45 新しいスキル
先日、重力異能者と交戦した時のことをずっと考え続けていた霞は、ある結論に到達していた。
それは「新しいスキル」を身に付けることである。
(また重力能力者とまた相まみえることになった場合、あの時みたいにうまくいくかどうかわからない)
重力異能最大の有利点は、自身を空中に浮かせることが出来ることである。
相手の有効距離外に出て、高所を取ること、これがどれだけ有利になることか。
「感覚的には出来るはずだ」
そう言った霞は、異端を操作して、異能力訓練所の利用時間を調べたがほとんど埋まっていなかった、十三時から十八時までの時間帯を予約して、送迎の項目をタップした。
三十分ほど経過したところで、出入り口のチャイムが鳴り、作業着姿の男性が姿を現した。
「異能力訓練所への送迎の者です」霞はそれに応えて、男と一緒に階段を降りた。
「東京公衆衛生局」のバンは異能訓練所へ向かって走り出した。
東京湾の倉庫地帯に入り、一つの倉庫の前で停車した
作業着の男は倉庫の隅にある扉を開けて言った。
「では五時間後の十八時にお迎えに上がります」
霞はそれに手をあげて答えた。
「さて、やりますか」
コンクリートの上にスノーボードの形をした水板を作成した。
その上に乗り、水で足首までボードを固定すると、ゆっくりと上昇しその場で停止すると、今度は下降した。
(思った通りだ、俺は水を自在に操ることが出来る、だったら水に乗ってそれを動かせば身体ごと上昇下降することが出来る)
霞は水板のコントロールを段々激しいものに移行していった、動きはスノーボードそのものである。
(学生時代にスノボやり込んでおいたのが役に立ったか)
しばらくその様子で訓練を続け、腹が減ったので倉庫の隅にある、テーブルと椅子につき、スポーツドリンクとエネルギーバーを食べ始めた。
しばらくして食事を終えると、腕組みをしてパイプ椅子にギシリともたれかかった。
(何か違うな、要領よくできてはいるがただそれだけの感じだ、スノーボードの域を出ない、身体に染み付いているんだ、これは異能だからもっと多次元的に動けるはずだ)
霞はパイプ椅子を軋ませて立ち上がり、足元に水板を出現させる。
水板は垂直方向に飛び上がり、倉庫の天井付近に達すると一回転をして、今度は床に向かって疾走し、墜落寸前で水板をスライドさせて倉庫の壁まで到達すると、また垂直方向の上へ切りもみながら天井に到達し、回転しながら壁に沿って床に降りた。
「うん、この感じだ、これなら重力異能に対抗できるかもしれない」
そう呟くと再び訓練に戻る。
倉庫利用時間の終了十分前を告げるアラームが鳴り響いた。
「おっ、もうそんな時間か」霞は水板を消し荷物をまとめた。
(エネルギーバーを食べ切ってしまった、この技は腹が減るな、そうポンポンと使えるわけじゃなさそうだな)そう思いながら倉庫を出た。
「東京公衆衛生局」のバンはすでにそこにあった。
運転席から作業服姿の男がおりてくると「お疲れ様です、施錠させていただきます」と言いながらドアに向かいドアのキーを閉めた。
辺りはすっかり薄暗くなっている。
高速道路を走るバンの中で霞は考えていた。
(これはまだまだやりこむ必要があるな、何よりこれは楽しい、スポーツかレジャーのそれに近い感覚だな)
そうこうしているうちにバンは霞の部屋の前で停車した。
霞はバンを降りて運転手の男に礼を言う。
階段を上がるとすぐシャワールームに向かい身体を洗った。
シャワールームから出て身体を拭きスウェットに着替え、そのままベッドに入った。




