55 能力開発②
「と言うわけで冲田さんから直の指示で堀田に例のスキルを教えることになりました」
霞は佐々木の部屋にあるソファーに腰かけながら言った。
「君に直接会って話を聞くとは冲田さんも今回の件を重く見ているようだな」
佐々木はその場にいる支店メンバー四人に言葉を発した。
「そ、それはまだこの件が根深いものだと言うことでしょうか」と緑川が佐々木に問いかける。
「そう言うことになる、この件は日本全国の支店に共有され現在最も重要視されている案件だ」
「俺が霞君のスキルを習得するってことですよね、本当にできるとは思えないんですけど、二年支店にいてそんなスキル影も形も見えたことが無いのに」堀田が不安そうに言う。
「多分大丈夫だ、それほどかからずに習得できると思う」霞が堀田の方を向いて話しかける。
「根拠はあんの」堀田がそれに返す。
「施設では電撃を出したり飛ばしたりと攻撃メインの訓練だったんだろう、そうなると自然、身体はそう言う風に馴染んでいく、だが電気の流れを見るスキル、仮に電視としようか、それは全く省みられず、奥の方に押し込められる形になってしまった、だが本来視覚情報と言うのは最も自然に意識なく得られるものだ、初歩なんだよ、本来は」
「なるほどな、視覚情報の延長線上にあるスキル、本来自然な形と言うわけか」佐々木が腕を組む。
「じゃあ堀田、今から訓練開始だ」霞が投げかける。
「え、うそでしょ」堀田は面食らった顔をした。
堀田が支店のフロアで座禅を組んでいる。
最もガチガチで座禅と呼べたものではない。
「身体の力を抜け、考えるな、目で見ようとするな、第三の目が額にあると思え」
「そうは言っても痛くてさぁ」堀田が弱音を吐く。
「喋るな、自分の異能を見続けろ」霞は冷たく言い放つ。
三十分後には堀田の脚に限界が来て終了となった。
「これを毎日やる、暇があれば自宅でもやると良い」
「宿題付きかよ」と頭を垂れる堀田に霞が声をかける。
「死ぬぞ、あの時俺が電視を得ていなければ多分全滅していただろう、またパワードスーツ絡みの掃除があった場合、お前が電視を使えなかったら全員死ぬかもしれんぞ」
堀田は顔をあげて霞を見ると黙り込んでしまった。
「柊さん、なんかその、き、厳しくないですか、いつもと違うというか」緑川が御剣に向かってささやく。
「あれも柊さんの一面と言うところでしょう、それに話していることは本当です、次は生きて帰れる保証はありませんから」
御剣の話しに緑川は小刻みに頷いた。
それから一週間。
「うん、今日はここまでだな、座禅が様になってきているぞ」霞が声をかける。
「だろぉ、座禅ちょっとハマっちゃってさ、家でちょこちょこやってたんだ」堀田は嬉しそうにしている。
「霞師匠どんな感じかな、俺のスキル」堀田が手を広げながら霞に話しかける。
「正直なところを言うと、今の空気はかなり良い感じだった、疲れていると思うが三十分後に再開するぞ」
霞の声に堀田はサムズアップで答えた。
訓練を再開したしばらく、堀田の様子がおかしくなった顔を動かしたり一点を見つめたりしている。
霞はそれに気付き堀田に話しかけた。
「堀田、おい堀田」
彼は声に反応しない。
霞は堀田の肩に手を置いて大きく揺り動かした。
「へっ、んん、キラキラしてた」と要領を得ないことを口走る。
「何か見えたんだな、堀田」
「おぉ、霞君、キラキラしたのが見えていたというかなんかあった」
霞はそれを聞いて「異端」を上着のポケットから取り出して堀田の前に置いた。
「もう一度目を閉じて異端を見てみろ」霞が堀田の肩に手を置いて話しかける。
堀田はそれに従い、暫くすると。
「異端が光ってる、なんか流れているのがわかる」と叫び声をあげた。
「見えたな、それが電視のスキルだ、正直ここまで速いとは思わなった、本当に家で座禅してたんだな、今後はいつでもそれができるように合間合間に訓練するんだ」
「よっしゃぁああああ」堀田が叫び声をあげると、佐々木が部屋から出て来た。
「なんだ、さっきからうるさいぞ、気でも狂ったのか、ん、そうか例のスキルを身に付けたんだな、堀田」
「そうなんですよ、電気の流れが見えるんですよ、これ面白れぇなあ」と堀田は目を閉じて喜んでいる」
「霞君、大丈夫そうかな」佐々木が霞に話しかける。
「はい、毎日少しづつ訓練を続けて行けば確実に安定されると思います」
佐々木は息を吐きながら言う「うん、実績が出来たな、これで次は堀田が他者に教えて、ソイツがスキルを得たらまた次へとなるわけだな、ああ、霞君もまだ続けてもらうぞ、スキルの発見者だからな」
面倒ごとが増えたなと霞は首をひねった。




