46 立て籠り①
日が落ち始めた頃に霞は支店に呼び出された。
佐々木の部屋に入るとすでに三人は揃っており、堀田がこう言った「霞君の部屋はここに一番近いのに一番最後に来るとは、重役出勤だね」
それを聞いた佐々木が答える「だから君たち三人が揃ってから連絡を入れたのだ」
堀田は頭をかいた。
佐々木は自分の後ろにある液晶ディスプレイの電源を入れた。
「千葉ニュータウン立てこもり五時間、銃を所持している恐れ」の見出しの下にアナウンサーが見え奥にはスーパーマーケットのようなものが、映っている。
「やっぱこれだ、佐々木さんこれを掃除しろって言うんですよね」
その通りだと佐々木が答える。
ディスプレイには警察官が何人も映り込んでおり、機動隊の姿も見える。
「機動隊まで出ているなら我々の出番は無いのでは」と霞が佐々木に問う。
「確実性が必要なのだ、何度も言うが警察官を死なせてはならない、そうとなれば君たちの出番になる、いつものことだろう」
「異能者の命は軽い」堀田がふざけ半分に言うと佐々木は片手をフッと振り「そうだ、それがこの国の決定したことだ」
全員が沈黙する
「なぜ全員呼び出されたのですか基本的にバディで動くのでは」と御剣。
「決めかねているのだ、この建物内は比較的広く見通しが良い、こういう銃を持った立て籠もり犯の場合、奥の角に陣取る例が多くてな、霞君の水糸は半異のため有効範囲が短い、だが堀田ならその倍で犯人から距離を取って電撃を飛ばすことが出来る」
「で、ですが床が木じゃないと壁を利用できません」と緑川が言葉を返す。
「そこだ、霞君たちは壁が使えて防御面に優れている、反面攻撃力に難がある」
「私の石つぶては」と御剣。
「そこも考慮したのだが、一撃で昏倒する必要があるのだ、すまないが君の能力では不確実なのだ」
「わ、私の木杭ではどうでしょうか」緑川が声をあげる。
「君は木の杭を飛ばして手足などに突き刺し、致命傷を避けつつ無力化する能力を持つが、それでも完全に行動不能と言うわけにはいかない」
「ここは壁が使える俺達が行きます、良いですか御剣さん」霞が御剣に話しかける。
「柊さんが言わなければ私が言うつもりでした」笑顔で御剣が言葉を返す。
そこに堀田がちゃちゃを入れる。
「さすがバディ通じ合ってるねぇ」
「そんなんじゃないです」と御剣が言う。
その様子を緑川はじっと見つめていた。
霞たちは「東京公衆衛生局」のバンに揺られていた、都心の灯りが眩しく、どこもかしこも渋滞していた。
「九段下」の看板がフロントガラスに映り、しばらくすると「一ツ橋IC」の方向へバンは舵を切った。
高速はスムーズに流れ東に向かっている、二人とも無言である。
「あ、江戸川区に入りましたね、ここはディジャニーランドのある区なんですよ」と御剣が話しかけてくる。
「え、どこですか」と霞がいうと「ちょっと見えませんね」と御剣。
「ディジャニーランドか、行ったことないですけど、楽しいんでしょうね」霞が話を振ると「実は私も無いんです」と御剣が返して来たので霞が笑うと、御剣も同じように笑った。
しばらくして「船橋IC」の看板が見えるとバンは左車線にはいり、そのままインターチェンジを出た。
そこから十分も行かないうちに警察車両とテレビ局の車両に囲まれた非常線で、停車した。
運転手が何事かやり取りした後バンは中に入り停車した。
「そこの袋に入っているコートを着てフードをかぶってください」と運転手が言うので、袋から中身を出すと、フードのついたナイロン地の薄いコートで、背中には「東京公衆衛生局」と書かれていた。
コートを着て外に出ると御剣は「手慣れたもの」かのように進み「生鮮SHOP」の看板前まで行き、警官に話しかけた。
「掃除屋です」と御剣。
「聞いて無いよ、ちょっと下がって」と警官がにらみを利かせてくると、それに対して御剣は「現場のトップに無線で伝えてください「掃除屋がきた」と、早くしないと叱られますよ」と、言葉を返した。
面食らっていた警官は、陰に入って無線で何かやり取りをしていたかと思うと急いで戻って来た。
「失礼しましたどうぞ」と警官が道を開ける中、御剣は黄色いテープをくぐり自動ドアから中に入った。
御剣の行動にぽかんとしていた霞だったが「御剣さん危ないですよ」と制止した。
「見える限りでは芥は確認できません、それに近くにいたらとうに警官が打たれています」
さすがに三年「掃除」しているだけのことはある、そう言うこなれ方だった。




