51 警察官
「殺人の案件だ」
佐々木は開口一番そう言った。
「荒川と入間川の合流地点に水死体が二体上がった、二日後には約一キロメートル下流で別の水死体が発見された、身元を調べるといわゆる反社の連中でな、まぁ何でもやるが闇金が主なシノギらしい、団体名はネクストファイナンスだそうだ」
三人の名前と顔写真が佐々木の背後にある液晶ディスプレイに表示される。
「司法解剖した結果がだな、主な死因は感電死だそうで、はっきりした電紋が確認されたそうだ、芥はこの男だ」
佐々木はもう一人の痩せぎすな男の写真を表示した。
「この男はだな、ギャンブル中毒と言うやつでな、いくつも借金をしており、ネクストファイナンスの連中が貸し倉庫に呼び出していたそうだ、残った連中が揃ってそう証言した」
「反社が殺しをやるのではなく、顧客に三人も殺されるのは珍しいですね、あっ感電死」霞が何かに気付く。
「気付いたか、芥は電気異能者である可能性が非常に高い」
佐々木が痩せぎすな男を指さす。
「さらに、だ、貸し倉庫を調べていた警官が芥に遭遇しその際一人死んでいる」
「まだ、貸し倉庫にいる可能性があるんですか」御剣が声を出す。
「いる、現在警察が倉庫の周辺を固めており、出入り口をシートで覆い報道規制をかけている、つまり我々の出番と言うわけだな」
佐々木は掌をㇵの字に広げて見せた。
「東京公衆衛生局」のバンに揺られている霞と御剣は無言だった、はっきりと殺意を持った芥は危険だからだ。
反社の連中に飼われている異能者はまず「脅し」「怪我」「殺人の示唆」と段階を踏んで相手を掌握する、馬鹿ではなくリスクを回避しつつ目的を遂げるやり方である。
休日の都内は混んでいる、予定よりも時間がかかりようやく現場に到着した。
「どこから報道がとらえているかわかりません、これを着用してください」運転手がナイロンのグレーのパーカーを渡してくる。
背中には「東京公衆衛生局」の文字が入っている。
フードを被りバンから外に出る。
「掃除屋です」御剣が警官に声をかける。
怒鳴り声が上がるようなやり取りのあとに、警官はシートを広げた。
御剣が先頭に立ち敷地内を進んでいくと、写真の男が姿を現した、隠れるつもりもないようだ。
「お前たちも殺すぞ、さっさと帰れ」男がそう叫んで手をあげるそぶりを見せた瞬間、御剣は両手を地面に付け壁を立ち上がらせた。
男の電撃が当たる音がする。
「芥を確認」
「芥を確認」
二人同時に声を出す。
「御剣さん、行きます」霞が御剣の肩を叩く。
「だいじょうぶですか、いえお任せします」と御剣。
霞は壁の影から姿を現し歩んでいく。
「来るな」男は叫び電撃を連射してくるが、霞は紙一重でそれをかわして距離を詰め、「縮地」を使い瞬時に男の目に前に到達し、足を払って転倒させた。
転倒したところに、足で腹をけりつけて押さえ込んだ。
「動きに無駄が多すぎる、エネルギーを使い過ぎだ、だいいち制御が出来ていない、四人も殺して能力による愉悦を感じている、全て駄目だ」
霞は男の腹をぐりぐりと踏みつけており男は悶絶している。
「痛みに負けて異能が使えなくなる、それも問題外だ」
そう言うと霞は水糸を繰り出し首に触れ、電撃を流して昏倒させた。
「回収を呼びます」霞が異端を操作するとすぐに白衣の作業員たちが駆け込んできて、芥を担架に乗せて戻っていった。
支店の佐々木の部屋で霞と御剣は佐々木から説明をうけていた。
「つまりだ、今回の掃除は初めから警察のヤマだった、それはいつもと一緒だが、警官に死人が出ている、同僚を殺害されたとあっては警官としても人としても抑えがたいものがあっただろう」
佐々木は椅子を軋らせる。
「そこに我々が横から出てきてコトの始末をやらせろと言うのだ、しかも聞いたこともない組織となればそれは面白くなかろう、上の方ではもう了解しているが現場は黙ってなかろう、我々は警察官に疎まれる存在だと言うことだな」
「その辺りはもう御剣は十分に理解している、今回は霞君にこのことを知ってもらうために現場に入ってもらったと言う意味合いもあったのだ」
佐々木は霞の方を見てそう言った。
(御剣さんも堀田に緑川さんも、好きで備わった能力でもないのに、首枷を付けられて行動制限があり正式な身分もない、そのうえで警察官からも疎まれる、ひどい話だ)
霞は床の傷を見つめながらそう思った。




