48 新宿御苑
千葉ニュータウン立て籠もり事件から数日後、霞がいつも通りイメージトレーニングをしていると、異端に着信があった。
「異共」を見ると「東雲」のアイコンに①のマークが付いていたので、タップして開く。
「東雲だよ、この間の立て籠もりって霞君が掃除したんでしょ、お疲れ様会ってことで新宿御苑に遊びに行かない、いつなら空いてる」
と文章が表示されていた。
丁度明日が空いていそうなのでその旨を東雲香里に返すと、すぐに返信があった。
「じゃあ明日十時に新宿御苑の大木土門前で待ち合わせね、よろしく」
と言う簡素な物だった。
(御苑ってどう行くんだ、新宿なんだからそう遠くないはずだけど)
霞が「異図」をめくると、東京メトロ副都心線で新宿三丁目まで行き東京メトロ丸の内線に乗り換えれば良いことが分かった」
「十五分程度か近いな」そう言って霞は、今度は新宿御苑のサイトを覗くことにした。
(色々なエリアがあるけどこの図面だとどれくらい大きいか全然わからないな)
そのようなことを思いながら霞はイメージトレーニングに戻った。
翌日、霞は早めに部屋を出て池袋駅西口から駅構内に入った。
程なくすると「新宿御苑前」駅に到着し、五分ほどで「新宿御苑の大木土門前」に到着した。
東雲はまだ到着していないようだった。
五分ほど経過したころ、黒のスキニーに白のボーダーシャツ、黒のパーカーにモノクロのスニーカーを履いた女性が、手を降りながら霞の方に向かってきた。
「待たせてごめんね」
「いや、俺が早く着いただけだから」霞はそう言ったあとに「黒スキニー似合ってるね、足がきれいに見えてる」と東雲に伝えた。
「いやいやいや、そんな大したものでもないよ、でもありがとねー」と笑顔を見せた。
「それより霞痕こそ、足元がダガーのブーツだね、シャレオツだね」
と指さして来たので、霞はありがとうと返した。
「さっそく行こ」東雲が歩き出すのでそれについて行く。
ゲートをくぐると広大な芝生広場が目に入った。
「おぉ、デカい、すごいな」と霞が驚いていると、東雲が言葉をかけてきた。
「ここはほんの一部だよ、円形になっていてね、色んな建物や名所に里山もあるんだよ、すごくない、今だと紅葉は、まだ早いかな」と早口で東雲は言う。
「取りあえずぐるっと一周してみよう」と東雲。
山茶花や花壇など色とりどりの花が目に入る。
「春じゃなくても花が見られるのは良いよね」と東雲。
「何度か来たことあるの」と霞が話しかけると、東雲は振り返る。
「四月に一人で来たことがあったんだけど、すっごく良かったから今度は誰かと来たいなと思っていたの」
そのまま話をしながらしばらく進むと里山エリアに入った。
「ここが好きなんだ、御苑って東京のエアスポットだと私は思うんだ」
そう言ったあと東雲は霞の手を握って来た、あまりにも自然な流れだったため、霞は特に気にも留めずそのまま歩いて行った。
日本庭園をめぐり休憩エリアに入るまで二人とも無言だった。
芝生エリアに入ると、東雲は手を放し「お弁当作って来たんだよ、ここの芝生の所で食べよう」と上ずった声で言った。
東雲は持ってきたバックパックを開けて、レジャーシートを広げた。
レジャーシートにはデフォルメされた柴犬の絵がいくつも描かれている。
そしてサーメスの水筒に白い紙箱をいくつか取り出した。
「霞君すわってすわって」
そう言われた霞はブーツの紐を解き、ビニールシートに座った。
「白い箱は何」と霞が聞くと「サンドイッチ」と東雲は答えた。
「あとは唐揚げもあるのだよ、みんな大好き唐揚げだよ」
東雲はてきぱきと食事の用意をして、カップに暖かい紅茶を注いだ。
「「いただきます」」
霞はサンドイッチに手を伸ばし次々食べていく「うん、美味しいねこのサンドイッチ、唐揚げも」霞がそう言うと、東雲は東雲は、もにょもにょした笑顔を見せたのち良かったと言う。
食事が終わるとと二人してシートに寝転がった。
「本当に東京のエアスポットだね」と霞が投げかける。
「そうでしょそうでしょいい所なんだよ」と東雲は嬉しそうな声で答えた。
しばらくして、東雲がそろそろ帰ろうと言い出したので荷物をまとめて大木土門前のゲートをでた。
先に立って歩いていた東雲香里は、急に振り返ると。
「今日は付き合ってくれてありがとね」と言うと霞の手を握って来た。
そしてまた振り返り駅方面に小走りに向かって行った。
(楽しかったけど振り回されっぱなしだった気もするな)
そう考えながら霞も駅方面へ足を踏み出した。