか」霞が返す。
佐々木は霞を指さして言う「そうではない、先日君が取得したスキル電視を、九州支部の電気異能者にレクチュアして欲しい」
「つまり、電視を使えるように仕上げて欲しいと」霞は内容を理解した。
「その通りだ、明日の六時三十分に羽田空港から福岡に飛んでくれ」佐々木が指示を出して来た。
「ずいぶん早いですね」と霞。
「向こうとしても少しでも早くスキルを身に付けたいのだろう、異端にチケットのコードを送ってある、それを端末にかざせば発券される仕組みだ」佐々木が人差し指を動かしながら言う。
「服装はどのような」
「普段着で良い、下手にスーツなど着て行けば向こうも緊張するだろう、そう言うことなのでよろしく頼む」佐々木は言った。
(朝早いのは別に良いが今日で明日ってのはさすがになぁ、全員が電視を身に付けるまで帰れないんだろ、着替え全部持って行かないとな、まぁ危険が無いのは良いことだけど)
霞はそのように思考しながら、部屋に向かった。
翌朝、霞は暗い中池袋駅に入り、山手線に乗ると今度は浜松町から東京モノレールに乗り換えた。
湾岸沿いの景色は暗くても海が広がっているのがはっきりと分かり、所々に警告灯のようなものが光って見えた。
羽田空港に到着すると第二ターミナルに急いだ。
十二月末とあり正月飾りが所々に設置してある、第二ターミナルで手荷物検査を受けるとそのまま搭乗口へ向かうと、想像よりも人の量が多かった。
(早めに帰省できる人たちなのかな、そうか正月近いもんな、俺は正月でも電視の教官みたいなことをしなければならないんだろうな)
そう思うとげんなりした。
やがて搭乗時間となり飛行機に入り、シートに座ると霞はすぐに寝入ってしまった。
次に目を開けたのは着陸のアナウンスを告げる放送が聞こえた時だった。
しばらくすると窓から空港の滑走路が見え、飛行機はそのままスムーズに着陸した。
飛行機を降りると階段を降りて回廊を進み着陸ゲートを出た。
周囲を見回すと「ニコニコ人材センター池袋支店様」と書かれた看板を持った眼鏡の男性が目に入った。
「おはようございます、池袋支店の柊霞です」
「あ、はい、おはようございます、博多支店の吉田健治と申します、あの、あなたがあの枷無しの霞さんですよね」と吉田は聞いてきた。
「はぁ、そのように呼ばれているようですね」と霞は苦笑いをする。
それに気付いたのか「いや、失礼しました」と頭をさげる。
その後は吉田に案内されてタクシーに乗った、二人は無言である。
仕方なく霞が話し掛ける。
「博多と言えばやはり豚骨ラーメンですか」
「はい、屋台がすごいですよ、川沿いにずらりと店が出て、どの店もウチが一番だってな具合でして、そうそう、実はホルモンやもつ鍋もおいしいんですよ、こう、透明でとろけるような、何人か揃って食べるのが盛り上がりますね」
その後は吉田による博多の名所案内が続き、気が付いたら博多支店に到着していた。
池袋支店と同じくビルの二階にあったがこちらの方が新しい建物に見えた。
二階へ上がり支店に入ると、吉田は二つあるドアの一つを開けて中に入った。
ソファには男が二人と女が一人腰かけていた。
「みんな、池袋支店の柊霞さんがみえたよ」
と吉田が声をかけると、全員立ち上がった。
「池袋支店の柊霞です、よろしくお願いします」
霞が頭をさげると、博多支店に集まった九州支部のメンバーがそれぞれ自己紹介をしていった。
全員が電気異能者である。
霞がすぐ始めるか、と言うようなことを言うと全員に緊張が走った様子だった。
「大丈夫です、運動も痛いことも、いや座禅が痛いかな、座禅を少しやる程度です」
そう言って室外へ出た。
「あのう、訓練所をおさえた方が良いでしょうか」と吉田が話しかけてきたが「いえ、大丈夫です、ここのスペースがあれば十分です」とフロアを指さした。
「座禅は形だけでもいい、最初は痛いが背筋を伸ばして自然な姿勢を探せ、心を落ち着けろ、ホラ猫背になってる」
霞は鋭い声で三人に指示している。
「目で見ようとするな、額に第三の目があると思え、呼吸を整えろ」
後ろ手に組んで胸を反り指示を出している霞を見て吉田はあっけにとられている。
「三十分一本で、終わったら三十分休憩だそれを三本だけだ、大したことは無い、今後増えるようなことは無い、目的は慣れることだ」
最初の三十分で皆足腰をやられたようすで、各々脚をもみほぐしたり伸ばしたりしている。
(堀田の時は一週間だったが、はたしてどうなるかね)
霞は床で喘いでいる三人を見てそう考えていた。




