50 説得
部屋を出た霞が支店の佐々木の部屋に入ると、すでに御剣がソファに座っていた。
液晶ディスプレイには六名の老人男性の顔写真が映し出されている。
「今回の掃除対象はこの六名だ、とは言っても普段のような荒事ではない、大人しく説得すれば済む危険が無い掃除だ」
「何をやったんですこの六人は」霞が佐々木に問う。
「機密漏洩罪だ」
「どんな機密なんですか」と御剣。
「君たちはベトナム戦争を知っているか、南ベトナムと北ベトナム、それぞれに大国ロシアとアメリカが付いたいわば代理戦争だこれがこれが十九年間続き、双方大量の犠牲者が出た」佐々木がソファから立ち上がる。
佐々木が口を開く「こんな都市伝説を耳にしたことが無いか、自衛隊がベトナム戦争に参加していたと言うものだ」
「異管でいまこの話がで出てくると言うことは、都市伝説ではないと言うことですね」御剣が返す。
「その通りだ、自衛隊員は六十八年のテト攻勢をきっかけに米軍のなかば強制で部隊を投入することになった、六百名投入され戦死者は八十五名、と記録されている」
「当時は報道が相当に入っていたはずです、自衛隊が投入されれば嫌でも気付かれるのでは」霞がしごく明快な返答を返す。
「武器弾薬に装備まで全て米軍から支給され、名目上は日系人部隊とされていたそうで、ゴーストプラトーンと呼ばれていたとある」
「それがなぜ今になって話題に」霞が問う。
「そうだな、仮に大国のR国としよう、その国がU国に進行して現在も交戦状態にあったとする、それを受けてベトナム戦争当時派兵された元兵士はこう思ったわけだまた同じことが起きる」
御剣が声を出す「その人たちは何かしたんですか」
「SNSやブログでベトナム戦争当時の体験を発信しだしたのだ、とは言え都市伝説として一蹴されたが、とあるインフルエンサーが詳細に分析したところ、実際にあったかもしれないと結論付けた」
「それで一気に話題に」霞が返答を促す。
「そうだ、各報道機関もそれに乗っかる形で記事をあげるつもりで、野党議員は国会に提言するつもりらしい、大スキャンダルだな」
「それを行っているのが写真の六名と言うことですか」と霞。
「そう言うことになる、荒事はだめだ、今回も通常道理に掃除と呼称するが、することは説得だ」佐々木が返す。
「それなら警察で十分では」霞の問いに佐々木が返す
「君たちだからこそ出来るのだ、何を話しても構わん見せても構わん」そう言うと佐々木は首をつんつんとつついた。
「上井草乗り換えですよ」御剣がボーツとしていた霞に声をかける、乗換駅で電車を降り上井草駅で降りるとどこかで聞いたようなアニメの音楽が流れてきた。
(堀田なら何の曲かわかったんだろうな)
そう考えて商店街を抜けて何度か道を折れ公園のそばにある古びたマンションに到着した。
エレベーターで四階まで上がると一室の扉にあるインターホンを押した。
「はい、どなたですか」と声があり、霞はそれに答える。
「連絡しておいた愛豊新聞です、取材に来ました」
すぐに扉が開き老人男性が姿を現した。
「良く来てくださいました、今日は全員揃っております」
霞たちは和室に通され正座したまま話をする。
型通りの会話をこなすと霞が口を開いた。
「申し訳ありませんが、愛豊新聞なんてウソなんです、ある政府機関の人間です。
「どういうつもりだ、俺たちを連れて行くつもりか」老人全員が怒りをあらわにする。
「そんなことはしません、話しをするだけです、御剣さん」
そう言われて御剣は首のスカーフを取り、首枷をあらわにした。
そこから霞は自分たちの立場、首枷のこと、掃除のことなど細かく話して聞かせた。
「信じられん、そんなことが起きているなんて」と老人の一人がつぶやく。
「そこです、あなたたちもその信じられないことを体験したのではないのですか」
はたと気付いたと言う顔をする老人たち。
「日本政府はあなた方の頃から今現在俺たちまで、まるで変っていません、ですから自身のことをよく考えていただきたい、俺たちが帰れば今回の内容も報告が上に行きます、検討を願います」
霞は立ち上がると玄関ドアの方に向かった。
「待ってくれ、どうすればいい、ブログもSNSもどうすればいい」老人が問う。
「ネットでの反応としては架空戦記説が強いです、架空戦記でしたでしめくくり謝罪をすれば済むでしょう、一か月としないで話題に上がらなくなりますよ。
御剣はマンション近くの公園で霞に話しかけてきた。
「あれで良かったのでしょうか」
霞は答える「人は行間を読みます、あの人たちは多分このままだと殺されると解釈したでしょう、そんなこと一言も言っていないのに、異能者が存在することで国がどこまでするのか想像したはずです」
「ブラフですか」御剣は尋ねる。
「そうです、ハッタリですね普段より疲れました」
そう言って霞と御剣は公園を出た。




